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人工臓器停止法案
著: イイノヨシカズ発行: パブリッシングリンク
レーベル: Timebook Town
価格:158円(税込)
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対応端末:パソコン ソニー“Reader”
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解説
舞台は近未来の日本。人工臓器が発達したおかげで、平均寿命は男性88歳、女性94歳を上回っていた。しかし、年金や健保関連の経費増大に悲鳴を上げた政府により、百歳ですべての人の人工臓器を停止する「人工臓器停止法案」が国会を通過した。光村ミサは間もなく百歳の誕生日を迎える「ひーばあ」を救うために、人工臓器の生産市場を独占している帝国人工臓器に入社し、ひーばあを救う方法を探ろうとするのだが……。ユーモアとアクション満載、ラストまでまっしぐらの痛快作!
目次
人工臓器停止法案
抄録
ホテルを出ると、秋風が頬に心地よかった。年ごとに長くなっている東京の残暑。今年もやっと終わった。昔は若者の町と言われたこの辺りも今では中高年が我が物顔で歩いている。マイノリティーであることが不愉快で、若者たちはもっと小さなエリアに遊びの中心を移していった。
シュンと山手線に乗って自宅に向かった。車両連結部の近くに立つと、お婆さん2人とお爺さん1人が一斉に立ち上がって席を譲ろうとした。窓ガラスに貼られた「若者優先席」のシールが目に入る。
あくまでも断ろうとすると、お爺さんが黒のサングラスを少し下にずらし、上目使いに車両の隅を指差した。1台のカメラがこっちを見下ろしていた。
「ほれ、日本国政府が見とる」
それでも座らずにいると、お爺さんが続けた。
「わしなんかのう、体の中も、外も、サイボーグみたいなもんじゃから気にせんでくれ」と言って、ゆったりとしたズボンの裾(すそ)を少し上げてみせた。灰色の強化プラスチックのようなものが見えた。脚力を補強するロボット服らしい。
白髪を刈り上げたお爺さんの後頭部から黒い電線が2本出ている。この電線が襟足(えりあし)からシャツの中を降り、下半身を包むロボット服に接続されているようだった
カメラの手前、仕方なく「若者優先席」にシュンと並んで座ると、ほどなく自宅の最寄り駅に着いた。立ち上がると、まだ前にいたお爺さんが、白手袋をした手を差し出して握手を求めてきたので意味も分からずに応じた。ひんやりして固い。金属製の手だ。戸惑いがミサの顔に浮かぶと、それを待ってたかのようにお爺さんがにやりと笑った。
ホームを歩きながら電車のまん中あたりの「妊婦専用車両」の中をなにげなく見ると、がらがらの車内にぽつんと座っている女性と目が合った。その女性は視線を落とすと、大事そうにお腹に手を当てた。
改札を出て右に曲がると、下り坂の大通りに沿って歩いた。
シュンは、と見ると、いつものように腰ではいたジーンズの前ポケットに両手の親指をひっかけて歩いている。心なしか緊張している様子だった。ひ祖母の誕生祝いで家族全員が揃うので皆に紹介すると言ってあった。ひーばあ、ひーじい、オバア、オジイ、パパ、ママそれからミサの縦長4世代7人家族だった。オジイもパパもミサも一人っ子で兄弟がいない、だから縦長と呼んでいた。
歩道に屋根の付いた昔ながらの商店街が続いている。ラーメン屋も寿司屋もトンカツ屋も金物屋も古本屋も皆がんばっていた。ハイテク全盛のこの時代に心からほっとできる場所だった。行き過ぎかけた古本屋に見慣れた人影を見た気がして店内をのぞき込んだ。
「ひーばあ!」
ひーばあは小さな背中を丸めて、開いた本を抱え込み、メガネを上にずらして一心不乱に読んでいた。近づいてから耳元に向かって大声でもう1度呼んだ。
「ひーばあ!」
ひーばあはこっちの顔をぼーっと見つめると、なんとなく笑顔を作った。
「あんたかい」
「ミ、サ、だ、よ」
「分かってるわよ」と言って、ひーばあは急いで本の世界に戻ろうとする。
「ひーばあ、何そんなに一所懸命読んでるの?」
「驚いたわよ、まったく。『時は流れて』なんて、ろくでもないタイトルだと思ったけど、なんとなく気になって読んでみたら私の人生そっくりなのよ、この人。でもだれかしらこの馬派カノンって。私と同じでバッハが好きだったりして」
「その本……は……先月……ひーばあが自費出版した自伝だよ。コンピューターに書かせたやつ」
「えっ……。分かってるわよ。えへへ。ふざけただけよ」
だれだ、さっそく古本屋に持ち込んだのは、しかも家のすぐ近所の古本屋に。家族一人一人の顔がさーっと脳裏をよぎった。ひーばあ自身の可能性もある。
「おたくは?」とひーばあが、横に立っていたシュンと目が合うと聞いた。
ミサが咳払いしてから言った。
「ミサの彼氏のシュンくん」
シュンはヤンキースのキャップを取って、短髪を立たせた頭をちょこっと下げた。おろし立ての白いTシャツがよく似合っている。
「お元気ですね」
「どっこも悪くないのよ。長女だから。最初に生まれた赤ちゃんは強いって言うでしょう。もう今年で……私いくつだっけ」
「今日で、99」
「そう99」
*この続きは製品版でお楽しみください。
シュンと山手線に乗って自宅に向かった。車両連結部の近くに立つと、お婆さん2人とお爺さん1人が一斉に立ち上がって席を譲ろうとした。窓ガラスに貼られた「若者優先席」のシールが目に入る。
あくまでも断ろうとすると、お爺さんが黒のサングラスを少し下にずらし、上目使いに車両の隅を指差した。1台のカメラがこっちを見下ろしていた。
「ほれ、日本国政府が見とる」
それでも座らずにいると、お爺さんが続けた。
「わしなんかのう、体の中も、外も、サイボーグみたいなもんじゃから気にせんでくれ」と言って、ゆったりとしたズボンの裾(すそ)を少し上げてみせた。灰色の強化プラスチックのようなものが見えた。脚力を補強するロボット服らしい。
白髪を刈り上げたお爺さんの後頭部から黒い電線が2本出ている。この電線が襟足(えりあし)からシャツの中を降り、下半身を包むロボット服に接続されているようだった
カメラの手前、仕方なく「若者優先席」にシュンと並んで座ると、ほどなく自宅の最寄り駅に着いた。立ち上がると、まだ前にいたお爺さんが、白手袋をした手を差し出して握手を求めてきたので意味も分からずに応じた。ひんやりして固い。金属製の手だ。戸惑いがミサの顔に浮かぶと、それを待ってたかのようにお爺さんがにやりと笑った。
ホームを歩きながら電車のまん中あたりの「妊婦専用車両」の中をなにげなく見ると、がらがらの車内にぽつんと座っている女性と目が合った。その女性は視線を落とすと、大事そうにお腹に手を当てた。
改札を出て右に曲がると、下り坂の大通りに沿って歩いた。
シュンは、と見ると、いつものように腰ではいたジーンズの前ポケットに両手の親指をひっかけて歩いている。心なしか緊張している様子だった。ひ祖母の誕生祝いで家族全員が揃うので皆に紹介すると言ってあった。ひーばあ、ひーじい、オバア、オジイ、パパ、ママそれからミサの縦長4世代7人家族だった。オジイもパパもミサも一人っ子で兄弟がいない、だから縦長と呼んでいた。
歩道に屋根の付いた昔ながらの商店街が続いている。ラーメン屋も寿司屋もトンカツ屋も金物屋も古本屋も皆がんばっていた。ハイテク全盛のこの時代に心からほっとできる場所だった。行き過ぎかけた古本屋に見慣れた人影を見た気がして店内をのぞき込んだ。
「ひーばあ!」
ひーばあは小さな背中を丸めて、開いた本を抱え込み、メガネを上にずらして一心不乱に読んでいた。近づいてから耳元に向かって大声でもう1度呼んだ。
「ひーばあ!」
ひーばあはこっちの顔をぼーっと見つめると、なんとなく笑顔を作った。
「あんたかい」
「ミ、サ、だ、よ」
「分かってるわよ」と言って、ひーばあは急いで本の世界に戻ろうとする。
「ひーばあ、何そんなに一所懸命読んでるの?」
「驚いたわよ、まったく。『時は流れて』なんて、ろくでもないタイトルだと思ったけど、なんとなく気になって読んでみたら私の人生そっくりなのよ、この人。でもだれかしらこの馬派カノンって。私と同じでバッハが好きだったりして」
「その本……は……先月……ひーばあが自費出版した自伝だよ。コンピューターに書かせたやつ」
「えっ……。分かってるわよ。えへへ。ふざけただけよ」
だれだ、さっそく古本屋に持ち込んだのは、しかも家のすぐ近所の古本屋に。家族一人一人の顔がさーっと脳裏をよぎった。ひーばあ自身の可能性もある。
「おたくは?」とひーばあが、横に立っていたシュンと目が合うと聞いた。
ミサが咳払いしてから言った。
「ミサの彼氏のシュンくん」
シュンはヤンキースのキャップを取って、短髪を立たせた頭をちょこっと下げた。おろし立ての白いTシャツがよく似合っている。
「お元気ですね」
「どっこも悪くないのよ。長女だから。最初に生まれた赤ちゃんは強いって言うでしょう。もう今年で……私いくつだっけ」
「今日で、99」
「そう99」
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