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紅蜘蛛男爵

紅蜘蛛男爵

著: 菊地秀行
発行: 実業之日本社
価格:567円(税込)
10ポイント還元
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対応端末:パソコン ソニー“Reader”
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著者プロフィール

 菊地 秀行(きくち ひでゆき)
 昭和24年、千葉県銚子市に生まれる。青山学院大学法学部卒業。在学中に推理小説研究会で活躍。卒業後は、フリーライターで雑誌等に寄稿のかたわら、小説を執筆。昭和57年『魔界都市〈新宿〉』で鮮烈なデビューを飾る。60年から『魔界行』『妖魔戦線』『妖獣都市』等、超伝記官能バイオレンスを発表し人気爆発、超売れっ子作家に。少林寺拳法をたしなみ、ホラー映画を愛し、とにかく小説を書くのが好きな好漢。

解説

 ご存知揉め事処理屋《トラブル・シューター》・醍醐蘭馬。今回のお相手は、宿命のライバル・紅蜘蛛男爵こと紅蓮田十馬《ぐれんだとうま》。奥秩父に建つ謎の洋館に捕らわれた美人ライターを救うため、そして積年の恨みつらみを晴らすため、毒蜘蛛VS毒蜘蛛の凄絶な死闘がいま、始まる──!

目次

PART1 城の主
PART2 朱青《しゅせい》の虫
PART3 真打ち登場
PART4 蒼い蜘蛛の逆襲
PART5 病院奇談
PART6 蜘蛛VS蜘蛛
あとがき

抄録

「あの紅い蜘蛛は何ですの?」
「蜘蛛?」
 美摩子は、ぎょっとしたように眉を寄せた。
「あの、紅い蜘蛛です。昼間、ホールで見かけました」
「ああ。――この辺は蜘蛛がとっても多いのです。専門の学者さんだってご存知ないことですが、屋敷の周りは、野生の蜘蛛の宝庫なのですわ。――お好き?」
「やだ!」
 両手で肩を抱く知沙を見て、夫人は声を上げて笑った。
「そんなに嫌がらなくても。――よく見れば可愛い虫ですわよ。私も最初は気味が悪かったけれど、今は随分と慣れました。あの妙に長い手足がお嫌なのでしょう。でも、好きになると、あれが蜘蛛の持ち味だとわかってきます」
「なんという蜘蛛なんですか?」
「あなたがご覧になったの?――訊いてごらんなさい」
「え?」
 と夫人の顔を見つめたが、うすく笑っているばかりだ。
「クリームが溶けるぜ」
 ぽつりと恭助に言われ、釈然としないまま、知沙はバニラの白い山をひとさじすくい取って、口に入れた。
 甘く冷たい味が溶けていく。
 いきなりそれが動いた。
 声にならない叫びを上げて、知沙はそれを吐き出した。
 白いテーブルクロスの一点に、紅い染みがつけられ、細長い手足を動かしていた。
「あら、そんなところに。ご免なさい。アイスの中に入っていたらしいわ。でも、そのまま呑みこんだら、どうなっていたでしょうね。きっと、誰もが味わったことのない感覚よ」
 こらえ切れなくなったように笑い出す夫人を、知沙は戦慄《せんりつ》と怒りのこもった眼で見つめ、
「――失礼します」
 と席を立った。
 食堂を出て、部屋への通路を辿っていくと、恭助が追いかけてきた。
「馬鹿だな。失礼な真似《まね》するなよ」
「何が失礼よ」
 憤怒《ふんぬ》が知沙の足を動かしつづけた。
「他のことなら我慢するわよ。だけど、蜘蛛を食べさせられそうになったのよ!」
「食べさせられそうにって、あの女性だって、わざとやったわけじゃねえだろうが。紛れこんでただけだよ」
「どこの世の中に、アイスクリームにもぐりこむ蜘蛛がいるのよ。絶対にわざとよ」
「そんなことして、何の得があるんだ?」
「‘そこ’よ」
 と知沙は足を止め、恭助の鼻先に人さし指を突きつけた。
「あの女性《ひと》、私たちを狙ってるのよ。理由はわからないけど、この屋敷に幽閉するつもりだわ」
「おい」
「でも、それは、あの女性《ひと》の本意じゃない。敏美って息子――声しか出さないあいつが命令しているのよ」
「おれもそう思う」
 恭助の口調が変わった。はっと見つめる知沙へ、
「実は、食事の前に、この家ん中をあちこち歩いてみたんだ。面白いものを見つけたよ。敏美の部屋だ」
「……」
「ドアが開いてた」
「のぞいたの?」
 自分の声が耳に粘《ねば》ついた。
「――何があったと思う?」

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