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和書>小説・ノンフィクション>恋愛小説>ラブストーリー
暦の移り変わりとともに、あなたに届く恋物語――。 暦の名をもつ主人公たちがつむぐ淡くせつない恋愛模様。移りゆく季節の風景とともに、孤独をこえて成長する彼女たちの物語に、あなたもきっと共感するはず。 第一弾・9月(長月)の主役、長子の金曜夜の楽しみは、ひとりラーメンと美容室でのシャンプー。誕生日の夜をひとりで過ごすことになった長子は……。私は目を閉じたまま、シンデレラが魔法でお姫様に変わっていくところを想像した。キレイなドレスに変わる瞬間、彼女も心地よさを感じただろうか。 気鋭の恋愛小説家・白井かなこがお届けする、暦がつむぐ恋物語たち。陰暦の言葉の美しさと季節の移ろいを味わいながら、大人の恋愛小説を堪能しませんか?
九月の異名。 夜が長くなる「夜長月(よながつき)」から転じた略称。 菊月(きくづき)、寝覚月(ねざめつき)、紅葉月(もみじつき)などの別名もある。 私はラーメンが好きだ。大好きだ。 といっても、巷によくいるラーメンマニアではない。 小さい頃に夢中で読んだ漫画の、ちょっとした場面に登場したキャラクター、小池さんの影響だ。 小池さんはもじゃもじゃ頭に大きなメガネをかけた男の人で、畳の上にちょこんと座り、ちゃぶ台の上のラーメンをおいしそうに、本当においしそうに食べる。 器から大きな口に伸びる数本の麺を、ずるりとすする。昭和の香りのする居間にいながら、まるで絶世の美食家のような気品さえ漂わせて。 私はその場面を見るたびに、とても昂揚した気持ちになった。ラーメンとはそんなにおいしいものなのか、そんなにおいしいラーメンを食べてみたいと。 以来、カップラーメンもインスタントラーメンも店のラーメンも、私はこよなく愛すようになった。 けれどまだ、私は小池さんが食べるシーンにでてくるような、おいしいラーメンには出会っていない。 冬でも夏でも、私はもう、何軒ものラーメン屋ののれんをくぐった。 そして今夜も“小池さんのラーメン”を探すため、ラーメン屋に入ったというわけだ。 こうしてカウンターでラーメンを待つ時間も好きだ。 店主の見事な湯きりさばきを見つつ、小池さんになる自分を想像すると、胸がときめく。口の中が唾液でじんわりとうるおい、空腹のお腹がさらにかきまわされる。 これからの秋の夜長と、ラーメン屋は相性がいい。 おいしいしあたたかくなるし、食べるのに時間がかからないから、家に帰ったあとドラマが見られるし、たっぷり本も読める。 「……なあ。あの女、ひとりだよな」 ささやく声がする。 「そうだな」 「見た目はそんなに悪くなさそうだけど。声、かけられないね」 「ああ。金曜の夜に、ひとりでラーメン屋にくるなんてな」 「最悪」 うしろの席の、若いふたり連れのサラリーマンだった。筒抜けですよ、こんなに狭いお店なんだから。 私はラーメンを食べたい。“小池さんのラーメン”を探している。 小池さんはひとりでラーメンを食べている。だから私もひとりで食べにくる。 それのどこがいけないっていうの。ひとり暮らしの二十六歳、独身で彼氏もいない女は、休み前の金曜の夜に、ひとりで店のラーメンをすすっちゃいけないっていうの? たとえそんな法律ができたとしても、私はラーメンをひとりで食べてやる。この小さなぜいたくを、誰にも邪魔されたくはない。 どこか意地になってそんなことを考えていたら、ふいに泣きたくなった。 私はやっぱり、最悪なんだろうか。 人からそんなふうに見られているのか。 胸がいっぱいになり、目がうるんできた。 泣きたい。泣いちゃいたい。お腹がすくと、泣きたくなる。まるで子供のように。 「へい、お待ちぃっ!」 店主が目の前に、出来あがったラーメンを置いた。 背油たっぷりのとんこつラーメン。チャーシュー一枚に、生キャベツがたっぷり。おいしそうな湯気をだしている。 私は洟をすすった。泣いている場合ではない。泣いてなどいたら、麺がのびてしまう。もったいない。 割り箸を割って「いただきます」とつぶやく。 “小池さんのラーメン”は、こんなに仰々しくない、普通の醤油ラーメンだとも思うけれど、いろんな味を食べて探し当てないと、その憶測の裏づけが取れない。 麺をすくい、ふうふうと冷まし、熱さと戦いながら食べる。 一口目はよくわからない。 二口目、「もしやついに?」という期待が高まる。 けれど三口目くらいから、これも“小池さんのラーメン”ではないと気づく。 試しに紅しょうがを入れてみる。うん、違う。あきらかに違う。 がっかりしつつも、おいしい幸せに包まれ、もういいよと身体からのストップがかかるまで、スープを飲んでしまう。 *この続きは製品版でお楽しみください。
【XMDF形式】
※注意 同一の書籍でもファイル形式が異なるものは別商品として取り扱っております。
デジタル初版:2007年9月20日
ジャンル:和書>小説・ノンフィクション>恋愛小説>ラブストーリー ジャンル:和書>小説・ノンフィクション>恋愛小説>短編小説 著: 白井かなこ 発行: モバイルメディアリサーチ シリーズ: 暦がつむぐ恋物語
和書>小説・ノンフィクション>恋愛小説>ラブストーリー |
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