和書>小説・ノンフィクション>ライトノベル>異世界ファンタジー
解説
王位奪略を目論む野心家の王弟ゾノトラが国の重要機密がしるされた古地図を持ち出し行方をくらました。王からゾノトラ暗殺の密命を受けたのは、すみれ色の瞳と蜂蜜色の長く美しい髪を持つマルトザ宮廷騎士団屈指の女剣士ヴィオレーヌ。ゾノトラが広大なガリア平原を渡るための荒野案内を雇い、隣国アロハドを目指しているとの情報を得、ヴィオレーヌも腕利きの荒野案内の少女フィゼリーとともにガリア平原へと踏み込んだ──。
ヴィオレーヌは過去の哀しい出来事から自分が女であることを押し殺すべく男物の服で身を包み、宮廷騎士団長である父親の立派な跡目になるべく自らを厳しく律してきた。そんなヴィオレーヌをフィゼリーは道中太陽のような温かさで包み込み、ヴィオレーヌもまたそれを心地よく感じていた。しかし一方で任務遂行後、国の中枢のスキャンダルを知ったフィゼリーの“処遇”のことがヴィオレーヌの脳裡を掠め……。
ヴィオレーヌは過去の哀しい出来事から自分が女であることを押し殺すべく男物の服で身を包み、宮廷騎士団長である父親の立派な跡目になるべく自らを厳しく律してきた。そんなヴィオレーヌをフィゼリーは道中太陽のような温かさで包み込み、ヴィオレーヌもまたそれを心地よく感じていた。しかし一方で任務遂行後、国の中枢のスキャンダルを知ったフィゼリーの“処遇”のことがヴィオレーヌの脳裡を掠め……。
抄録
隣の部屋に入ってまず、フィゼリーはメダから受け取った手燭で、部屋の三か所にある燭台のろうそくに火を灯した。
昼だというのに薄暗い屋外を、風と雨に悩まされながら歩きつづけてきた二人にとっては、その明るさだけでもずいぶん気持ちがほっとするようだった。
「メダおばさんが小屋にいてくれて助かったわ」
と、手燭の火を吹き消して、フィゼリーは呟いた。
「いないこともあるの?」
「ほんのたまにね。アロハドの村に買い物にいったり、用足しをしにいくらしいの。そういうときは留守なのよ」
「ふうん」
「はい、ヴィーの着替えよ」
「ありがとう」
フィゼリーから、自分の服と清潔な拭布を受け取って、ヴィオレーヌはそれを、傍らの寝台の上に置いた。
狭い部屋には寝台が一つと、古びたテーブルと背もたれなしの丸椅子が一つ、それ以外にはなにもなかった。奥の壁に小さな窓があるが、もちろん今は雨戸までしっかりと閉じられている。窓の外では風雨の音がしていた。
ヴィオレーヌとフィゼリーは、絞れるほどに濡れた服を脱ぎ始めた。
たっぷりと水を吸った布は、普段の着替えのときには聞かないような変わった音をたてる。
ヴィオレーヌはまず上衣のボタンをはずし、上着を脱いだ。シャツは、細い共布の紐で前を編み上げにしたもの。紐をほどき、肌に張りつく布地に苦労しながら両腕を抜く。
そして現れた豊かな胸は、むやみに動かないよう、布を幾重にも巻いてしっかりと固定されていた。その布地まで、今はびっしょりと濡れている。ため息をついて、ヴィオレーヌはそれをほどいた。
と。
いきなりフィゼリーが声をあげた。
「まあ、ヴィーったら!」
「っ──」
驚いたヴィオレーヌは、いぶかしげに眉をひそめ、顔を上げて声のぬしを見た。
「なによ、フィズ?」
フィゼリーのほうは早くも濡れた服をすべて脱ぎ、乾いた下着をまとったところ。洗い込んだ生成《きな》りの下着の上下だけという格好で頬を染めつつ目を丸くする姿は、彼女を歳よりも幼く見せた。
目をキラキラさせて、フィゼリーは言う。
「すてきな胸ね、ヴィー!大きくて、ふっくらと形がよくて、白くて……」
むき出しだった胸を、ヴィオレーヌはそそくさと拭布で押さえた。そして面白くない気持ちをそのまま表した表情で「要らないわ、こんなもの」と忌々しげに呟いた。白く細い頸《くび》からは、二つの指輪を通した金の鎖が下がっている。
フィゼリーは不思議そうに首を傾げた。
「どうして要らないの?」
「だって、こんなもの、剣を使うときに邪魔なだけよ。わたしの体の一部が、わたしの剣技の邪魔をするなんて、皮肉以外のなんだって言うの?」
「なに言ってるのよヴィー。要らないわけないでしょ?こんなすてきな胸、要らないなんて言わないでちょうだい。あたしが悲しくなるわ」
「どうしてフィズが悲しくなるのよ」
「どうしてもよ。あたしはヴィーが好きなんだもの。大きさも形もすばらしいのに、布を巻いて押さえてるっていうだけでもものすごくもったいないわ」
「押さえておかないと邪魔なのよ」
ヴィオレーヌはいつしかすっかり赤くなっている顔で、早口に言い足した。
「あっち向いててよ、フィズ。着替えるんだから」
「見ててもいい?」
「だめ!」
「ヴィーはケチね」
*この続きは製品版でお楽しみください。
昼だというのに薄暗い屋外を、風と雨に悩まされながら歩きつづけてきた二人にとっては、その明るさだけでもずいぶん気持ちがほっとするようだった。
「メダおばさんが小屋にいてくれて助かったわ」
と、手燭の火を吹き消して、フィゼリーは呟いた。
「いないこともあるの?」
「ほんのたまにね。アロハドの村に買い物にいったり、用足しをしにいくらしいの。そういうときは留守なのよ」
「ふうん」
「はい、ヴィーの着替えよ」
「ありがとう」
フィゼリーから、自分の服と清潔な拭布を受け取って、ヴィオレーヌはそれを、傍らの寝台の上に置いた。
狭い部屋には寝台が一つと、古びたテーブルと背もたれなしの丸椅子が一つ、それ以外にはなにもなかった。奥の壁に小さな窓があるが、もちろん今は雨戸までしっかりと閉じられている。窓の外では風雨の音がしていた。
ヴィオレーヌとフィゼリーは、絞れるほどに濡れた服を脱ぎ始めた。
たっぷりと水を吸った布は、普段の着替えのときには聞かないような変わった音をたてる。
ヴィオレーヌはまず上衣のボタンをはずし、上着を脱いだ。シャツは、細い共布の紐で前を編み上げにしたもの。紐をほどき、肌に張りつく布地に苦労しながら両腕を抜く。
そして現れた豊かな胸は、むやみに動かないよう、布を幾重にも巻いてしっかりと固定されていた。その布地まで、今はびっしょりと濡れている。ため息をついて、ヴィオレーヌはそれをほどいた。
と。
いきなりフィゼリーが声をあげた。
「まあ、ヴィーったら!」
「っ──」
驚いたヴィオレーヌは、いぶかしげに眉をひそめ、顔を上げて声のぬしを見た。
「なによ、フィズ?」
フィゼリーのほうは早くも濡れた服をすべて脱ぎ、乾いた下着をまとったところ。洗い込んだ生成《きな》りの下着の上下だけという格好で頬を染めつつ目を丸くする姿は、彼女を歳よりも幼く見せた。
目をキラキラさせて、フィゼリーは言う。
「すてきな胸ね、ヴィー!大きくて、ふっくらと形がよくて、白くて……」
むき出しだった胸を、ヴィオレーヌはそそくさと拭布で押さえた。そして面白くない気持ちをそのまま表した表情で「要らないわ、こんなもの」と忌々しげに呟いた。白く細い頸《くび》からは、二つの指輪を通した金の鎖が下がっている。
フィゼリーは不思議そうに首を傾げた。
「どうして要らないの?」
「だって、こんなもの、剣を使うときに邪魔なだけよ。わたしの体の一部が、わたしの剣技の邪魔をするなんて、皮肉以外のなんだって言うの?」
「なに言ってるのよヴィー。要らないわけないでしょ?こんなすてきな胸、要らないなんて言わないでちょうだい。あたしが悲しくなるわ」
「どうしてフィズが悲しくなるのよ」
「どうしてもよ。あたしはヴィーが好きなんだもの。大きさも形もすばらしいのに、布を巻いて押さえてるっていうだけでもものすごくもったいないわ」
「押さえておかないと邪魔なのよ」
ヴィオレーヌはいつしかすっかり赤くなっている顔で、早口に言い足した。
「あっち向いててよ、フィズ。着替えるんだから」
「見ててもいい?」
「だめ!」
「ヴィーはケチね」
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