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和書>小説・ノンフィクション>SF・ファンタジー小説>ファンタジー小説
久美 沙織(くみ さおり) 1959年4月30日、盛岡市生まれ。O型。上智大学文学部哲学科卒業。 79年「水曜日の夢はとても綺麗な悪夢だった」でデビュー。集英社文庫コバルト・シリーズに、「宿なしミウ」「抱いてアンフィニ」「丘の上のミッキー」シリーズなどがある。 また、「MOTHER」「ソーントーン・サイクル」シリーズなどSF・ファンタジーの分野でも傑作を発表。実力派作家として活躍するかたわら、小説家志望者たちの育成にも力を注いでいる。
ジリオンは14歳の魔女見習い。山深いソーントーンの館から下界に下り、人々の病を治す修行の旅がようやく終わろうという頃、剣の形をした貴重な魔法石“サイトシリン”を青狼の毛皮をまとった青年に奪われてしまった。石の行方を追い、やがて青年と再会したとき、ジリオンは彼が遠い異郷の王子ユルスュールであることを知る。彼は恋人にかけられた呪いを解くために旅を続けていたのだった――。 ねじれた城を目指すユルスュールの旅に同行することになったジリオン。 異世界での冒険を流麗なタッチで描く、著者初の本格ファンタジー!
1 霜踏み月 2 青い狼 3 出立 4 救出 5 仲間 6 雪山 7 衝(しょう)
「ソーントーンには帰れない」 「雪か」 「ええ、道はもう閉ざされてるわ。でも、それだけじゃない」 月光色をした断髪(だんぱつ)を額にかきあげた時、ジリオンの眼が濡れた感じに光るのを、ユーリは見たような気がした。 王子は思いだした。少女が衆人環視の中でひどい辱(はずかし)めを受けたことを。あるいは、あそこに引きだされる前にもっと悲惨なことがあったのかもしれない、と想像して、彼ははじめて胸の痛みを覚えた。 「……そなた、清めを損ったのか……?」 ジリオンは飛び起きた。顔が真っ赤になっている。 「そんなことじゃない!」 たじたじとするユルスュールの傍らから酒袋をひっ掴んで一気にあおると、ジリオンは彼に面と向ってどっかりと胡座(あぐら)をかき、どこぞの痛みにかすかに顔をしかめたが、かまわず、一気にまくしたてた。 「あたしたち山の女はね、冬の間は里にいちゃあいけないのよ。ニムラの怨念(おんねん)って嫌らしい昔話のおかげでね! だけど、あたしは何の因果か、こんな時期にここにいるでしょ? だから、そうよ、言ってみれば、清くないってことよ。伝統に反した悪い魔女は、もう山に戻ってっちゃいけないんだ」 言いながら、ジリオンは自分で自分にうなずいた。王子にわからせたいと言うよりも、自分に言い聞かせているらしい。 「冬場にこっちに残らなきゃならなくなったその時から、あたしはソーントーンとは切れた。そういうことにする。だって、そうしなきゃ、みんなに迷惑がかかるから。ソーントーン全体が悪いってことになっちゃうから。だから……あたしは残る。あたしひとりがこのまま残れば、魔女なんか止(や)めて、魔法のことなんかみんな忘れて、普通の女の子になって、里にとけこんじゃえば、それでいい。それで、みんな丸く収まるんだから……」 鼻先まで垂れかかる金色の前髪の陰に、今ははっきりと、溢れた涙が伝うのが見えた。ジリオンは自分で自分を抱きしめるようにして、鳴咽(おえつ)を堪(こら)えている。 王子は黙って待った。 やがて、沸き上がった湯を火から下ろしたかのように、ふいに彼女は泣き止んだ。 「……ごめん。あんたに当たったってしょうがないやね。……あ〜あ、あたしってほんとに修業が足りないや」 濡れた頬を擦(こす)り、はにかんだように微笑む。 「こんなに感情的になるって言うのは、もともとあんまり、魔女に向いてない証拠かも。こっちでやってくこと考えたほうが、いいかもしんない」 「むう」 王子は黙って肉を毟(むし)り、袋の中の発酵酒を含んだ。 まだ何か言い足りないような顔つきだったが、ジリオンはそれ以上は唇を開かなかった。
【XMDF形式】
※注意 同一の書籍でもファイル形式が異なるものは別商品として取り扱っております。
紙書籍初版:1991年1月25日 デジタル初版:1998年9月4日
ジャンル:和書>小説・ノンフィクション>SF・ファンタジー小説>ファンタジー小説 著: 久美沙織 発行: オンライン出版
和書>小説・ノンフィクション>SF・ファンタジー小説>ファンタジー小説 |
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