和書>小説・ノンフィクション>エンターテインメント小説>ハードボイルド小説
著者プロフィール
菊地 秀行(きくち ひでゆき)
昭和24年、千葉県銚子市に生まれる。青山学院大学法学部卒業。在学中に推理小説研究会で活躍。卒業後は、フリーライターで雑誌等に寄稿のかたわら、小説を執筆。昭和57年『魔界都市〈新宿〉』で鮮烈なデビューを飾る。60年から『魔界行』『妖魔戦線』『妖獣都市』等、超伝記官能バイオレンスを発表し人気爆発、超売れっ子作家に。少林寺拳法をたしなみ、ホラー映画を愛し、とにかく小説を書くのが好きな好漢。
昭和24年、千葉県銚子市に生まれる。青山学院大学法学部卒業。在学中に推理小説研究会で活躍。卒業後は、フリーライターで雑誌等に寄稿のかたわら、小説を執筆。昭和57年『魔界都市〈新宿〉』で鮮烈なデビューを飾る。60年から『魔界行』『妖魔戦線』『妖獣都市』等、超伝記官能バイオレンスを発表し人気爆発、超売れっ子作家に。少林寺拳法をたしなみ、ホラー映画を愛し、とにかく小説を書くのが好きな好漢。
解説
近未来の犯罪都市・東京で探偵業を営むおれは、人呼んで“死なずの醍醐”。世界制覇を果たせなかった太古の闘士の魂に乗り移られ殺人鬼と化した、米空軍のブルックリン中佐の退治が今回の仕事だ。驚くことにおれはかつてその闘士を倒した剣士の生まれ変わりらしいのだが…。
目次
第一章 鎧武者 IN THE BAR
第二章 気に食わねえ相棒
第三章 ブルックリンの友人
第四章 我が道を往く
第五章 殺人剣
第六章 竹生島戦争
第七章 征服者
あとがき
第二章 気に食わねえ相棒
第三章 ブルックリンの友人
第四章 我が道を往く
第五章 殺人剣
第六章 竹生島戦争
第七章 征服者
あとがき
抄録
現在、地球を巡る軌道上には二百以上の人工衛星が浮かび、うち、複数の人間が居住し、様々な実験に興じる研究室――いわゆるスペース・ラボは二十を超すという。ほとんどは、アメリカと旧ソ連のもので、イギリス、ドイツが後につづくが、日本製もひとつある。
ブルックリン少佐は、ここと地球を往復するスペース・シャトルの操縦士であると同時に、ラボのエンジニアも兼ねていた。
今から三ヶ月半前、彼は宇宙線に関するテストを行うため、四十五日間ラボに滞在、任務完了後、三人の乗組員とともにシャトルを操り帰還したのである。
ここまでは何の異常もなかった。
大臣どのの言う宇宙生物とやらに、取り憑《つ》かれたのは、大気圏内へ入ってからの自由落下《フリーフォール》の途中であったらしい。
何故わかったのかというと、大気圏内へ突入してからずっと、彼と地上とはもうひとつの実験――精神感応《テレパシー》を行っていたのである。
一九六〇年代に、米海軍が原子力潜水艦ノーチラス号に精神感応者《テレパス》を乗せて、何千マイルか離れた地点から、これも基地《ベース》にいるテレパスのめくるカードの模様をあてさせようとした。――あれと似たような実験だったらしい。
順調に送られていた精神波《サイキック・ウエイブ》に大きな乱れが生じたとき、NASAの担当者は、その波形が決して人間に有り得ないもの、すなわち地球外生命体の思考波と判断した。この断定も凄い。
案の定、その思考波に支配されたブルックリンは、乗員を虐殺。シャトルをギリシャの一孤島へと激突させ、自らは脱出装置で事前に機を離れた。
シャトルの激突が、近くに着陸の場所がなかったからでも、燃料切れその他の理由による偶発的なものでもない、極めて意図的な、精緻な計算による結果であることは、NASAの係員が現地にとんだその日に明白になった。
直径五十メートルに及ぶ破壊孔の底から、古代文明の廃城と思《おぼ》しい遺跡が出現していたのだ。
島に住む漁師に問い質《ただ》すと、この島には、オリンポスの神々に倒された天界の妖魔の城があったという伝説が伝えられているという。ギリシャ神話の舞台の真っ只なかにありながら、これが研究者の注目を引かなかったのは、他の神話体系から全く隔絶した後代の偽作と見なされたためである。目下は、ギリシャとアメリカ両政府の手で隔離され、誰ひとり入ることができない。
以下の事情は、その遺跡の壁から発見された古代文字の解読によって知れたものである。
太古に天界から地上へやってきたひとりの闘士が、その持つ長剣と数々の奇怪な力でもって近隣を征服し、ついに、地の果ての国にまでその力を及ぼそうとしたが、彼の地に住む一剣士に阻まれ、天界へ追放された。
しかし、闘士の魂は今も天界へは戻れず、地上遙かをさまよっており、条件さえ揃えばいつの日か再度地上へ降臨、何処かへ秘匿した愛刀を手に世界制覇の挙に出るという。
しかし、それを予期した地の果ての学者は、闘士の復活に合わせ、彼を破った剣士の霊魂をも甦《よみがえ》るよう地上の神に祈った。かくて、天界の闘士が新たな地上征服に乗り出す際には、まず、再生した剣士を斃さねばならない羽目に陥ったのである。
――と、ここまで解読した時点で、米軍とNASAは、この伝説が少くともある程度までは真実を伝えていることを知った。
アテネ市内でブルックリンが発見され、逮捕に向かった警官十数名が虐殺されたのを皮切りに、彼を阻止しようとする者は、ことごとく死を迎えたのである。
銃弾も火炎放射器も、一介の軍人の歩みを阻止することは出来なかった。おれの部屋での戦いぶりの通り、彼は不死の魔物だったのだ。
アテネ港から密輸船に乗りこみ、日本へと向かったブルックリンを、米海軍はインド洋上で捕捉。極秘裡に拿捕《だほ》したが、なんと、ブルックリンは戦闘機を奪って脱出、ついに日本へ辿り着いたのである。
ここまで書けばわかるだろう。
さすがのおれも、ビール缶片手の万里に、
「その剣士の生まれ変わりがあなたよ」
と指さされたときは、のけぞってしまった。
今や一笑に付せなくなったのは、ご存知の通りだが、さて、どうしたものか。
春の陽ざしは明るいが、おれの胸の中までは到底届かない。
ブルックリン少佐は、ここと地球を往復するスペース・シャトルの操縦士であると同時に、ラボのエンジニアも兼ねていた。
今から三ヶ月半前、彼は宇宙線に関するテストを行うため、四十五日間ラボに滞在、任務完了後、三人の乗組員とともにシャトルを操り帰還したのである。
ここまでは何の異常もなかった。
大臣どのの言う宇宙生物とやらに、取り憑《つ》かれたのは、大気圏内へ入ってからの自由落下《フリーフォール》の途中であったらしい。
何故わかったのかというと、大気圏内へ突入してからずっと、彼と地上とはもうひとつの実験――精神感応《テレパシー》を行っていたのである。
一九六〇年代に、米海軍が原子力潜水艦ノーチラス号に精神感応者《テレパス》を乗せて、何千マイルか離れた地点から、これも基地《ベース》にいるテレパスのめくるカードの模様をあてさせようとした。――あれと似たような実験だったらしい。
順調に送られていた精神波《サイキック・ウエイブ》に大きな乱れが生じたとき、NASAの担当者は、その波形が決して人間に有り得ないもの、すなわち地球外生命体の思考波と判断した。この断定も凄い。
案の定、その思考波に支配されたブルックリンは、乗員を虐殺。シャトルをギリシャの一孤島へと激突させ、自らは脱出装置で事前に機を離れた。
シャトルの激突が、近くに着陸の場所がなかったからでも、燃料切れその他の理由による偶発的なものでもない、極めて意図的な、精緻な計算による結果であることは、NASAの係員が現地にとんだその日に明白になった。
直径五十メートルに及ぶ破壊孔の底から、古代文明の廃城と思《おぼ》しい遺跡が出現していたのだ。
島に住む漁師に問い質《ただ》すと、この島には、オリンポスの神々に倒された天界の妖魔の城があったという伝説が伝えられているという。ギリシャ神話の舞台の真っ只なかにありながら、これが研究者の注目を引かなかったのは、他の神話体系から全く隔絶した後代の偽作と見なされたためである。目下は、ギリシャとアメリカ両政府の手で隔離され、誰ひとり入ることができない。
以下の事情は、その遺跡の壁から発見された古代文字の解読によって知れたものである。
太古に天界から地上へやってきたひとりの闘士が、その持つ長剣と数々の奇怪な力でもって近隣を征服し、ついに、地の果ての国にまでその力を及ぼそうとしたが、彼の地に住む一剣士に阻まれ、天界へ追放された。
しかし、闘士の魂は今も天界へは戻れず、地上遙かをさまよっており、条件さえ揃えばいつの日か再度地上へ降臨、何処かへ秘匿した愛刀を手に世界制覇の挙に出るという。
しかし、それを予期した地の果ての学者は、闘士の復活に合わせ、彼を破った剣士の霊魂をも甦《よみがえ》るよう地上の神に祈った。かくて、天界の闘士が新たな地上征服に乗り出す際には、まず、再生した剣士を斃さねばならない羽目に陥ったのである。
――と、ここまで解読した時点で、米軍とNASAは、この伝説が少くともある程度までは真実を伝えていることを知った。
アテネ市内でブルックリンが発見され、逮捕に向かった警官十数名が虐殺されたのを皮切りに、彼を阻止しようとする者は、ことごとく死を迎えたのである。
銃弾も火炎放射器も、一介の軍人の歩みを阻止することは出来なかった。おれの部屋での戦いぶりの通り、彼は不死の魔物だったのだ。
アテネ港から密輸船に乗りこみ、日本へと向かったブルックリンを、米海軍はインド洋上で捕捉。極秘裡に拿捕《だほ》したが、なんと、ブルックリンは戦闘機を奪って脱出、ついに日本へ辿り着いたのである。
ここまで書けばわかるだろう。
さすがのおれも、ビール缶片手の万里に、
「その剣士の生まれ変わりがあなたよ」
と指さされたときは、のけぞってしまった。
今や一笑に付せなくなったのは、ご存知の通りだが、さて、どうしたものか。
春の陽ざしは明るいが、おれの胸の中までは到底届かない。
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