和書>小説・ノンフィクション>ライトノベル>恋愛
著者プロフィール
久美 沙織(くみ さおり)
1959年4月30日、盛岡市生まれ。O型。上智大学文学部哲学科卒業。
79年「水曜日の夢はとても綺麗な悪夢だった」でデビュー。集英社文庫コバルト・シリーズに、「宿なしミウ」「抱いてアンフィニ」「丘の上のミッキー」シリーズなどがある。
また、「MOTHER」「ソーントーン・サイクル」シリーズなどSF・ファンタジーの分野でも傑作を発表。実力派作家として活躍するかたわら、小説家志望者たちの育成にも力を注いでいる。
1959年4月30日、盛岡市生まれ。O型。上智大学文学部哲学科卒業。
79年「水曜日の夢はとても綺麗な悪夢だった」でデビュー。集英社文庫コバルト・シリーズに、「宿なしミウ」「抱いてアンフィニ」「丘の上のミッキー」シリーズなどがある。
また、「MOTHER」「ソーントーン・サイクル」シリーズなどSF・ファンタジーの分野でも傑作を発表。実力派作家として活躍するかたわら、小説家志望者たちの育成にも力を注いでいる。
解説
アメリカ留学前、僕は玲子と校庭の欅(けやき)の木の下で別れをかわした。「待っていてくれ」と言葉を残して。一年後…僕はまた校庭に立った。帰ることを誰にも知らせないままに。弓道部にいるはずの玲子の姿はどこにもなく、代わりに野枝実がとんできた。彼女は薔薇を育てている“野バラ姫”で、僕に憧れているのだという。
そんな野枝実を、玲子は誰よりも恐れていた――。
そんな野枝実を、玲子は誰よりも恐れていた――。
目次
I
II
III
II
III
抄録
僕は玲子の手から、口紅型のライターを取る。
「きみはいつもどおり毅然(きぜん)としてたそうだね、僕がいなくたって」
「じゃあ寂しい寂しいってめそめそしていればよかったの? 勉強なんか手につかないって、だらしなく落ちてればよかったのね?」
「そうじゃないよ、そんなの玲子らしくない。でも、どうしてあの子に関してだけ、そううろたえるのかわからないんだ」
「だってあの子はするのよ、そういうこと。そしてみんな同情するの」
「……みんなったってね、人なんか」
「弓道部の男の人たちともすぐ仲良くなったわ。あなたが帰ってくるまでに、一本でも当てられるようになりたいんだ、って公言してはばかんなかったわ。それをわたしに、毎週にこにこ見てろっておっしゃるの?」
「……じき、高速だけど、帰るか? 入っちまったら簡単には戻れないぞ」
「帰してあげないわ」
玲子は顔をそむけたまま言った。
「あなたは運転してくれるのよ、ロマンチックな空にかけ登るみたいに」
「玲子、けんかはよそう」
「けんか? けんかじゃないわ。あなたは相手にしてくれないもの。わたしのことヒステリーだって思ってもいいわ。でも笑わないで。笑われたら……」
「笑われたら?」
「葦伸さん」
急に肩にしがみつかれて、危うくハンドルをとられるところだった。玲子の長い爪が、骨をぎりぎりきしませる。
「そしたらもう、だめになる。あの子の思うツボよ」
「野枝実はそんな計画性のある子じゃないよ」
「本能だわ。あの子の本能がたくらむのよ、そうして、わたし、もうワナにはまってる」
「やめてくれよ、たのむから」
玲子が爪を放す。一気に通う血が肩をあつくする。
「冷静に考えてごらん。人が何をどう計画しようと、関係ないだろ。例え、きみが言うとおりあの子が悪だくみしてるとしたって、のらなきゃいいじゃないか」
「…………」
標識が見えた。ウインカーを出して、高速へのルートに入る。
「ばか」
「…………」
「きみがそんなにばかだってこと、知っているたったひとりの人間なんだろ、僕は。まいるよ。この件に関してきみはおかしい。自分じゃわからないか?」
「わからない……ううん、わかってる。でも、失望しないで……おねがい」
「してないって」
加速。
「そういうきみを見てると胸が痛い。痛いってのは、怒ってるんじゃなくて、いとおしいんだぜ、わかるか?」
「きみはいつもどおり毅然(きぜん)としてたそうだね、僕がいなくたって」
「じゃあ寂しい寂しいってめそめそしていればよかったの? 勉強なんか手につかないって、だらしなく落ちてればよかったのね?」
「そうじゃないよ、そんなの玲子らしくない。でも、どうしてあの子に関してだけ、そううろたえるのかわからないんだ」
「だってあの子はするのよ、そういうこと。そしてみんな同情するの」
「……みんなったってね、人なんか」
「弓道部の男の人たちともすぐ仲良くなったわ。あなたが帰ってくるまでに、一本でも当てられるようになりたいんだ、って公言してはばかんなかったわ。それをわたしに、毎週にこにこ見てろっておっしゃるの?」
「……じき、高速だけど、帰るか? 入っちまったら簡単には戻れないぞ」
「帰してあげないわ」
玲子は顔をそむけたまま言った。
「あなたは運転してくれるのよ、ロマンチックな空にかけ登るみたいに」
「玲子、けんかはよそう」
「けんか? けんかじゃないわ。あなたは相手にしてくれないもの。わたしのことヒステリーだって思ってもいいわ。でも笑わないで。笑われたら……」
「笑われたら?」
「葦伸さん」
急に肩にしがみつかれて、危うくハンドルをとられるところだった。玲子の長い爪が、骨をぎりぎりきしませる。
「そしたらもう、だめになる。あの子の思うツボよ」
「野枝実はそんな計画性のある子じゃないよ」
「本能だわ。あの子の本能がたくらむのよ、そうして、わたし、もうワナにはまってる」
「やめてくれよ、たのむから」
玲子が爪を放す。一気に通う血が肩をあつくする。
「冷静に考えてごらん。人が何をどう計画しようと、関係ないだろ。例え、きみが言うとおりあの子が悪だくみしてるとしたって、のらなきゃいいじゃないか」
「…………」
標識が見えた。ウインカーを出して、高速へのルートに入る。
「ばか」
「…………」
「きみがそんなにばかだってこと、知っているたったひとりの人間なんだろ、僕は。まいるよ。この件に関してきみはおかしい。自分じゃわからないか?」
「わからない……ううん、わかってる。でも、失望しないで……おねがい」
「してないって」
加速。
「そういうきみを見てると胸が痛い。痛いってのは、怒ってるんじゃなくて、いとおしいんだぜ、わかるか?」
本の情報
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