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和書>小説・ノンフィクション>SF・ファンタジー小説>ファンタジー小説
久美 沙織(くみ さおり) 1959年4月30日、盛岡市生まれ。O型。上智大学文学部哲学科卒業。 79年「水曜日の夢はとても綺麗な悪夢だった」でデビュー。集英社文庫コバルト・シリーズに、「宿なしミウ」「抱いてアンフィニ」「丘の上のミッキー」シリーズなどがある。 また、「MOTHER」「ソーントーン・サイクル」シリーズなどSF・ファンタジーの分野でも傑作を発表。実力派作家として活躍するかたわら、小説家志望者たちの育成にも力を注いでいる。
ソーントーンの見習い魔女ジリオンは、瞳を封印され、山の館に戻れなくなってしまった。青狼の毛皮をまとった王子ユルスュールと大海原をさまよううちに、二人は竜の部族の女戦士たちに囚われてしまう。その日からジリオンは、部族を救う巫女姫になることを求められるのだった。 しかし閉ざされた瞳は邪悪な石の瞳。そして廃虚の城で、その封印が解かれてしまった。邪悪な人格を顕現させたジリオンは、竜と女戦士たちによるソーントーン攻略を開始する……。 大好評の本格異世界冒険ファンタジー!
1 裁定 2 大海 3 封印 4 巫女姫 5 竜王の旗 6 影の剣 7 闇の結託
彼女は眼を開けていた。その眼に虹彩(こうさい)はなかった。眼球全体が、石であった。昆虫の瞳めいてゴツゴツと多面体の、ただしどこまでも透明な結晶体のまなこなのであった。その手の中にあの石のないのを見れば、填め込まれたのは、サイトシリンそのもの、如何なる魔術によってか、手を離れ、その双眸(そうぼう)と化したものらしい。この世ならず力強く美しいが、同時にこの上もなく不気味で恐ろしかった。しみじみと覗き込めばそこには闇の中の闇、虚無をしか見出し得ぬ、ひどく邪悪な魔眼であった。 ユルスュールは、喉の干上がるのを感じた。 「……ジリオン……?」 擦れ声でユルスュールは呼んだ。 「ジリオン? 俺がわかるか?」 「ああ。ユルスュール。青。遠いお国の王子さま」 歌うように、からかうように、相手は応えた。少女のような、細く甲高い、うまく舌のまわらぬような声色で。 「白いお馬のお婿さん。青い狼の殺し屋さん。いにしえのソーマの国の女王の、大事な大事なお稚児さん」 「な、なにを……?」 青ざめ、ことばを失するユルスュールの腕に、何かが触れた。気づかわしげに差し出された、オーラの手であった。 「……これは……あの娘は、いったい何を言ってるんだ?」 オーラは囁き、ユルスュールは答えようとしたのだが。 「オーラ! そいつを捕えよ! 逃すな」 揺るがぬ権威を込めた声で、ジリオンが叫んだ。オーラはびくりとして、思わず、ユーリの腕に爪を立てた。 「……イリジャ……嘘だろう……姉さん? 姉さんかい?」 ジリオンは、おやおやと言うように唇を丸め、少しの間考えこんだが、やがて首を振った。 「あいにくあたいはイリジャじゃないよ。でも、ふふふふ、あんたの大事な姉さんを、出してあげることだってできるんだけどね」 「な、……なんだと?」 「ふふふ、説明はあとだ。勇敢なオーラ。ここであんたの姉さんのふりをして、騙してやっても良かったけれど、そうしなかったあたいを信じな。いいかい、その男はあんたの敵、地這いの蛆虫(うじむし)だ。地這いどもが崇め奉る山の婆ぁたちの飼い犬なんだ。あたいを見張って、ふん縛って、このきれいな目を絶対に開けさせないよう、ずっとずっと邪魔しやがってた。天下の大悪党さ!」 「何を言」 「黙れ!」 ジリオンの手が、ユルスュールの口許を叩いた。凄じい力で。唇が切れた。ユルスュールはあっけにとられ、抗弁するゆとりをも持たなかった。ジリオンはここまで歩み寄って来たのではない。ただ瞬時のうちに、すぐそばに来ていたのだった。 (ただならぬ力が宿っている……これが、庵(いおり)の巫女(みこ)たちの畏(おそ)れた力か?)
【XMDF形式】
※注意 同一の書籍でもファイル形式が異なるものは別商品として取り扱っております。
紙書籍初版:1992年6月25日 デジタル初版:1998年10月2日
ジャンル:和書>小説・ノンフィクション>SF・ファンタジー小説>ファンタジー小説 著: 久美沙織 発行: オンライン出版
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