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著者プロフィール
梅津 裕一(うめつ ゆういち)
『妄想代理人』(原作/今敏)『闇魔術師ネフィリス』『アザゼルの鎖』(すべて角川書店・刊)など、著書多数。ダークファンタジーな世界観で読者を魅了する。
『妄想代理人』(原作/今敏)『闇魔術師ネフィリス』『アザゼルの鎖』(すべて角川書店・刊)など、著書多数。ダークファンタジーな世界観で読者を魅了する。
解説
黒根学園には、七不思議よりも怪談よりも、はるかに危険な『おぞましい話』なる噂があった。人一倍、好奇心旺盛な一年生の菅原猫美は、まるで引き寄せられるようにして、その噂の一つ『ホルマリン漬けの生首』に興味を抱く。そんな彼女の前にある日、一人の少女が現れる。大きな黒縁眼鏡に、おかっぱ頭。肌が白く、まるで人形のような顔立ち。それは関わった相手を不幸にすると言われる三年の生徒、一条ニコだった。そして、猫美に警告する。──この学校の『おぞましい話』には近づくな。だが猫美は自分の好奇心を抑えられなかった。「好奇心、猫を殺す」ということわざを、彼女は知らない……。
怪談とは次元の違うおぞましさ! 電子限定、著者渾身の学園オムニバス・ショートホラー!!
怪談とは次元の違うおぞましさ! 電子限定、著者渾身の学園オムニバス・ショートホラー!!
目次
一時限目 ホルマリン漬けの生首
二時限目 プールの中の少女
三時限目 怪奇ミイラ女
四時限目 邪眼
五時限目 猫の塊
六時限目 予言する少女
放課後
二時限目 プールの中の少女
三時限目 怪奇ミイラ女
四時限目 邪眼
五時限目 猫の塊
六時限目 予言する少女
放課後
抄録
「彼女」が扉を開けたとたん、教室の中がしんと静まり返った。
毎朝のように、このクラスで繰り返されている光景である。
ひそやかな声があがり、やがてざわめきに変わっていく。その声には露骨な嫌悪と悪意が満ちていた。
「また来たよ」
「本当、周囲の迷惑とか考えてくれないかなあ」
「つうか、くせーし」
「あれってさー……ホームレス系の匂いだよな」
「いわゆる『動物園の匂い』ってやつ?」
嫌な笑い声が響き渡る。
だが、それも無理もないことかもしれない。ドアから入ってきた少女、貝木美衣の姿は、ひと言でいえばみすぼらしすぎた。
ろくに洗濯もしてないのか、ブラウスの襟のあたりが黄ばんでいる。髪もばさばさで、毎日入浴しているとは思えなかった。
スカートもしわだらけで、特に潔癖性ではなくても、一般の日本人の若者感覚からすればひどく不潔に見えるはずだ。
少なくとも則子の目にはそう映った。
気持ち悪いと正直、思うときもある。
ただ貧相な身なりをしているだけではなく、貝木美衣は異様なほどに痩《や》せこけていた。
ほとんど不気味といってもいいほどだ。
肌には若者らしい生気がなく、ざらざらとして黄ばんでいる。顔などはほとんど髑髏《どくろ》に皮を張りつけたかのようだ。もともと女子にしては長身なので、枯れ木のようにも見える。
口の悪い者に言わせれば「ミイラ」というべきか。
貝木美衣は「カイキミイ」と発音するのだが、ある日、男子の一人がこの後ろに「ラ」をつければ「カイキミイラ」となることに気づいてしまった。
以来、貝木美衣は公然と「怪奇ミイラ女」などと呼ばれている。
あまりにもやつれたその姿は、ときおり「本当に生きているのか」と不思議にさえ思うが、学校で行う健康診断では特に異常はないらしい。
職員の間でも、貝木美衣は問題になっているという。だがどうにも家庭環境が複雑で、保護者である祖父と祖母は家で寝たきりの状態らしかった。直接、面談に行こうにも、二人とも「ボケている」という話である。
学校を通じてソーシャルワーカーなども何度となく貝木家を訪れているが、祖父も祖母も居留守を決め込んで、決して表には出てこないそうだ。もっとも、ボケてしまっているのであればどのみち話にならないが。
いずれ誰かがなんとかしなければならないとわかってはいるのだが、誰もが彼女には極力関わりたくなかった。大人の世界でも、それがみんなの本音らしい。
その貝木美衣が、ゆっくりと席に着いた。
動きがひどく緩慢で、まるで本当に怪奇映画に出てくるミイラのようだ。
アンモニアと生物の腐敗臭、それに外国のお香のような匂いが混じり合った、独特の臭気を漂わせている。
正直にいえば、則子はこの匂いが苦手だ。かといって露骨に顔をしかめたりはしなかった。
きっと貝木美衣は家庭の事情などもあり、いろいろ苦労しているのだろう。祖母や祖父の世話をしながら、高校にもきちんと通っているのだ。
経済的にも彼女は困窮《こんきゅう》しているらしい。なにしろ収入といえば祖母と祖父の年金だけなのだ。
貧乏といってしまえばそれまでだが、則子にとっては想像もつかない世界である。
則子の家は、黒根市でも有数の資産家であり、かなりの土地を所有していた。父は市会議員を務めている、地元の名士なのだ。
だから金銭に不自由したことはない。
かといって、則子は浪費家のわがまま娘、というわけでもなかった。小遣いも世間一般の高校生と同じか、むしろ少ないほうだろう。両親からお金の大切さについては学んでいる。
「もしかしてさ」
則子の前の席に座っている洋子が、くすくすと笑った。
「ミイラ女って、貧乏だから食い物、買うお金もないんじゃないの?」
貝木美衣が、どこか媚びへつらうような、弱々しい笑みを浮かべる。
それは見ていて愉快なものではなかった。あまりにも卑屈で、かえって人を苛立たせるような笑いなのだ。
「きめえ」
洋子が舌打ちした。
(四時限目 怪奇ミイラ女より)
*この続きは製品版でお楽しみください。
毎朝のように、このクラスで繰り返されている光景である。
ひそやかな声があがり、やがてざわめきに変わっていく。その声には露骨な嫌悪と悪意が満ちていた。
「また来たよ」
「本当、周囲の迷惑とか考えてくれないかなあ」
「つうか、くせーし」
「あれってさー……ホームレス系の匂いだよな」
「いわゆる『動物園の匂い』ってやつ?」
嫌な笑い声が響き渡る。
だが、それも無理もないことかもしれない。ドアから入ってきた少女、貝木美衣の姿は、ひと言でいえばみすぼらしすぎた。
ろくに洗濯もしてないのか、ブラウスの襟のあたりが黄ばんでいる。髪もばさばさで、毎日入浴しているとは思えなかった。
スカートもしわだらけで、特に潔癖性ではなくても、一般の日本人の若者感覚からすればひどく不潔に見えるはずだ。
少なくとも則子の目にはそう映った。
気持ち悪いと正直、思うときもある。
ただ貧相な身なりをしているだけではなく、貝木美衣は異様なほどに痩《や》せこけていた。
ほとんど不気味といってもいいほどだ。
肌には若者らしい生気がなく、ざらざらとして黄ばんでいる。顔などはほとんど髑髏《どくろ》に皮を張りつけたかのようだ。もともと女子にしては長身なので、枯れ木のようにも見える。
口の悪い者に言わせれば「ミイラ」というべきか。
貝木美衣は「カイキミイ」と発音するのだが、ある日、男子の一人がこの後ろに「ラ」をつければ「カイキミイラ」となることに気づいてしまった。
以来、貝木美衣は公然と「怪奇ミイラ女」などと呼ばれている。
あまりにもやつれたその姿は、ときおり「本当に生きているのか」と不思議にさえ思うが、学校で行う健康診断では特に異常はないらしい。
職員の間でも、貝木美衣は問題になっているという。だがどうにも家庭環境が複雑で、保護者である祖父と祖母は家で寝たきりの状態らしかった。直接、面談に行こうにも、二人とも「ボケている」という話である。
学校を通じてソーシャルワーカーなども何度となく貝木家を訪れているが、祖父も祖母も居留守を決め込んで、決して表には出てこないそうだ。もっとも、ボケてしまっているのであればどのみち話にならないが。
いずれ誰かがなんとかしなければならないとわかってはいるのだが、誰もが彼女には極力関わりたくなかった。大人の世界でも、それがみんなの本音らしい。
その貝木美衣が、ゆっくりと席に着いた。
動きがひどく緩慢で、まるで本当に怪奇映画に出てくるミイラのようだ。
アンモニアと生物の腐敗臭、それに外国のお香のような匂いが混じり合った、独特の臭気を漂わせている。
正直にいえば、則子はこの匂いが苦手だ。かといって露骨に顔をしかめたりはしなかった。
きっと貝木美衣は家庭の事情などもあり、いろいろ苦労しているのだろう。祖母や祖父の世話をしながら、高校にもきちんと通っているのだ。
経済的にも彼女は困窮《こんきゅう》しているらしい。なにしろ収入といえば祖母と祖父の年金だけなのだ。
貧乏といってしまえばそれまでだが、則子にとっては想像もつかない世界である。
則子の家は、黒根市でも有数の資産家であり、かなりの土地を所有していた。父は市会議員を務めている、地元の名士なのだ。
だから金銭に不自由したことはない。
かといって、則子は浪費家のわがまま娘、というわけでもなかった。小遣いも世間一般の高校生と同じか、むしろ少ないほうだろう。両親からお金の大切さについては学んでいる。
「もしかしてさ」
則子の前の席に座っている洋子が、くすくすと笑った。
「ミイラ女って、貧乏だから食い物、買うお金もないんじゃないの?」
貝木美衣が、どこか媚びへつらうような、弱々しい笑みを浮かべる。
それは見ていて愉快なものではなかった。あまりにも卑屈で、かえって人を苛立たせるような笑いなのだ。
「きめえ」
洋子が舌打ちした。
(四時限目 怪奇ミイラ女より)
*この続きは製品版でお楽しみください。
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