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和書>小説・ノンフィクションホラーホラー小説

36

36


発行: キリック
価格:500pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
みんなの評価 ★★★☆☆4
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解説

 そのネットカフェにある〈空かず〉の36番席。女性が棲みついているとの噂だが、利用客の誰一人、その女性を見たことがない。そこは都市伝説の赤い部屋。開けてはならぬ赤い部屋──。
 スタイリストになるために大阪から上京した柴崎千春は、東京で暮らしていた恋人、高幡夕陽と一緒に暮らすことになった。憧れのスタイリスト事務所に就職を決め、彼との関係も遠距離恋愛から一気に同棲生活へ。千春には幸せの東京生活が待っている……はずだった。しかしある朝、高幡の携帯に一本の不審な電話が。聞きもしない言い訳を並べたてる彼に、千春は不信感を抱く。さらに、その日の夕方には渋谷で〈年上の美女〉と歩く高幡を目撃。それ以来、二人の関係はこじれ、千春はネットカフェ「peace maker」でしばらく寝泊まりすることに。そんな中、千春は店員にほぼ満席だと言われ、利用したことのない36番席を勧められる。そこは一人の〈女性難民〉が籠っているという噂の、一度も空いたことのない席だった。そして、店員が言った気になる一言「朝まで絶対に開けないでください」。だが、仕事で疲れている千春に、深く考えている余裕はなかった。店員に促されるまま36番席に向かい、そこで……。

 開けてはいけない扉を開けたとき、人は正気ではいられない……インターネットカフェ「36」番席で巻き起こる絶叫オムニバスホラー!

目次

第一章 千春
第二章 司郎
第三章 朝倉
第四章 美樹
第五章 稜

抄録

 ジャングルジムの上。
 気がつくと私は、見知らぬ五歳くらいの少年と鬼ごっこをしていた。その少年はどこか夕陽にも似ていて、水色のシャツがよく似合っている。男の子に追われる私は、メッキが剥がれ落ち、むき出しになっている細い鉄パイプの上をおそるおそる逃げていた。
 金属の匂いがする。鉄パイプをつかむ手には、錆びらしき茶色い粉がこびりついていた。ふと足下に目をやると、立っている場所がジャングルジムではなく細長いビルの屋上に変わっていた。
 私は体が硬くなって動けなくなった。風が吹くたびに左右にしなるビルは、よく見るとチョコレートで出来ている。さっきまで手についていた錆びもチョコレートに変わっていた。思わずなめる。味がまったくしなくてがっかりした。
 急に、真夏のような太陽が攻撃的なまでに照りつけ、立っているビルを溶かしはじめた。上に目を向けると、少年が逆さになって空からチョコレートまみれの私を見つめていた。
 ──ああ、この子は夕陽じゃない。
 逆さになった少年の笑顔は、夕陽の笑顔と違ってバランスがよかった。片方だけ口角を上げるクセがない。いや、この場合、下げると言うべきか。
 チョコレートまみれの私の身体が、少しずつ溶けだした。逆さの少年は、ケタケタと聞いたことのないようなご機嫌な声で笑っている。
 私はただのどろっとした物体なのだが、痛みも何もないからその笑い声につられて笑ってしまう。少年が口を開く。その声は電子音だった──。
「ドアヲ開ケチャダメダヨ」
 声を出して聞き返したいのに、私の口はもう溶けていて、声が出せない。茶色のチョコレートに溶けて浮かぶ私の身体は泡立ったミルクのようで、上空からはラテアートのように見えるかもしれない。
 私が完全に溶けると、少年は大きな竹串で私に絵を描きはじめた。内側から外側へと竹串で引っかき回されると内臓がえぐり出されるように感じられた。しだいに自分とチョコレートの境界線が完全になくなって──。

 我に返った。
 私はカフェラテをスプーンでくるくるとかき混ぜながら「36」の席に座っていた。
 よほど疲れているのだろう。現実に近い白昼夢まで見るようになってきている。どこからが自分の本当の時間なのか見失って不安になった。
 私には、幼稚園の頃にジャングルジムの上から落ちて脳しんとうを起こし、数時間、意識を失っていたことがあるらしい。記憶に曖昧な部分があるからなのか、今、自分が〈存在している〉と思っているこの時間は、意識を失っている幼少の私の、リアルな夢なのかもしれないと感じてしまう。
 有線から流行りのテクノポップユニットの曲が流れていた。間違いない。たしかに、この今が現実の世界で、私は夕陽という彼氏とケンカして家出中の柴崎千春だ。カタカタというキーボードを打つ不規則な音、携帯の向こう側にいる相手とのひそひそ話、声を殺して笑っているカップルの気配。平日よりも賑やかな店内は、私を安心させてくれた。
 カフェラテをゆっくりと喉に流し込む。ぬるい液体になった私が入ってくる。さっきの夢の余韻を楽む余裕が私にはある──。
 ヴィンッ。
 目の前のパソコンが突然、立ち上がったので、私はカップをあやうく落としそうになった。低い、くぐもったパソコンの作動音。生き物が呼吸をしているみたいで気味が悪い。早く消して寝てしまおう。
 スリープボタンを押そうとしたとき、モニタの映像が一瞬、私の目に入る。
 えっ!?
 意味がわからなかった。
 体が硬直する。
 モニタをすみずみまで見つめた。
 余すところなく。
 ──どういうこと?
 そこには、見覚えのある〈あの部屋〉が映っていた。

*この続きは製品版でお楽しみください。

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