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暦がつむぐ恋物語vol.6 魔法使い 〜如月〜

暦がつむぐ恋物語vol.6 魔法使い 〜如月〜

著: 白井かなこ
発行: モバイルメディアリサーチ
シリーズ: 暦がつむぐ恋物語
価格:210円(税込)
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形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
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解説

 暦の移り変わりとともに、あなたに届く恋物語――。
 暦の中で生きる主人公たちが織りなす短編読切り小説が、月刊配信になりました。移りゆく季節の風景とともに、孤独をこえて成長する彼女たちの物語に、あなたもきっと共感するはず。

 第六弾・2月(如月)の主人公・雪乃が、20歳の誕生日の朝に思い出すのは、中学時代の同級生・寺沢くんのこと。当時は自分に「魔法が使える」と信じていた雪乃が、初めて「魔法」を自分以外のために使った相手が、初恋の相手・寺沢くんだった……。

 気鋭の恋愛小説家・白井かなこが毎月お届けする、暦がつむぐ恋物語たち。陰暦の言葉の美しさと季節の移ろいを味わいながら、大人の恋愛小説を堪能しませんか?

抄録

 今日はいつ、昨日になったのだろう。
 明日はいつ、今日になったのだろう。
 
 こんなふうにテスト勉強で徹夜をした私には、よくわからなくなってしまう。
 子どものころは、寝て起きたら明確に、新しい日がはじまっていた。けれど今の私に、その定義は通用しない。

 だいいち、子どもとは、いつまでをいうのだろう。大人とは、いつなるのだろう。
 二十歳の誕生日の朝に、これこそまさに、ふさわしい命題。いかにも、だけれど、今こそ、考えるとき。

 トーストをかじりながら、もう一度よく、考えてみる。
 私はたしかに、子どもだった。子どもだった私は、魔法を使えた。
 自分は魔法使いだと、信じていた。

 たとえば暑い日の教室で、授業中によく魔法を使った。
 校庭の片隅の桜を見て、「風よ、吹け」
 と、心の中で念じる。するとこんもり茂った緑の葉が、ざわりと揺れ、風が吹く。
 それも一度や二度ではない。ほとんど、ずばり。百発百中といってもいいくらい。これは魔法だと信じていた。気づいたのは、幼稚園の年長のころだった。
 
 中学に入ると家の庭の水道に、いつも同じアマガエルを見かけるようになった。
 カエルはおばあさんだった。よれよれのボロを纏(まと)い、赤紫の頭巾をかぶっている、そんなタイプだ。身体は黄色とも黄緑ともつかない、あいまいな保護色をしていて、どっちつかずの色は彼女だけだったから、ほかのカエルとの見分けはたやすくついた。
 カエルの中でも彼女だけが、私に話しかけてくれた。
「もうすぐ雨が降るよ」
 と言われると、必ず雨が降った。私はテレビの天気予報より、彼女の予言をあてにした。
 そう、今流れているような、朝のワイドーショー的ニュース番組で、お天気コーナーのきゃぴきゃぴしたお姉さんが伝える予報なんかより、よっぽど。
 そういえば、カエルのおばあさんは、
「今日は機嫌が悪いのさ。腹がすいているからね」
 と言うことがあって、そうなると、それきり口をきかなくなってしまった。
 だから私は夕方になると、水道の上の外灯をぱちんと灯した。のっそりと彼女が壁に上るのを見ていると、
「ありがとよ」
 と、礼を言われ、彼女は外灯に集まる獲物をねらった。
 私たちは、持ちつ持たれつだった。でも、いつの間にか彼女は姿を見せなくなった。寿命だったのだろう。
 私はたいせつな友人を亡くしたことを悲しみ、しばらくは黒い服を着るようにした。
 
 そんな私に気になる男の子が現れたのは、中学二年生のときだった――食器の後片づけを母に託して、歯磨きをしながら、わかりきっていることを振り返ってみる。
 恋だとか、憧れだとか、気持ちに名前をつけたくなかった。名前をつけてしばってしまうのが、もったいなかった。
 彼は私にとって、とにかく特別な存在だった。

 しゃかしゃかと歯をブラッシングしながら、彼の顔を思い浮かべていると、徹夜明けの朦朧(もうろう)とした頭も、しゃきっとしてくる。歯磨き粉のミントの香りのせいだけではなく。
 気になる人は――それは現在進行形だけれど――うちの近くに家があって、同じクラスで隣の席になった、寺沢くん。
 寺沢くんはチビでいながらバスケ部で、かっこいい上におもしろかった。大きな瞳は、いつだって好奇心でいっぱいだった。
 せつないくらいに運動音痴の私は、スポーツ万能の寺沢くんに、からかわれた。
「如月雪乃」
 彼は私の名前を、必ずフルネームで呼んだ。名前の語呂が、お気に召していたのだろう。
「ドッジボールはさあ、逃げてりゃいいってもんじゃないよ。ダメだなあ」
 私はクラスのドッジボール大会で、毎回、コートに立つ最後のひとりに残っていた。敵からボールを取って投げ返すといった活躍なんて、いっさいしない。ボールが当たらないように、ちょろちょろと怖がって逃げるだけ。
 外野にいる味方の寺沢くんは、敵のボールをキャッチしようとして当てられたあげくの、名誉なのに。
「受け取れ、如月雪乃!」
 寺沢くんが叫ぶ。コートにひとり残った私に、外野からボールを投げる。でも私は怖くて受け取れない。パスされたボールを、ひらりとかわしてしまう。
「ダメだなあ、如月雪乃」
 寺沢くんが、今度は落胆の声を投げかける。

 私と違って寺沢くんは、うんと遠い、別世界に住んでいた。
 スポーツマンで、学級委員だってこなして、バラバラのクラスをまとめあげて、成績だってそこそこで。いたずらっこがそのまま大きくなったような笑顔で、常に誰かを引きつれて。

*この続きは製品版でお楽しみください。

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