和書>小説・ノンフィクション>ライトノベル>アクション
解説
名前カンダタ。年齢58歳。無職。離婚歴、前科ともにあり。薄汚れた中年オヤジである彼は、大国アースガルドでこそ泥稼業を営む身だ。でも、最近はめっきりやりにくい。捕まれば即、闘技場送り。美少年剣士イヴァンに、ばっさり斬られてしまうのだ。ある日、カンダタは意を決して、豪邸に忍び込む。そこで目にしたのは、あの闘技場の覇者イヴァンの、予想外の姿だった……。ホワイトハート新人賞受賞作!
目次
カンダタ
抄録
年齢五十八歳。
職業無職。
離婚歴、前科共にあり。
現在独身。
典型的なダメオヤジのカンダタは今日も、しがないこそ泥稼業で小金を稼ぐ。ちょっとした短気が原因で上司に手をあげ仕事をクビになり、妻と子供に出て行かれたあの日からカンダタの人生はずっとこんなだ。
「あーあ、昔はよかったよな。嫁さんがいて、ピートがいてよ。楽しかったな」
どこか遠出をしていて、丁度帰る途中なのだろう。すっかり夜も更けたこの時間、ほとんど誰も通らない道を、一台の馬車がゆっくりと通り過ぎて行く。御者も馬も共に眠たそうだが、馬車の中で子供がひとり、大きなぬいぐるみを抱えて嬉しそうに騒いでいる。
子供は元気そうだが、向かいに座るお父さんとお母さんは御者や馬と同様、一様に疲れた顔をしている。
こんな光景を見ていると、ついつい昔を思い出してしまう。彼もまだ仕事をしていた頃、よくこうして妻と子供を連れて遠出をしたものだ。
それほどの高給取りでもなかったくせに、子供が喜ぶからと無理して買った馬車。上流階級に所属する貴族や、中流でも裕福な商人の家でもない限り買えないのが馬車。結局手放すことになったのだが、それでもカンダタはあの時馬車を買ったことを後悔していない。
「よお、ボウヤ。休みだから、どっかに連れてってもらったのか?」
そう声をかけようと、半ば本気で思ったが、それよりも早く馬車は通り過ぎてしまう。カンダタは、子供が大好き。子供を見ると、ついつい嫁さんと共に出て行ってしまった一人息子ピートを思い出してしまうのだ。
もう二十年以上も前のことだ。ピートはもう、とっくに成人しているはず。なのに、カンダタの中でピートは幼いピートのまま。カンダタにとってピートは、幸せだった頃の象徴。最も温かい、思い出の中だけでの存在。
だから、永久に歳を取らない。
「パパ、ばいばーい!」
嫁さんに手を引かれるまま、ことの重大さをわかっていない幼いピートは、そう笑顔で手を振っていた。それ以来、父と息子が顔を合わせたことは一度もない。
カンダタはどんどん遠くなっていく蹄の音を聞きながら、寂しそうに肩を落とす。
「ま、人生なんてこんなもんだよな?」
仕事をクビになり妻と子供に出て行かれた後も、カンダタはなんとか縒りを戻してもらおうと努力した。どうにか再就職しようと頑張ったつもりだったが、結果は見てのとおり。今では縒りを戻すどころか、その日の生活の糧を得るだけでも大変だ。
その上、最近ではもっと、きつい事情がついてまわる。カンダタは路地裏の壁にあったポスターを一瞥し、身を竦ませる。
そこにあるのは可愛らしい黒髪の子供が血に濡れた剣を構え、こちらに向かって挑発的に微笑むイラスト。路地裏のポスターともなれば、落書きの一つでもあるのが普通なのだが、このポスターに落書きはできない。
そう、最近では落書き一つ許されぬ時代になったのだ。いや、落書きだけではない。ちょっとした盗みや猥褻罪もそうだが、ゴミのポイ捨てやケンカもなし。果ては、酔っ払うことさえできやしない。
*この続きは製品版でお楽しみください。
職業無職。
離婚歴、前科共にあり。
現在独身。
典型的なダメオヤジのカンダタは今日も、しがないこそ泥稼業で小金を稼ぐ。ちょっとした短気が原因で上司に手をあげ仕事をクビになり、妻と子供に出て行かれたあの日からカンダタの人生はずっとこんなだ。
「あーあ、昔はよかったよな。嫁さんがいて、ピートがいてよ。楽しかったな」
どこか遠出をしていて、丁度帰る途中なのだろう。すっかり夜も更けたこの時間、ほとんど誰も通らない道を、一台の馬車がゆっくりと通り過ぎて行く。御者も馬も共に眠たそうだが、馬車の中で子供がひとり、大きなぬいぐるみを抱えて嬉しそうに騒いでいる。
子供は元気そうだが、向かいに座るお父さんとお母さんは御者や馬と同様、一様に疲れた顔をしている。
こんな光景を見ていると、ついつい昔を思い出してしまう。彼もまだ仕事をしていた頃、よくこうして妻と子供を連れて遠出をしたものだ。
それほどの高給取りでもなかったくせに、子供が喜ぶからと無理して買った馬車。上流階級に所属する貴族や、中流でも裕福な商人の家でもない限り買えないのが馬車。結局手放すことになったのだが、それでもカンダタはあの時馬車を買ったことを後悔していない。
「よお、ボウヤ。休みだから、どっかに連れてってもらったのか?」
そう声をかけようと、半ば本気で思ったが、それよりも早く馬車は通り過ぎてしまう。カンダタは、子供が大好き。子供を見ると、ついつい嫁さんと共に出て行ってしまった一人息子ピートを思い出してしまうのだ。
もう二十年以上も前のことだ。ピートはもう、とっくに成人しているはず。なのに、カンダタの中でピートは幼いピートのまま。カンダタにとってピートは、幸せだった頃の象徴。最も温かい、思い出の中だけでの存在。
だから、永久に歳を取らない。
「パパ、ばいばーい!」
嫁さんに手を引かれるまま、ことの重大さをわかっていない幼いピートは、そう笑顔で手を振っていた。それ以来、父と息子が顔を合わせたことは一度もない。
カンダタはどんどん遠くなっていく蹄の音を聞きながら、寂しそうに肩を落とす。
「ま、人生なんてこんなもんだよな?」
仕事をクビになり妻と子供に出て行かれた後も、カンダタはなんとか縒りを戻してもらおうと努力した。どうにか再就職しようと頑張ったつもりだったが、結果は見てのとおり。今では縒りを戻すどころか、その日の生活の糧を得るだけでも大変だ。
その上、最近ではもっと、きつい事情がついてまわる。カンダタは路地裏の壁にあったポスターを一瞥し、身を竦ませる。
そこにあるのは可愛らしい黒髪の子供が血に濡れた剣を構え、こちらに向かって挑発的に微笑むイラスト。路地裏のポスターともなれば、落書きの一つでもあるのが普通なのだが、このポスターに落書きはできない。
そう、最近では落書き一つ許されぬ時代になったのだ。いや、落書きだけではない。ちょっとした盗みや猥褻罪もそうだが、ゴミのポイ捨てやケンカもなし。果ては、酔っ払うことさえできやしない。
*この続きは製品版でお楽しみください。




















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