和書>小説・ノンフィクション>文芸>日本文学>現代小説
著者プロフィール
成木 文(なりき ぶん)
東京大学医学部卒。
第一作。田辺未方著「ロッシーという名の毛編みの男」(2005年、文芸社。紙本、電子出版とも)
第二作。成木文著「サッカー」(今回、星雲社)
第三作。ペンネーム未定。「或る男の残像」他。
第四作。「ロッシーという名の駱駝の男」他。近々、刊行予定。
東京大学医学部卒。
第一作。田辺未方著「ロッシーという名の毛編みの男」(2005年、文芸社。紙本、電子出版とも)
第二作。成木文著「サッカー」(今回、星雲社)
第三作。ペンネーム未定。「或る男の残像」他。
第四作。「ロッシーという名の駱駝の男」他。近々、刊行予定。
解説
生きるも死ぬも殺生の衝動もありふれた日常の中に潜んでいる――。
精神科医でもある著者が描く人間の深層心理。珠玉の4編を収録。
精神科医でもある著者が描く人間の深層心理。珠玉の4編を収録。
目次
1 サッカー
2 水曜日の手紙
3 お化け
4 新しい朝
2 水曜日の手紙
3 お化け
4 新しい朝
抄録
その話は、まさしく事実のようであった。
業者たちが帰った日の夜、早速源太にくわしくただしてみた。
電話の奥でしばらく沈黙があったあと、源太は答えた。
「おやじ、すまない。一生懸命あとを継いだつもりだったけど、また俺の悪い癖が出てしまって。人の甘ごとに乗っちゃったんだよ。気がついたら、ひどい品物をつかませられていて。それで借金したのがよくなかった。何とかなると思って、株にも手を出したら、それがまた裏目に出てしまって……」
「また仕手株かい」
「うん。今度は絶対うまく行くと思ったんだが……」
歯切れの悪い弁解であったが、源太は子供のときから、何か失敗を仕出かすごとに言葉尻の不明瞭な申し開きをした。
しかし、今度ばかりはそんな軽々しい取り繕いではどうにもならぬ問題であった。
「たかがそれくらいのことで、お前。それとも、よほど大口だったのか。何かやばいことに手を出したんだろう。商品相場とか……」
「魔が差しちゃって……」
「バカヤロー、どうして相談しなかった」
「勢いあまって、ばくちにまで手を染めてしまった」
「あきれた奴だ。わしの息子とも思えない」
「僕はお袋の子で」
「それがどうした。お袋さんが生きていたら、それこそ泣き崩れただろうよ。いまいましいやい。で、何か考えがあんのかい」
「どこから聞きつけてきたのか、割り込んできた渋川さんが、『私の言いなりにするなら、悪いようにはしない』と言ってくれてんだが。最近、お客に名を連ねるようになっていた。どういう素性の人か今ひとつよくわからんのだけれど」
「そいつのことは、もしやという人物がいる。朝方早々にわしが帰った日があったな。あのとき、お前は2人の客に応対したようだが、そのうちの1人、顔はよく見えなかったが、背中の感じがちょっと猫背で小太りの男だった気がする。あいつは、ひょっとしたらわしの昔友だちかもしれん。しかし、そうだとして、どうしてこの話に食い込んできたのか。かつての友人を助けようとでもいうのだろうか。まさかな。わしのことについて、何か言ってたか」
「うん、ちょっと妙なことを口にしたな。あんたのお父っつあんについては知らないわけでもない。何しろ有名人だから、と言って大笑いしたな。知り合いというより、皮肉っぽい口調だった。おやじ、昔何かあの人に悪さでもしたのかい。それで、恨みを買ったということはないだろうな。どうも、僕がこうなったのも、誰か黒幕がいてまんまとはめられたような気がしてならない。父親の因果が子にたたったとなれば、納得がいく。何か思い当たる節はないのか、おやじ」
*この続きは製品版でお楽しみください。
業者たちが帰った日の夜、早速源太にくわしくただしてみた。
電話の奥でしばらく沈黙があったあと、源太は答えた。
「おやじ、すまない。一生懸命あとを継いだつもりだったけど、また俺の悪い癖が出てしまって。人の甘ごとに乗っちゃったんだよ。気がついたら、ひどい品物をつかませられていて。それで借金したのがよくなかった。何とかなると思って、株にも手を出したら、それがまた裏目に出てしまって……」
「また仕手株かい」
「うん。今度は絶対うまく行くと思ったんだが……」
歯切れの悪い弁解であったが、源太は子供のときから、何か失敗を仕出かすごとに言葉尻の不明瞭な申し開きをした。
しかし、今度ばかりはそんな軽々しい取り繕いではどうにもならぬ問題であった。
「たかがそれくらいのことで、お前。それとも、よほど大口だったのか。何かやばいことに手を出したんだろう。商品相場とか……」
「魔が差しちゃって……」
「バカヤロー、どうして相談しなかった」
「勢いあまって、ばくちにまで手を染めてしまった」
「あきれた奴だ。わしの息子とも思えない」
「僕はお袋の子で」
「それがどうした。お袋さんが生きていたら、それこそ泣き崩れただろうよ。いまいましいやい。で、何か考えがあんのかい」
「どこから聞きつけてきたのか、割り込んできた渋川さんが、『私の言いなりにするなら、悪いようにはしない』と言ってくれてんだが。最近、お客に名を連ねるようになっていた。どういう素性の人か今ひとつよくわからんのだけれど」
「そいつのことは、もしやという人物がいる。朝方早々にわしが帰った日があったな。あのとき、お前は2人の客に応対したようだが、そのうちの1人、顔はよく見えなかったが、背中の感じがちょっと猫背で小太りの男だった気がする。あいつは、ひょっとしたらわしの昔友だちかもしれん。しかし、そうだとして、どうしてこの話に食い込んできたのか。かつての友人を助けようとでもいうのだろうか。まさかな。わしのことについて、何か言ってたか」
「うん、ちょっと妙なことを口にしたな。あんたのお父っつあんについては知らないわけでもない。何しろ有名人だから、と言って大笑いしたな。知り合いというより、皮肉っぽい口調だった。おやじ、昔何かあの人に悪さでもしたのかい。それで、恨みを買ったということはないだろうな。どうも、僕がこうなったのも、誰か黒幕がいてまんまとはめられたような気がしてならない。父親の因果が子にたたったとなれば、納得がいく。何か思い当たる節はないのか、おやじ」
*この続きは製品版でお楽しみください。
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