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久住先生の告白

久住先生の告白

著: 新田一実
発行: オークラ出版
レーベル: アクア文庫 シリーズ: 久住先生シリーズ
価格:945円(税込)
10ポイント還元
形式:MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 新田 一実(にった かずみ)
 女性2人のペンネーム。出身地/高知県&静岡県 星座/山羊座&魚座 血液型/A型&A型 趣味/S→パン作り G→編み物と車 誕生日/1月16日&2月26日。

解説

 浪人生の黒川昌毅は、受験よりも何よりも大事な、人生で初めての目標を見つける。それは11歳年上のイラストレーター・久住鷹哉を振り向かせるということ。だが、仕事ができてお金もある大人の久住にとって、自分はただの子供にすぎない。そう思い、愛されている自信を持てない昌毅。それでも久住の傍にいたいと願う昌毅は、少しでも釣り合う男になるまで、久住から離れる決意をするのだが……成長した昌毅と久住の文庫オリジナルストーリーも収録の、「久住先生」シリーズ後編。

目次

久住先生の結論
久住先生の告白
黒川くんの陰謀(後編)
あとがき

抄録

「スコットランドって、結婚式で互いの手首をちょっと切って、傷口を合わせて血を混ぜるんだよ……。やらない?」
 にっこりと笑って、昌毅の隣に腰を下ろした久住は、ナイフの柄を先にして渡した。
 形だけでもいいのだ。
 別に、役所に認めてもらいたい訳ではない。もし昌毅が女なら、もちろん役所に認めさせようとしただろうが、それは税制上の特典があるからだ。人が共に生活をしようとするのに、他人に認めて貰う必要などないと思っている。ましてや、役所に届けを出すというのは、プライバシーを公開するようで、気持ちが悪かった。
「なんか凄いね……」
「昔の話だとは思うけどね。ケルトとか、そっちの伝統じゃないかな……」
 鞘を取ったナイフは、ぎらりと光りを弾いている。
「……怖い?」
「綺麗だよね……」
 命を奪うものだと判っている。ガキが振り回して問題になっているナイフは、比べ物にならないぐらいちゃちな代物だ。それでも人間はナイフを握ると奇妙な高揚の囚われるらしい。
「手首に傷をつけるのか……。カッターとかだと、ガキの遊びっぽいよね」
 ナイフを見詰める昌毅の目は、少しばかり座っている。
「そうかもね……。けど、これも根性焼きの一種だろ」
 軽く応じると、昌毅は微かに眉を顰めた。
「それって凄い感性だと思うけど……」
 仲間に自分の根性を示すために煙草の火を押し付けるのと、神様と契約するための傷を一緒に語るのは乱暴だろうか。しかし、自分の肉体を傷付けるという行為の底に流れるものは同じような気がした。
「貸して……」
 ナイフを取り上げて、左の手首に押し当てる。
 ほんのわずか、ナイフを引くと、すっと赤い筋が浮かび上がった。
「俺も……」
「気を付けて……。凄く切れるよ……」
 言いながら、自分が少々異常な気分に呑まれかかっているのが判る。本来、神前での儀式に必要なのは、この高揚感なのかもしれない。その日常との落差が、儀式を儀式にするのだ。
「うん」
 切れ味がいいナイフの方が、扱い易い。
 子供だましのナイフだと、浅く切ろうと思っても、傷が付かないか、ざっくりと切ってしまうか、ふたつにひとつだ。
 うっすらと、血が滲む程度の傷を触れ合わせる。
 ちりっと、今になって痛みが走った。
「……神様を信じてる訳じゃないが……。人間の力の及ばない意志があるとは思ってる。その信じるっていうことに掛けて誓うよ。……愛してる」
「俺、……そんなに真剣に信じてるものないけど……。けど、愛してます」
 華奢な手を捕まえて、糸のような傷に舌を這わせる。昌毅も、同じように久住の手首に唇を押し当てた。
 舐めてしまうと血が消える。そして、少し遅れて再び血が滲んだ。
「一緒にジジイになろうな……」
「うん……」
 妙な誓いの言葉でもあった。
 だが、二人にとって、それは神聖な誓いの言葉でもあった。
「キスしよう」
「誓いのキス?」
 くすりと笑った昌毅が、唇を突き出す。
 軽いキスを交わした久住は、満足そうに笑ってナイフを鞘に収めた。
 そのまま、ガラスケースに戻す。
「いいの? 錆ちゃうよ」
「いいんだよ。記念だ」
 今まで、一度も使ったことがないナイフだ。だからこそ、この日の記念に残しておきたかった。
「……誰が知らなくっても、こいつは知ってるんだ」
「そうだね……」
 ただのカスタム・ナイフが、この瞬間から特別なものになる。
 ベッドに戻った久住は、昌毅の肩を抱いてナイフを見遣った。
「愛してる……」
「うん。愛してる……」
 ナイフに向かって確かめるように呟く。それから、互いの目を覗き込んで、ベッドに倒れ込んだ。


*この続きは製品版でお楽しみください。

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