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著者プロフィール
川上 宗薫(かわかみ そうくん)
大正十三年愛媛県生まれ。九州大学英文科を卒業後、千葉県で高校の英語教師のかたわら、創作活動に精進。昭和三十年『或る目醒め』でデビュー。以後、ジュニア小説を経て官能小説の第一人者となる。 「三田文学」 に予備校生の性のめざめを描いた『初心』を発表。著書に『人妻』『官能教室』『日本官能地図』など他多数。
大正十三年愛媛県生まれ。九州大学英文科を卒業後、千葉県で高校の英語教師のかたわら、創作活動に精進。昭和三十年『或る目醒め』でデビュー。以後、ジュニア小説を経て官能小説の第一人者となる。 「三田文学」 に予備校生の性のめざめを描いた『初心』を発表。著書に『人妻』『官能教室』『日本官能地図』など他多数。
解説
人気風俗評論家として知られる葉子は気軽な性の愉しみを悪徳と信じていた。しかしある日、葉子のファンだという青年・寺島の真摯なアプローチにあっけなく陥落してしまう。夫への罪悪感をおぼえつつも、寺島との情事に不潔さを感じられない葉子。そして彼女は次第に、他の男たちとも関係するようになってゆく。
表題作ほか4編を収録した、官能小説集。
表題作ほか4編を収録した、官能小説集。
目次
スキャンダラス
情事と黒幕
夫婦和合術
殺しの犬
官能少女
情事と黒幕
夫婦和合術
殺しの犬
官能少女
抄録
加津子は男によって一つずつ脱がされ、裸にさせられ、横たえられた。
加津子はずっと眼を閉じていたので、男の裸を見はしなかった。彼女が感じていたのは、においと感触だけである。煙草くさいにおいの中に枯れた男の体臭があり、それは決して強いものではなかった。その強くないにおいでもって加津子はいつも鼻腔を一杯にさせられていた。
感触は、きわめてやわらかな繊毛のようであった。男は毀れ易いものを扱うような手つきでもって彼女の体を扱ってくれたが、ときどき腕や足を把むその握力にはかなりの力があって、その強い握力は、加えられる繊毛のような愛撫にアクセントを与えていた。
「初々しい乳首だ。ふっくらとして、どこもここもやわらかで、鍛えられた筋肉がどこにもないのがいいね、体操とか運動とかしちゃあいかんよ、やるなら日本舞踊だ、ここもやわらかい、そして、ここも……」
男は、加津子の体のいろいろの部分を掴むようにした。加津子は快いマッサージを受けているようだ。そして、自分の体がトロトロと溶け、体の芯が熱くなってゆくのを覚えていた。
「だんだん力が脱けてゆくね、ほんとにいい体だ、寝顔もいい、瞼や唇や頤や手指が顫えてる」
加津子は、安心してすっかり男に自分を委ねていた。加津子の肌は、時間が経つにつれて敏感になっていた。初めはくすぐったい感覚があちこちにあったのだが、そのくすぐったさはやがて快感へと変り、普段ならくすぐったくてたまらない部分を愛撫されることをむしろ彼女は望んでいた。加津子の腋窩には毛がまったくない。その無毛に男は満足し、そこに唇を貼りつかせてきた。
じっさい男の唇や舌や指の腹は彼女の肌や粘膜に貼りつき、薄い膜をそっと剥がれるような感覚をそのたびに加津子は経験していた。
加津子は、新しい刺激と感覚を経験するたびに自分の口から「ああ」という歎息が出ていることに気づいていなかった。
加津子の乳房の腋に近い裾野のあたりから乳首に向って、敏感さが深まってゆき、乳首に至って、それは頂点に達し、その頂点が転がされたりやさしく咬まれたりすると、頂点は溶け、頭の芯に電気が走る。
加津子は、やがて、息がとまるような感覚を覚えていた。その部分がいったい自分の体の中のどんな位置にあるのか、どんな働きをしているのかもわからないが、とにかくその敏感さは乳首のそれとはちがって、もっと深い。
加津子が初め揃えていたその足は徐々に角度を持たされていた。角度が大きくなるにつれて、快感もまた深い。あのトロトロとした感覚は今排け口を見つけて、溢れ、彼女は幾度も「ああ」といった。
「前人未到の香りがする。陽の差しこむことのなかった翳りの香り。しかし、この領域には、頑強な若い力しか迎えられないのかもしれない。そのくせあなたはぼくを誘ってる」
加津子の体に苦痛が一瞬走ったが、すぐにおさまり、不慣れな感覚が続いた。加津子は男が侵入しているのだと思っていたが、あとで、それが男の指であることを知った。(「官能少女」より)
加津子はずっと眼を閉じていたので、男の裸を見はしなかった。彼女が感じていたのは、においと感触だけである。煙草くさいにおいの中に枯れた男の体臭があり、それは決して強いものではなかった。その強くないにおいでもって加津子はいつも鼻腔を一杯にさせられていた。
感触は、きわめてやわらかな繊毛のようであった。男は毀れ易いものを扱うような手つきでもって彼女の体を扱ってくれたが、ときどき腕や足を把むその握力にはかなりの力があって、その強い握力は、加えられる繊毛のような愛撫にアクセントを与えていた。
「初々しい乳首だ。ふっくらとして、どこもここもやわらかで、鍛えられた筋肉がどこにもないのがいいね、体操とか運動とかしちゃあいかんよ、やるなら日本舞踊だ、ここもやわらかい、そして、ここも……」
男は、加津子の体のいろいろの部分を掴むようにした。加津子は快いマッサージを受けているようだ。そして、自分の体がトロトロと溶け、体の芯が熱くなってゆくのを覚えていた。
「だんだん力が脱けてゆくね、ほんとにいい体だ、寝顔もいい、瞼や唇や頤や手指が顫えてる」
加津子は、安心してすっかり男に自分を委ねていた。加津子の肌は、時間が経つにつれて敏感になっていた。初めはくすぐったい感覚があちこちにあったのだが、そのくすぐったさはやがて快感へと変り、普段ならくすぐったくてたまらない部分を愛撫されることをむしろ彼女は望んでいた。加津子の腋窩には毛がまったくない。その無毛に男は満足し、そこに唇を貼りつかせてきた。
じっさい男の唇や舌や指の腹は彼女の肌や粘膜に貼りつき、薄い膜をそっと剥がれるような感覚をそのたびに加津子は経験していた。
加津子は、新しい刺激と感覚を経験するたびに自分の口から「ああ」という歎息が出ていることに気づいていなかった。
加津子の乳房の腋に近い裾野のあたりから乳首に向って、敏感さが深まってゆき、乳首に至って、それは頂点に達し、その頂点が転がされたりやさしく咬まれたりすると、頂点は溶け、頭の芯に電気が走る。
加津子は、やがて、息がとまるような感覚を覚えていた。その部分がいったい自分の体の中のどんな位置にあるのか、どんな働きをしているのかもわからないが、とにかくその敏感さは乳首のそれとはちがって、もっと深い。
加津子が初め揃えていたその足は徐々に角度を持たされていた。角度が大きくなるにつれて、快感もまた深い。あのトロトロとした感覚は今排け口を見つけて、溢れ、彼女は幾度も「ああ」といった。
「前人未到の香りがする。陽の差しこむことのなかった翳りの香り。しかし、この領域には、頑強な若い力しか迎えられないのかもしれない。そのくせあなたはぼくを誘ってる」
加津子の体に苦痛が一瞬走ったが、すぐにおさまり、不慣れな感覚が続いた。加津子は男が侵入しているのだと思っていたが、あとで、それが男の指であることを知った。(「官能少女」より)
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