マイリストに追加

和書>小説・ノンフィクションボーイズラブ小説和風

君うるわしく臣を惑わす

君うるわしく臣を惑わす


発行: キリック
レーベル: シフォンノベルズ
価格:700pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
みんなの評価 ★★★☆☆3
◆レビューを書く

¥0サンプル
XMDFのファイルをご覧になるにはブンコビューア最新版(無料)をインストールしてください。

「書籍ファイルが壊れています」と表示される場合は、ブンコビューアを最新版にアップデートしてください。
購入する


著者プロフィール

 城山 まゆ(しろやま まゆ)
 天秤座AB型。趣味は読書と散歩と通販。好物はチョコレート。
 基本的には怠惰なのにときどき怖いほど勤勉になり、その後燃え尽き症候群で2〜3日をムダに過ごすということをくり返しながら生存中。フリーライターというもう一つの顔があり、そちらではお堅い仕事をモリモリ受けています。

解説

 時は室町──上野国。小幡家跡取りの憲貞と、その家臣・小太郎は少年時代、人目を忍んで逢瀬を重ねていた。しかし、今でも好き合っているはずなのに、元服を境に小太郎は憲貞の肌に触れなくなった。
 ある晩、迎え入れたばかりの軍師・土師与兵衛と酒を酌み交わしていた憲貞は、成りゆきで与兵衛と体を重ねてしまう。一方の与兵衛も、成りゆきで襲ってしまった主君のことが忘れられなくなり……。
 二人の家臣に愛された美しい主人の心の内は──!? 本格歴史ロマンス!!
※こちらの作品にはイラストが収録されていません。

目次

一 火取り虫
ニ 夜半の雨
三 二つの絆

抄録

 与兵衛には、すべてを許してはならぬのだ。完全なる弛緩は我が身にとって危険であるとともに、与兵衛もそれを望んではいない。
 この男は、無様な油断を見せれば背中から刺してくるやも知れぬ。しかも、わけを問えば、慕っているから手にかけるのだなどと言いかねない。
 与兵衛はそういう男だ。その性質は、容貌にも表れている。高貴な芳香を漂わせる菖蒲の葉のように、香しくも乾いた鋭さに整ったその顔。
 しかしながら憲貞は、与兵衛の顔がきらいではない。否、その言い方は控えめにすぎるだろう。
 憲貞は、与兵衛の見た目を、ことのほか気に入っていた。
 美男である与兵衛の造作を愛でるのでは城下の女たちの趣味嗜好と何ら変わるところがないではないかと言われれば返す言葉もない。だがそれでも、理屈を脇へよけた部分で、与兵衛の容貌に引かれるところがあるのは事実だった。とりわけ、この一筋縄ではゆかぬ男の強靱な理性の象徴であるかのような切れ長奥二重の目と、その笑みは何を意味しているのかと訊ねたくなるような曖昧微妙な微笑を得手とする薄い唇とが、気になる。
 奥二重の下に嵌め込まれた与兵衛の双眸は、心を読ませぬ。与兵衛は、必要であればうそも平気でつくであろうし、そのうそを見極めるのもおそらく困難であろう。また、彼の冷徹な知性を示すが如き端正な唇には、穏やかなほほえみも似合わないではないが、冷笑はもっとよく似合う。
 比べることに意味などないが、与兵衛の顔は、小太郎のそれとは全く別の種類のものであると、憲貞には思われる。小太郎の顔というのは、誠実というものを形にしたそれだ。真冬の晴天の日の空のように曇りなくまっすぐな視線、うそをつかぬ唇。自分と彼の関係がかつてとは変化してしまった今であっても、憲貞は、小太郎は決してこの自分を裏切ることがないと信じられる。与兵衛が常に憲貞の器量を量り、自分も与兵衛に対し満幅《まんぷく》の信頼を与えてはいないのとは大違いだ。
 だが。
 分からぬのは、そんな与兵衛がなぜ、この自分に恋着するかのようなさまを見せるのかということだ――と、男の背にまわした腕で、堅く締まった背をさすり上げながら、憲貞は思う。
 ただ、一つ言えるのは、今与兵衛がいなくなれば、自分はおそらく耐え難い喪失感に苛まれるであろうということ。その程度には、すでに与兵衛は憲貞の心に入り込んでいた。
 このとき――。
 憲貞と与兵衛が抱き合う姿を、遠くから見つめる者がいた。父とともに今宵の館の警備の指揮を執っていた木津小太郎であった。
 小太郎は血の気の失せた顔で立ち尽くしていた。声を出すことも、否、体のどこなりともほんの少し動かすことすら忘れたように茫然と立ち尽くして、信じられぬ――信じたくなどない――光景を、抵抗すら不可能なままに網膜に受け入れていた。
 無論、辺りは暗い。星明かりなどないに等しい今、ところどころに置かれた篝火だけが光源だ。だが、そんな中でも、またこの遠目でも、小太郎が主君の姿を見間違えるはずはなかった。
 憲貞が、与兵衛と二言三言、何やら言葉を交わしているうちはよかった。公の場とは違う肩の力を抜いた様子の憲貞の傍らに、自分以外の誰かが当たり前のような顔で寄り添っているのは決して愉快なことではなかったが、憲貞が小太郎の所有物でない限りそれは仕方もない。
 だが――その後にまさか、あの土師与兵衛が、無遠慮な手を伸ばして憲貞を抱き寄せるとは……!
 一瞬、幻でも見ているのかと思った。だが、知らず止めていた息に気づいてそれを吐き出し、また吸って、改めて目を凝らしてみても、やはり憲貞は与兵衛の腕の中にいるのだった。
 拒むふうも窺えぬ。優美な痩身を大人しく抱え込まれ、それどころか、やがて向きを変えて、自ら甘えかかるように男の背に腕をまわしたではないか。
 それは一体どういうことだ?
 いや、考えるまでもあるまい。つまり、そういうことなのだ。
 土師与兵衛という男は、国峰へやってきてたったの二か月で、憲貞の信頼を贏ち得た。それがかの男の実力ゆえであるということに異存はない。易をし、空を読み、城に集まってくる情報を分析し、献策と助言を行う。譜代の重臣たちを集めた評定の場においても、出しゃばらず、かと言って臆することもない。全くもって、小面憎いほどの有能な軍配者ぶりだ。そのように役に立つ者なればこそ、憲貞が与兵衛を引き立てるのも当然と言えば当然だとは小太郎も思う――少なくとも、理性では。
 だが、与兵衛が入り込むことを得たのは小幡家の帷幕《いばく》だけではなかったということを、今、この目で知った。
 憲貞の心――。
 そうなのだ、おそらくは。土師与兵衛は……あの冴えた鋭い目つきが印象的な切れ者の軍配者は、憲貞の心をさえ捉え、その内へ踏み込んだのだ。
 あの様子では、すでに何度か肌を合わせてもいるのであろう。
 その認識に達した途端、小太郎は、体中の血が音をたてて下がってゆくように思った。
 憲貞が与兵衛をどのように思っているかは知らぬ。同じように、与兵衛がいかなる思いで憲貞のそばにいることを求めているのかも分からぬ。だが、与兵衛の登場により、この自分は明らかにいくつかの機会と可能性を失ったのだと、それだけは確かに知れた。
 悲愴な気持ちが小太郎の思考力を奪い、大きな脱力感が引き締まった長身を木偶に変えた。
 二人のいる世界と己の立つ場所とが、透明な膜で隔てられた違う次元のもののように感じられて、小太郎はぼんやりと二人の影を見つめていた。


*この続きは製品版でお楽しみください。

本の情報

この本を読んだ人は、こんな本も読んでいます

形式

【XMDF形式】

XMDFデータをご覧いただくためには専用のブラウザソフト・ブンコビューア最新版(無料)が必要になります。ブンコビューアは【ここ】から無料でダウンロードできます。
詳しくはXMDF形式の詳細説明をご覧下さい。

対応端末欄に「ソニー“Reader”」と表示されている作品については、eBook Transfer for Readerで“Reader”にファイルを転送する事で閲覧できます。
海外版の“Reader”は対応しておりませんので予めご了承くださいませ。

【MEDUSA形式】
MEDUSA形式の作品はブラウザですぐに開いて読むことができます。パソコン、スマートフォン、タブレット端末などで読むことができます。作品はクラウド上に保存されているためファイル管理の手間は必要ありません。閲覧開始時はネットに接続している必要があります。

詳細はMEDUSA形式の詳細説明をご覧下さい。