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安楽死館・前編

安楽死館・前編

著: 梅津裕一
発行: キリック
シリーズ: 安楽死館
価格:315円(税込)
10ポイント還元
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
みんなの評価 ★★★★☆14
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著者プロフィール

 梅津 裕一(うめつ ゆういち)
 『妄想代理人』(原作/今敏)『闇魔術師ネフィリス』『アザゼルの鎖』(すべて角川書店・刊)など、著書多数。ダークファンタジーな世界観で読者を魅了する。

解説

 高校生の新一が目覚めたのは「安楽死館」という名の洋館。屋敷には7種の自殺用装置が用意された部屋があり、招集された新一を含め7人の自殺志願者には、そこで7日以内に安らかに自殺する権利が与えられていた。そして7日過ぎても生存している人間には、むごたらしい苦痛に満ちた生が待っているという。
 自殺用装置を使って一日に自殺できるのは一人だけ。そして、一日が経過するごとに、死の際の恐怖と苦痛は大きくなるらしい。彼らを待ち受ける恐怖の7日間とは……? 前編。

抄録

その刹那、凄まじい破裂音のようなものが鳴り響いた。それが二千ボルトもの電流が流される音だとは、新一にはわからなかった。
「あああああああああああああ」
大井が目を開き、舌を突き出すようにして全身を震わせていた。
よく映画で見るような、派手な火花やスパークといったものは存在しない。そのかわり、大井の顔や首筋の皮膚はまるでマッサージでもうけているかのように微細に振動し、体のあちこちから小さな破裂音とともに湯気が噴き出していた。
「あああっああああああっっっ」
かくかくと、なにかの冗談のように大井の全身が振動している。そういえば、人間の筋肉というのは確か神経を走る微細な電流で動いているのだ。これだけ高圧の電流を流されれば、大井の全身の筋肉が震えるのも道理だった。
「ああっえおおおおおっおおおおっっっ」
だが、彼が相当の苦痛を味わっているらしいことだけは確かだった。
両眼からは冗談のような勢いで涙が溢れ、すぐに蒸気と化していく。首筋のあたりがいつしか、赤く火ぶくれしたようになっていた。いや、高圧の電流が皮膚を流れているせいか、大井の全身の皮膚がおそらく、焼けただれたようになっているのだろう。
その兆候は、大井の顔にも表れ始めていた。
「いぐああああああいああああああ」
がくがくと顔面が震えたまま、頬のあたりに火で炙ったような、赤い火傷の痕ができていく。ものすごい速度でそれが水ぶくれになったかと思うと、ぱんという小さな音をたてて始めた。
さきほどから聞こえる破裂音にはさまざまな要素が関係しているのだろうが、おそらく体内でも臓器などの袋状になった部分が熱させられ、破裂しているに違いない。
全身からうっすらと湯気が立ち上がり、すでに一分以上、大井は電流を流されている。
だが、それでもまだ、大井は生きていた。
「電気椅子は……実は、死ぬまでに時間がかかるって聞いたことがありります」
怜悧が声を震わせながら言った。
「電流が皮膚を通ることが多いから、意外と長時間、死ぬまでにかかるとか……その苦しみも、凄まじいとかで……」
「えうっ」
そのとき、大井の口から唾液のようなものが吐き出され、瞬時に蒸気と化していった。
一体、いまの大井の体温はどんなことになっているのだろう。うっすらと、肉が焦げるような匂いが漂ってきた。
さらに、大井の二つの眼球にも変化が起き始めている。まるで狭い眼窩から外に逃れようとするかのように、目玉がせり上がってきたのだ。
「やっ……いやああああああああああ!」
美佳が、ついに悲鳴をあげた。
単なる偶然なのか、その目玉は新一にも、美佳を睨みつけているように見えた。凄まじい呪詛の念をこめた二つの眼球が、美佳を呪いの視線で殺そうとしているようにも見えた。
次の瞬間、ぱんという軽い破裂音とともに、大井の右眼球が弾けた。
「いやああああああああああああああっ」
美佳か凄まじい絶叫をあげた。
眼球からどろりとした汁が溢れていく。そういえば眼球も、言ってみれば液体が詰められた袋のようなものなのだ。高圧電流をうけて破裂したとしてもおかしくはない。
それから、三分ほど電流が大井の体を嬲り続けた。もはやそれは、拷問といってもよいものだった。
壊れた人形のようにときおり手足が突拍子もない方向に動こうとするが、革製のベルトで固定されているため、まるでだだっ子がヒモかなにかで縛られているかのように見える。
すでに大井の顔は真っ赤に膨れあがり、水ぶくれがいたるところに出来ていた。唇はひびわれ、口の奥から蒸気が噴き出していく。
ふいに、いままでの大井の体のけいれんが、とまった。
どうやら、電流が止められたらしい。
しゅうしゅうという音をたてて、大井の体から湯気が派手に噴き上がっていた。大井が身につけていた衣服が燃え上がらなかったのが不思議なほどだ。
「これで……死んだかな?」


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