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誘惑の森

誘惑の森

著: 川上宗薫
発行: オンライン出版
価格:609円(税込)
10ポイント還元
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対応端末:パソコン ソニー“Reader”
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著者プロフィール

 川上 宗薫(かわかみ そうくん)
 大正十三年愛媛県生まれ。九州大学英文科を卒業後、千葉県で高校の英語教師のかたわら、創作活動に精進。昭和三十年『或る目醒め』でデビュー。以後、ジュニア小説を経て官能小説の第一人者となる。 「三田文学」 に予備校生の性のめざめを描いた『初心』を発表。著書に『人妻』『官能教室』『日本官能地図』など他多数。

解説

 “羊の眼”を教えてくれた男がいた。それは、繊毛が器管をくすぐる性具だった――。バーに勤める侑子は、さまざまな男によって性の秘術を教え込まれた。そんな体験を繰り返しながらも何かが足りない侑子にとって、やがて画家の福田が特別な存在となる。ホテルで美しい獣のように燃えた翌朝、なのにふと涙ぐんでしまうのは何故なのだろう……。
 表題作ほか、性のひだをあやしく書き尽くした6篇を収録。著者の円熟ぶりを示す好短編集である。

目次

魅惑の罠
よろこび
バッハと偶発
失神派
密議
夢うつつ
誘惑の森

抄録

 処(ところ)が、その小柄な女によって、大野は初めてたいそう敏感な乳房を知ってしまった。その女は新宿の酒場の女だったが、乳房にさわっているうちにたいそう乱れ始めた。それは邦子の乱れようどころではなかった。そして、たちまち背中をのけぞらして達(たっ)してしまったのである。その達しようは大野がこれまで見たことのないものであった。
 もっと具体的にいうと、その小柄な女は初め「いやよ、そんなこと。初めて会ったんじゃないの。わたしはもっとおつきあいしてからじゃないとそんなことはしない主義だもの、動物的なことはきらい」といっていて、大野は、やっぱりこういう小さい女は厄介(やっかい)でだめなんだなと後悔し、少し癪(しゃく)にさわったこともあって、いやがるその女に手をかけたのだ。
 そこは旅館であった。旅館にきたというからには、少しはその気があるわけだと大野は睨(にら)んでいたのに、まるっきりそうではないと大野は思って〈バカにしてやがる〉という気持になって、少々乱暴なふるまいに出たのだ。
 処が、その小柄な女は、それまですましこんで喫(す)っていた煙草を取り落してしまったのだ。
 「あぶない、火が」
 といっても、女は落ちた煙草のことなど念頭(ねんとう)にないように、身もだえし、「やめて、そこ。卑怯(ひきょう)ね、罪よ、罪よ」といい始めたのだ。彼は乳房をもんでいた。その乳房は小さくてやわらかだった。彼が経験したことのない乳房である。邦子のはブワブワした感じである。その小さい女の乳房はブワブワとはしていなかった。そのやわらかな小さい、ちょっとつまんだような乳房が徐々(じょじょ)に固くなってくるのだが、そんなことより、煙草を取り落してもそれを顧慮(こりょ)しない乱れ方が大野をおどろかしたのである。
 彼女はやがて歯をくしいばる感じになり、眼がもうろうとした感じになり、大野は、煙草を拾うために、ちょっとの間女から体を離した時には、女はすっかり抵抗力を失ったように、まだ身悶(もだ)えてしている。
 そして、その抵抗力のなくなった女を裸(はだか)にして抱きしめ、押し入ると、女はひきつけを起したようになってしまった。そして、彼がちょっと動きをとめると、またしても、ひきしぼるような声で「罪よ、罪よ」と必死に叫ぶのだった。
 この時、大野は、ショックを受けたものだ。こんな強い感受性を見たことがなかったからである。小説では読んだことがあるが、あれはみなうそだと思っていた。ところが、この女の場合は小説そこのけである。(「密議」より)

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