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僕の愛しいサウスポー 下巻

僕の愛しいサウスポー 下巻


発行: キリック
レーベル: シフォンノベルズ シリーズ: 僕の愛しいサウスポー
価格:700pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
みんなの評価 ★★★★★4
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著者プロフィール

 城山 まゆ(しろやま まゆ)
 天秤座AB型。趣味は読書と散歩と通販。好物はチョコレート。
 基本的には怠惰なのにときどき怖いほど勤勉になり、その後燃え尽き症候群で2〜3日をムダに過ごすということをくり返しながら生存中。フリーライターというもう一つの顔があり、そちらではお堅い仕事をモリモリ受けています。

解説

 戦争が終わっても、直倫の恋人・涼平が帰ってくることはなかった──。直倫に密かに想いを寄せる重久は、抜け殻のようになってしまった直倫を懸命に支えていた。それに応えるかのように、直倫は徐々に日常を取り戻していくが、涼平を失って以来、心も瞳も輝きを失ってしまったのは明らかだった。
 一方、終戦を迎え回復しつつある野球界。重久はグラウンド整備の仕事を再開していた。その日、涼平を欠いた球団に一人の若者がやってきた。重久はその若者を見て驚愕する──その若者は、顔も体躯もすべてが「涼平」だった……
 痛いほどにせつない長編ラブストーリー・下巻!
※こちらの作品にはイラストが収録されていません。

抄録

直倫は薄く目を開けた。
「……卑怯」
「うん、多分そうだね。でも、きっと、こうするしか方法がないよ」
言って、篤はもう一度、唇を直倫のそれへ重ねた。
入り込んでくる舌を拒まない代わり、積極的に応えもしない直倫に苛立つでもなく、篤は探し当てた舌に舌を絡めた。
やがて唇を離して、耳もとで囁いた。
「直さん……迷ってる?」
「……」
「迷ってるなら、俺のほうへ一歩踏み出してよ」
「……簡単に言うね」
「難しくても、踏み出して。お願いだよ」
直倫が答える前に、再び唇は唐突にふさがれた。ぬめった舌の感触が唇をなぞり、そのまま歯列を割って侵入してくるのに気をとられるうちに、シャツの裾から手が入り込んでいた。
指の長い、掌の少し厚いその手は、脇腹をこすり、胸へ伸び、小さな突起を押しつぶすようにしてその辺りを這いまわった。
「ッ……!」
何かを思い出させるその感触に肌を粟立て、直倫は逃れようと身をよじった。が、篤はそれを許さなかった。もとより唇はふさがれていて、声も出ない。
一度きっかけを与えられると、胸の先端は見る間に尖って立ち上がった。気づいたらしい篤が、確かめるようにそこをつまみ、あるいは指先でくすぐるように押した。
「……やっ……あッ」
唇を放されると、呼吸さえする前に恥ずかしい声がこぼれた。必死にかみ殺そうとするが、思うようにならない。
それも当たり前かも知れない。
今が意に染まぬ状況になっているとはいえ、自分を押さえ込んでいる相手は、直倫にとって、絶対に体の関係を持ちたくないと思う人物ではないのだから。
それを自覚した瞬間、直倫はひどい虚無感に襲われた。意識はあっという間に諦念の色に染まった。
体から力が抜けた。
新たに湧いた涙の向こうに、電灯の光を背景にして、見覚えのある顔が自分を見下ろしていた。
「……──」
微かに動いた唇は、今、どちらの名を呼ぼうとしたのだろう?
自分でも分からなくて、直倫は情けなさに目を閉じた。そして今度は、はっきりとその名を呼んだ。
「──篤くん」
「何?」
「布団敷いて、部屋暗くして」
篤は軽く目を瞠り、けれど、なお実《じつ》のある眼差しで直倫を見つめた。
「……分かった。……ねえ、直さん」
くしゃりと顔を歪め、いかにも困ったふうに、篤は直倫の額の横をゆっくりとなでた。
「何で泣くんだよ……」
「……自分が浅ましいと思うから……」
「やめろよ。そんなの気のせいだよ。直さんはいつもきれいだよ。叔父さんのいたころの直さんを、俺は知らないけど、きっときれいだったんだろうと思う……。だからこそ叔父さんが直さんに惚れたんだろうから」
篤は心からそう言っている。それが分かるからこそ、直倫はいたたまれなくなる。
すべてが理不尽に思えてくる。かつてにはとてつもない好運だと思えたことさえ、今となっては、この胸の痛みを弥増すための下準備であったのではないかと疑いたくなる……。
「……どうして……」
どうして、思いはここに取り残されたのだろうか?
心を捧げる対象が消えたなら、それにまつわるすべてのものも、粉々になって風に散ってしまえばよかったのに──。
喪失を記憶しているということは、痛みでしかない。
何を失ったのかを覚えているなら──そして失ったものが大きければ大きいほど──穿たれた傷口が癒えることはない。
血を流しつづけるその傷を埋められる存在は、もうこの世にはなくなってしまったというのに。
「……なくして困るものなら、最初からほしがらなければいいんだ──それをいやと言うほど知ったのに……何で僕は……」
この愚かな自分は、なぜ、またそれをほしいと思うのだろう?
両手で、直倫は顔を覆った。
その右の手首を、篤がやんわりと掴んだ。静かに持ち上げ、並んだ指の甲にキスをした。
「俺は、それは違うと思うよ、直さん。『今、ここに持っていない』という状況は同じだとしても、『だけど、かつては持っていた』ことと、『もともと持っていなかった』ことではまるきり意味が違うだろ? どっちがよりマシなのかは、直さんが一番よく分かってるはずじゃないのか?」
「……」
もう一度、直倫の指先に軽く唇を触れさせ、篤は静かに身を起こした。直倫の手を引いて、彼の身も起こす。それから押入を開け、きれいに畳んで重ねられている布団を出した。


*この続きは製品版でお楽しみください。

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