和書>小説・ノンフィクション>ボーイズラブ小説>社会人
解説
銀縁眼鏡に鋭利な美貌、趣味は怪談。そんな入社五年目の佐藤清司は、人当たりがよく完璧に仕事もこなす新人・坂木康太が大嫌い。坂木の唯一の弱点が“おばけ”だと知った清司は、無理やり怪談を話しまくり、前後不覚になるほど怯える彼の様子に、感じたことのない胸の高鳴りを覚える。だが、怖さのあまりパニックに陥った坂木にキスで口を塞がれて……。
目次
ビューティー&ゴースト
あとがき
あとがき
抄録
そして、自分の口を塞いでいるのが坂木の唇だと気づいた瞬間、今度は悲鳴を上げた。
(う…っ…わぁああぁっ!)
口が利けないので、悲鳴は頭の中で反響する。
もはやどんな思考も湧かず反射的に坂木の胸を押し返そうとしたら、自由になった坂木の両腕に力一杯抱きしめられた。……否、すがりつかれた、という方が近いかもしれない。
坂木はそのまま闇雲に体重をかけてくるものだから重さに耐え切れず、清司は勢いよく背中から床に倒れ込む。
「…い…っ…」
ガチッと歯のぶつかる音がして、やっと坂木が唇を離した。
坂木にがっちりと両腕で拘束されたまま押し倒された清司は、坂木を怒鳴りつけようとして、口をつぐんだ。
至近距離、真上から坂木がこちらを見ている。食い入るような目で坂木が見詰めていたのは清司の唇で、思いつめたその顔に、思わず言葉を飲み込んだ。
「……もう、黙ってください。――――でないとまた塞ぎますよ」
清司の顔を覗き込んだまま、坂木は潜めた声で囁いた。唇に息がかかる距離で、それは脅迫以外の何物でもない。うかつに口も開けず無言で首を縦に振る清司を見下ろして、坂木は詰めていた息を深く吐き出すと、そのままゴロンと体を横向きにして床に寝そべった。清司の体を抱く両腕は、そのままである。
「さ…っ…さか……ぷ」
男同士で抱き合って床にもつれるなんて尋常でない状況にうろたえて抗議の声を上げようとしたら、後頭部に手を添えられて坂木の胸に抱き寄せられた。坂木はもう、清司に何も言わせないつもりらしい。ならばと坂木の腕から抜け出そうとするが、暴れるとますます強く抱き寄せられて、まったく身動きが取れなかった。
それでもなんとか顎を反らして、清司は力一杯叫ぶ。
「さ……坂木! なんだこの状況は! いい加減離せ!」
「離しません」
息を継ぐ間もなくきっぱりと否定され、うっかり清司は言葉を詰まらせてしまった。
坂木は絶句する清司をしっかりと抱き直すと、消え入るような声で囁いた。
「――……側にいてください……」
その声があまりにも弱々しくて、哀れになるほど震えていたから。
数秒ほど黙り込んだ後、清司は体の力を抜いた。
本来ならば、いくら他に手段がなかったとはいえキスして相手の口を塞ぐなんて何考えてるんだ、とか、こうして男同士で抱き合うことに疑問は覚えないのか、とか、言ってやりたいことは山ほどあったが、今は飲み込んだ。
考えるまでもなく、ここまで坂木を追い詰めてしまったのは自分だ。気絶するほど怖い話が嫌いなのを承知で延々怪談を続けた自分が悪い。自業自得と反省しよう。
もう何もかも諦めた表情で、清司は大人しく坂木の腕の中にいることにした。
その間も、坂木の腕はしっかりと清司を抱きしめて離さない。薄いワイシャツ越しに伝わる体温は、暴れまわったせいかやけに熱かった。
こんなふうに、全身で他人の体温を感じるのは久しぶりだと清司は思う。思い返せば入社当時つき合っていた恋人と別れて以来、こうして誰かと寄り添って眠ることもなかった。
*この続きは製品版でお楽しみください。
(う…っ…わぁああぁっ!)
口が利けないので、悲鳴は頭の中で反響する。
もはやどんな思考も湧かず反射的に坂木の胸を押し返そうとしたら、自由になった坂木の両腕に力一杯抱きしめられた。……否、すがりつかれた、という方が近いかもしれない。
坂木はそのまま闇雲に体重をかけてくるものだから重さに耐え切れず、清司は勢いよく背中から床に倒れ込む。
「…い…っ…」
ガチッと歯のぶつかる音がして、やっと坂木が唇を離した。
坂木にがっちりと両腕で拘束されたまま押し倒された清司は、坂木を怒鳴りつけようとして、口をつぐんだ。
至近距離、真上から坂木がこちらを見ている。食い入るような目で坂木が見詰めていたのは清司の唇で、思いつめたその顔に、思わず言葉を飲み込んだ。
「……もう、黙ってください。――――でないとまた塞ぎますよ」
清司の顔を覗き込んだまま、坂木は潜めた声で囁いた。唇に息がかかる距離で、それは脅迫以外の何物でもない。うかつに口も開けず無言で首を縦に振る清司を見下ろして、坂木は詰めていた息を深く吐き出すと、そのままゴロンと体を横向きにして床に寝そべった。清司の体を抱く両腕は、そのままである。
「さ…っ…さか……ぷ」
男同士で抱き合って床にもつれるなんて尋常でない状況にうろたえて抗議の声を上げようとしたら、後頭部に手を添えられて坂木の胸に抱き寄せられた。坂木はもう、清司に何も言わせないつもりらしい。ならばと坂木の腕から抜け出そうとするが、暴れるとますます強く抱き寄せられて、まったく身動きが取れなかった。
それでもなんとか顎を反らして、清司は力一杯叫ぶ。
「さ……坂木! なんだこの状況は! いい加減離せ!」
「離しません」
息を継ぐ間もなくきっぱりと否定され、うっかり清司は言葉を詰まらせてしまった。
坂木は絶句する清司をしっかりと抱き直すと、消え入るような声で囁いた。
「――……側にいてください……」
その声があまりにも弱々しくて、哀れになるほど震えていたから。
数秒ほど黙り込んだ後、清司は体の力を抜いた。
本来ならば、いくら他に手段がなかったとはいえキスして相手の口を塞ぐなんて何考えてるんだ、とか、こうして男同士で抱き合うことに疑問は覚えないのか、とか、言ってやりたいことは山ほどあったが、今は飲み込んだ。
考えるまでもなく、ここまで坂木を追い詰めてしまったのは自分だ。気絶するほど怖い話が嫌いなのを承知で延々怪談を続けた自分が悪い。自業自得と反省しよう。
もう何もかも諦めた表情で、清司は大人しく坂木の腕の中にいることにした。
その間も、坂木の腕はしっかりと清司を抱きしめて離さない。薄いワイシャツ越しに伝わる体温は、暴れまわったせいかやけに熱かった。
こんなふうに、全身で他人の体温を感じるのは久しぶりだと清司は思う。思い返せば入社当時つき合っていた恋人と別れて以来、こうして誰かと寄り添って眠ることもなかった。
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