和書>小説・ノンフィクション>ボーイズラブ小説>秘書
著者プロフィール
有馬 さつき(ありま さつき)
6月22日生まれ。東京出身。
6月22日生まれ。東京出身。
解説
一度でいいから抱いてほしいと迫るユキのために、飯島は新しい恋人を見つけてあげようと、自ら行動を起こす。一方トオルは、就職してから二度目の会社のクリスマス・パーティで、またもや女装をさせられる羽目になり、毎晩の悪夢に悩まされていた。あくまで女装を嫌がるトオルの気持ちを知りながらも、飯島はパーティに出席するつもりで……。
抄録
明るく開放感のあるアメリカンスタイルのダイニングキッチンも、今朝はコーヒーの香りが立ちこめるだけで、静けさに包まれていた。
芳(かぐわ)しい湯気の立ちのぼるマグカップが一つだけ置かれた、四人がけの大きなテーブルを前に、飯島豊(いいじまゆたか)は一人で椅子(いす)に腰かけている。
椅子の背にゆったりと寄りかかり、くつろいだ様子ではいるが、すでに身支度は整え終え、あとは出勤するばかりになっていた。
ダークグレイのヴェルサーチを、百八十センチを超える長身で着こなし、髪はキッチリとオールバックに整えられている。
三十歳といった年齢を考えれば、贅沢(ぜいたく)なブランドであり、外見的にも堅苦しく感じはするが、一流企業の社長秘書として働き始めてから、三年を過ぎた今も変わらない定番のスタイルだった。
「トオル君?」
マグカップを手にモーニングコーヒーを味わっていた飯島は、不意に小さな音をたてて開いたドアに首を巡らせ、思わず驚きの声をあげた。
「おはよう……」
まだ眠い目を擦(こす)りつつ、山岸(やまぎし)トオルはかすれた声で朝の挨拶(あいさつ)を口にした。
「おはよう」
トオルの予期せぬ登場に驚いた飯島も、すぐに嬉(うれ)しそうに微笑(ほほえ)んでみせた。
「もう行く時間?」
寝起きのぼんやりとした表情に笑みを加え、トオルはテーブルに歩み寄りながら、飯島に訊(たず)ねた。
トオルはあと数か月もすれば訪れる春に、二十四歳の誕生日を迎える。しかし、パジャマを着ていてもわかる華奢(きやしや)な身体(からだ)や、柔らかな髪に包まれたあどけない顔立ちには、まだ少年の面影(おもかげ)があった。
「どうしたの?」
黙って首を振ったあと、飯島は向かい側に座(すわ)ったトオルに問い返した。
お互いの気持ちを確認しあい、離れて暮らしたくないと選んだこのマンションで、二人が生活を共にし始めたのは、昨年の二月のことで、かれこれ十か月になる。
デザイン会社でデザイナーのアシスタントをしているトオルと、企業の社長秘書を務める飯島は、職種こそ異なるがどちらもサラリーマンとして働いている。
だからおおかたの場合、平日はほぼ同じ時間にベッドから起き出し、簡単な朝食を一緒(いつしよ)にすませてから、各々(おのおの)の時間に合わせ出勤している。
ただ、トオルが勤めているアルファ企画が、十二月一日を会社の創立記念日で休みにしているため、今日に限ってはいつもと同じ時間に起きる必要はないのだった。
「うん……なんか目が覚めちゃった」
「ごめん、うるさかった?」
乱れた髪を無造作(むぞうさ)にかき上げたトオルは、ニッと笑って肩をすくめたが、飯島は自分のせいではないかと申し訳なさそうな声をあげた。
*この続きは製品版でお楽しみください。
芳(かぐわ)しい湯気の立ちのぼるマグカップが一つだけ置かれた、四人がけの大きなテーブルを前に、飯島豊(いいじまゆたか)は一人で椅子(いす)に腰かけている。
椅子の背にゆったりと寄りかかり、くつろいだ様子ではいるが、すでに身支度は整え終え、あとは出勤するばかりになっていた。
ダークグレイのヴェルサーチを、百八十センチを超える長身で着こなし、髪はキッチリとオールバックに整えられている。
三十歳といった年齢を考えれば、贅沢(ぜいたく)なブランドであり、外見的にも堅苦しく感じはするが、一流企業の社長秘書として働き始めてから、三年を過ぎた今も変わらない定番のスタイルだった。
「トオル君?」
マグカップを手にモーニングコーヒーを味わっていた飯島は、不意に小さな音をたてて開いたドアに首を巡らせ、思わず驚きの声をあげた。
「おはよう……」
まだ眠い目を擦(こす)りつつ、山岸(やまぎし)トオルはかすれた声で朝の挨拶(あいさつ)を口にした。
「おはよう」
トオルの予期せぬ登場に驚いた飯島も、すぐに嬉(うれ)しそうに微笑(ほほえ)んでみせた。
「もう行く時間?」
寝起きのぼんやりとした表情に笑みを加え、トオルはテーブルに歩み寄りながら、飯島に訊(たず)ねた。
トオルはあと数か月もすれば訪れる春に、二十四歳の誕生日を迎える。しかし、パジャマを着ていてもわかる華奢(きやしや)な身体(からだ)や、柔らかな髪に包まれたあどけない顔立ちには、まだ少年の面影(おもかげ)があった。
「どうしたの?」
黙って首を振ったあと、飯島は向かい側に座(すわ)ったトオルに問い返した。
お互いの気持ちを確認しあい、離れて暮らしたくないと選んだこのマンションで、二人が生活を共にし始めたのは、昨年の二月のことで、かれこれ十か月になる。
デザイン会社でデザイナーのアシスタントをしているトオルと、企業の社長秘書を務める飯島は、職種こそ異なるがどちらもサラリーマンとして働いている。
だからおおかたの場合、平日はほぼ同じ時間にベッドから起き出し、簡単な朝食を一緒(いつしよ)にすませてから、各々(おのおの)の時間に合わせ出勤している。
ただ、トオルが勤めているアルファ企画が、十二月一日を会社の創立記念日で休みにしているため、今日に限ってはいつもと同じ時間に起きる必要はないのだった。
「うん……なんか目が覚めちゃった」
「ごめん、うるさかった?」
乱れた髪を無造作(むぞうさ)にかき上げたトオルは、ニッと笑って肩をすくめたが、飯島は自分のせいではないかと申し訳なさそうな声をあげた。
*この続きは製品版でお楽しみください。




















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