和書>小説・ノンフィクション>ホラー>ホラー小説
解説
住民たちは誰も近づかない、いわくつきの丘がその町にはあった。殺人を犯した人間が夜な夜なやって来ては、そこに死体を捨てていく。理由はわからない。だが、ニュースになった死体遺棄事件はすでに六件を数えた。死体が丘──その不吉で忌まわしい丘は、そう呼ばれている。
死体が丘から一キロも離れていない中学校に通う間山昴《まやますばる》は、目の前に禍々しくそびえる丘を見るたび、いつもブルーになる。が、その日はそれを通り越して最悪だった。同級生の八代が死体が丘で肝だめしをやると言い出したのだ。立場の少し弱い昴は、当然のごとく強制参加となり、立ち入り禁止の丘に足を踏み入れる。そこで彼が目にしたものとは……?
霊を超えた霊の恐怖が貴方の背筋を凍らせる……表題作「死体が丘」のほか、携帯世代を襲う呪いの恐怖を描いた中編『ツチクレニンギョウ』を同時収録!
死体が丘から一キロも離れていない中学校に通う間山昴《まやますばる》は、目の前に禍々しくそびえる丘を見るたび、いつもブルーになる。が、その日はそれを通り越して最悪だった。同級生の八代が死体が丘で肝だめしをやると言い出したのだ。立場の少し弱い昴は、当然のごとく強制参加となり、立ち入り禁止の丘に足を踏み入れる。そこで彼が目にしたものとは……?
霊を超えた霊の恐怖が貴方の背筋を凍らせる……表題作「死体が丘」のほか、携帯世代を襲う呪いの恐怖を描いた中編『ツチクレニンギョウ』を同時収録!
目次
死体が丘
ツチクレニンギョウ
ツチクレニンギョウ
抄録
一台の白い車が、夜の道を走っている。
周囲は漆黒に近い闇だ。街灯もなく、車のヘッドライトだけが光源である。
運転しているのは、灰色の作業服を着た中年の男だ。
白髪まじりの前髪が、汗で額にべったりと張りついている。
車内には彼以外の人影はない。
(どれくらい来ただろうか)
男は思った。
道の両脇を挟む雑木林の木の幹が、ヘッドライトに一瞬白く照らされては後方に流れていく。そんな景色が、もう二時間近く続いていた。
もうずいぶんな距離を走ってきたはずだ。かなり遠ざかっただろう。自宅からも、犯行現場からも。
(重い……)
男はふいに、アクセルを踏み込む欲求にかられた。
(車が重い。特に後ろのほうが……トランクのあたりが、重い)
彼はしかし、その考えを理性で打ち消した。
そんなわけがないのだ。たしかにトランクは空ではないが、その積み荷は運転に支障をきたすような重さではない。
(……引きずって運んだときの感触が残っていて、そう感じるだけだ)
男は自分に言い聞かせつつ、額の汗を左手の甲でぬぐった。
(そんなことより、そろそろ捨て場所を決めなければ)
日が落ちたあとに出発して以来、車はいくつもの山を越え、今も山の勾配をくだっていた。窓の外に目を凝らしても、木立ちと、それに絡まる蔦《つた》以外は、闇しか見えない。ここ一時間ほどは、ほかの車とすれ違うこともなかった。
(このへんでいいか……。民家の明かりも見あたらないし、かなり山奥まで来たはずだ)
男はブレーキを踏もうと、右足を浮かせた。
(いや、待て)
が、別の考えが湧き、足をもとの位置に戻した。
(たしか県境の手前に、中学校があったはずだ。あそこは通りすぎただろうか?)
男は懸命に記憶を探った。
しかし夢中で走ってきたせいで、よく覚えていなかった。
(あそこを通過していなければ、まだ隣県にも入っていない。そうなると、まだ市街地からさほど離れていない……)
ためらっているあいだに、道の前方の展望が変わった。
闇を深めていた正体であるところの、ずっと続いていた緑のトンネルが、すこし先で途切れていた。上のほうに、星も出ていない濃紺の空が覗いている。
そして、その暗い空をさらに黒く切り取るように、地上に小山が横たわっていた。
山というほどの規模ではない。
だが森と呼ぶには、地面が弓状に高く盛りあがっていた。
小山、あるいは、丘。そんな感じだった。
丘には木々が密生していた。シルエットでそれは見て取れる。
上空で強い風が吹いているのか、枝からびっしりと生えて垂れさがる葉が、狂ったようにぶつかりあっている。
そんなふうに豊かな自然を育《はぐく》んでいるのに、死んだように暗い丘だった。
男はその丘に、惹かれるものを感じた。
おあつらえ向きに思えたのだ。
しかし、今の彼に一番重要なのは、正確な現在地を知ることだった。
(そうだ、カーナビで確認すればいいんだ。こんなことも思いつかないなんて……)
慣れない作業と緊張のせいで、男は疲れきっていた。
カーナビに手をのばそうと、左手をハンドルから離した。
そのとき、突然、車の前を黒い影がよぎった。
「!?」
男はあわててブレーキを踏んだ。
タイヤが短い悲鳴をあげ、反動に思わず彼は目をつぶる。
なにかにぶつかる衝撃もなく、車は停まった。
(なんだ? 動物か? なんにせよ轢いてはいないだろうが──)
男は目を開け、顔をあげた。
ヘッドライトの中に、黒い小さな人影があった。
車のライトを浴びてもなお黒いそれは、十歳にも満たないような幼い少女だった。黒い大きめのカーディガンをはおっている。彼の車の三メートルほど先、彼のほうを向いて立っていた。
(子供……?)
男は我が目を疑った。
なぜ、ひとりでこんな山奥に? それも、こんな時間に?
とっさに車内の時計を確認する。午前〇時近かった。
そうこうするうちに、少女が歩きはじめた。迷いのない足取りで、車のほうに近づいてくる。
よく見ると、カーディガンの下はパジャマのようだ。そのパジャマも黒く、赤い小さな金魚の柄がところどころに血のように散っていた。
人ならざるものかと、男は一瞬恐怖にかられた。
だが、どうもそんな雰囲気でもない。少女の血色のある頬は、むしろ健康的に見えた。
ただし少女は無表情であった。
少女は車のすぐ前に立ちはだかり、フロントガラスの奥を、運転席の男のほうをじっと見た。
(迷子か……?)
*この続きは製品版でお楽しみください。
周囲は漆黒に近い闇だ。街灯もなく、車のヘッドライトだけが光源である。
運転しているのは、灰色の作業服を着た中年の男だ。
白髪まじりの前髪が、汗で額にべったりと張りついている。
車内には彼以外の人影はない。
(どれくらい来ただろうか)
男は思った。
道の両脇を挟む雑木林の木の幹が、ヘッドライトに一瞬白く照らされては後方に流れていく。そんな景色が、もう二時間近く続いていた。
もうずいぶんな距離を走ってきたはずだ。かなり遠ざかっただろう。自宅からも、犯行現場からも。
(重い……)
男はふいに、アクセルを踏み込む欲求にかられた。
(車が重い。特に後ろのほうが……トランクのあたりが、重い)
彼はしかし、その考えを理性で打ち消した。
そんなわけがないのだ。たしかにトランクは空ではないが、その積み荷は運転に支障をきたすような重さではない。
(……引きずって運んだときの感触が残っていて、そう感じるだけだ)
男は自分に言い聞かせつつ、額の汗を左手の甲でぬぐった。
(そんなことより、そろそろ捨て場所を決めなければ)
日が落ちたあとに出発して以来、車はいくつもの山を越え、今も山の勾配をくだっていた。窓の外に目を凝らしても、木立ちと、それに絡まる蔦《つた》以外は、闇しか見えない。ここ一時間ほどは、ほかの車とすれ違うこともなかった。
(このへんでいいか……。民家の明かりも見あたらないし、かなり山奥まで来たはずだ)
男はブレーキを踏もうと、右足を浮かせた。
(いや、待て)
が、別の考えが湧き、足をもとの位置に戻した。
(たしか県境の手前に、中学校があったはずだ。あそこは通りすぎただろうか?)
男は懸命に記憶を探った。
しかし夢中で走ってきたせいで、よく覚えていなかった。
(あそこを通過していなければ、まだ隣県にも入っていない。そうなると、まだ市街地からさほど離れていない……)
ためらっているあいだに、道の前方の展望が変わった。
闇を深めていた正体であるところの、ずっと続いていた緑のトンネルが、すこし先で途切れていた。上のほうに、星も出ていない濃紺の空が覗いている。
そして、その暗い空をさらに黒く切り取るように、地上に小山が横たわっていた。
山というほどの規模ではない。
だが森と呼ぶには、地面が弓状に高く盛りあがっていた。
小山、あるいは、丘。そんな感じだった。
丘には木々が密生していた。シルエットでそれは見て取れる。
上空で強い風が吹いているのか、枝からびっしりと生えて垂れさがる葉が、狂ったようにぶつかりあっている。
そんなふうに豊かな自然を育《はぐく》んでいるのに、死んだように暗い丘だった。
男はその丘に、惹かれるものを感じた。
おあつらえ向きに思えたのだ。
しかし、今の彼に一番重要なのは、正確な現在地を知ることだった。
(そうだ、カーナビで確認すればいいんだ。こんなことも思いつかないなんて……)
慣れない作業と緊張のせいで、男は疲れきっていた。
カーナビに手をのばそうと、左手をハンドルから離した。
そのとき、突然、車の前を黒い影がよぎった。
「!?」
男はあわててブレーキを踏んだ。
タイヤが短い悲鳴をあげ、反動に思わず彼は目をつぶる。
なにかにぶつかる衝撃もなく、車は停まった。
(なんだ? 動物か? なんにせよ轢いてはいないだろうが──)
男は目を開け、顔をあげた。
ヘッドライトの中に、黒い小さな人影があった。
車のライトを浴びてもなお黒いそれは、十歳にも満たないような幼い少女だった。黒い大きめのカーディガンをはおっている。彼の車の三メートルほど先、彼のほうを向いて立っていた。
(子供……?)
男は我が目を疑った。
なぜ、ひとりでこんな山奥に? それも、こんな時間に?
とっさに車内の時計を確認する。午前〇時近かった。
そうこうするうちに、少女が歩きはじめた。迷いのない足取りで、車のほうに近づいてくる。
よく見ると、カーディガンの下はパジャマのようだ。そのパジャマも黒く、赤い小さな金魚の柄がところどころに血のように散っていた。
人ならざるものかと、男は一瞬恐怖にかられた。
だが、どうもそんな雰囲気でもない。少女の血色のある頬は、むしろ健康的に見えた。
ただし少女は無表情であった。
少女は車のすぐ前に立ちはだかり、フロントガラスの奥を、運転席の男のほうをじっと見た。
(迷子か……?)
*この続きは製品版でお楽しみください。
本の情報
この本を読んだ人は、こんな本も読んでいます
形式
【XMDF形式】
XMDFデータをご覧いただくためには専用のブラウザソフト・ブンコビューア最新版(無料)が必要になります。ブンコビューアはここから無料でダウンロードできます。
詳しくはブンコビューアダウンロード初めての方へをご覧下さい。
対応端末欄に「ソニー“Reader”」と表示されている作品については、eBook Transfer for Readerで“Reader”にファイルを転送する事で閲覧できます。
海外版の“Reader”は対応しておりませんので予めご了承くださいませ。
【bookend形式】
この書籍は、商品の初回閲覧時に必要ソフト「bookend」(無料)を手動インストールする必要があります。
詳細はbookend形式のご利用方法をご覧下さい。
bookend形式の書籍をご覧いただくためにはAdobe Reader最新版(無料)が必要になります。Adobe Reader最新版はここから無料でダウンロードできます。
【MEDUSA形式】MEDUSA形式の作品はブラウザですぐに開いて読むことができます。パソコン、スマートフォン、タブレット端末などで読むことができます。作品はクラウド上に保存さされているためファイル管理の手間は必要ありません。閲覧開始時はネットに接続している必要があります。
詳細はMEDUSA形式のご利用方法をご覧下さい。


























