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まほろば恋奇譚〜秘恋篇〜

まほろば恋奇譚〜秘恋篇〜

著: 剛しいら
発行: オークラ出版
レーベル: アクア文庫 シリーズ: まほろば恋奇譚
価格:945円(税込)
10ポイント還元
対応端末:パソコン スマートフォン タブレット
みんなの評価 ★★★★☆1
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著者プロフィール

 剛 しいら(ごう しいら)
 6月9日生まれ東京都出身。魚座・A型。趣味は映画・舞台・格闘技・F1鑑賞。プラチナ文庫、ルビー文庫、アズ・ノベルズなどで作品を多数発表。

解説

 東洋の小国、大和の都。激しい雨の中、木の陰で寄り添いあう二人は、大和の国の後継者・明仁と、側近武人・曠世だ。心密かに惹かれあうふたりだが、許されざる恋であるため想いを成就する手だてがない。明仁が成人を迎え、帝位継承者となるのも近いある日、現在の女帝、明仁の姉・明日香が明仁の命を狙っているとの情報が舞い込む。争いを避けるため都を離れることを決意した明仁と曠世が向かう先は……。

目次

第一章
第二章
第三章
第四章

抄録

「おいしい」
「おいしいだろう。この世にはおいしいものがいっぱいある。そして楽しいことも…。子供時代に、そんないい思いを味わえなかった君に…同情しているんだ」
「ありがとうございます、ギョーム」
 自分だけに向けられる、温かい目。
 それさえあれば旭は満足だ。たとえそれが同情からだったとしても、他の誰が旭にそんな目を向けてくれるのだろう。
「美しく…純真な旭…」
 ギョームはそう言うと、そっと旭の手を取った。
「本来ならプリンスと呼ばれるべきなのに…」
 旭の手の甲に、ギョームは唇を押し当てた。
 異国の習慣なのだろうと、旭は何の疑問も抱かずにギョームのキスを受ける。
 キスに性的な意味もあるなんて、旭には想像もつかないのだ。
「では奥方。いたらぬ夫のために、パンケーキでも焼いてはくださらぬか」
「ぱんけいき?」
「バター、ミルク、そして粉があればすぐに出来る」
 ギョームは旭を自分の傍らに立たせて、早速説明を始めた。
 手に押し当てられた唇の感触が忘れられない。
 抱き締められた時の、包み込まれるような雰囲気をもう一度経験したかった。
 そのせいか旭の体は、自然とギョームに寄り添っていく。
 粉を取りだして、量り方を説明していたギョームは、ふと手を止めてそんな旭を見つめ返した。
「旭…」
 粉で汚れた手で旭の顔を捕らえると、ギョームはそっと唇を重ねてきた。
「親しい者同士の挨拶だ…」
 言い訳するギョームの声は掠れている。
 旭は嬉しくて、思わずギョームの腕を抱き締め、体をすり寄せていた。
 曠世の腕の中で目覚めた明仁は、今し方観た夢を反芻していた。
 左大臣がいた。左大臣は地球儀をくるくると回していて、それをぴたっと止めると、一カ所を示した。
 大和だった。
 さらに左大臣は、その中の一点を示す。
 東都の東京、朝廷のある場所だった。
 左大臣は何を告げたいのだろう。世界の中、朝廷が占める位置のあまりにも小さいことを明仁に教えたかったのだろうか。
「お目覚めになられましたか。お召し替えが済んだら、髪を梳きましょう。昨夜も…その…激しすぎたようです」
 曠世は照れたように笑ったが、素晴らしい笑顔だった。
「曠世…昨日のようなことがなければいいのに。私のために曠世が命を落とすようなことになったら耐えられぬ」
 明仁は曠世に抱き付き、つい泣き言を口にする。
「間者を雇いますか。それなら安心です」
「……間者は信用できるだろうか」
「何とも言えません」
 こんな時曠世は、自分の経験値の低さを嘆くしかなかった。
 借り物のベッドを出ると、曠世は着物の吊された衣桁(いこう)を見た。ところがそこには、真新しい丈夫そうな狩衣が掛けられている。昨日まで身につけていた着物は、丁寧に荷造りされていた。
「菱屋はどういうつもりなのか…」
 曠世は男らしい眉を寄せる。
 ただの駆け落ち者の公達に、これは過ぎる親切のように感じた。
「澄明殿は私達の身分を明かしたのでしょうか」
「まさか、そんな筈はない」
 明仁は即座に否定したが、あまりにも気が利いている。
 外はうっすらと明るくなっていた。早くに立ちたい曠世としては、ここで悩んでいる間すら惜しい。
「世の中には親切な御仁もいると解釈いたしましょう。殿下、これに着替えて」
「うむ…」
 着替えを終えて離れを出ると、もう雲と霧は馬を引き出していた。後は澄明を待つのみだ。
 四人が待っているところに、澄明が狩衣の紐も結ばない姿で、よろよろと現れた。
「いや、すまぬ。じきに朝餉の握り飯が届く。しばし、しばし」
「澄明殿、そんな悠長なことを言っている時間はありません。先を急がないと」
 新たな追っ手が、ついそこまで迫っている危険があった。曠世の口調はつい厳しくなる。
「まぁまぁ、腹が減っての馬乗りはきついって。ここは菱屋殿の好意に甘えて」
 使用人の女達がぞろぞろ出て来て、握り飯の包みを差し出す。親切を断ることも出来ず、曠世は頭を下げて受け取った。

*この続きは製品版でお楽しみください。

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