和書>小説・ノンフィクション>ボーイズラブ小説>王子
著者プロフィール
剛 しいら(ごう しいら)
東京都出身。千葉県在住。6月9日生まれ。血液型A型。
東京都出身。千葉県在住。6月9日生まれ。血液型A型。
解説
東南アジアの小国の皇太子・イーシュダットは国を継ぐ者として完璧に振舞っていたが、一つだけ誤算があった。それは子供の頃に出会った一貴族の長子・チヤベスに恋した事だった。親衛隊隊長として常に側に置き、秘密の恋人同士にもなったが、ずっと恋人でいられるはずがない。それでもチヤベスを離すことが出来ないイーシュダットだったが、反王制派のクーデター計画を知り……。
※ 本文にイラストは含まれていません。
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目次
我が儘な皇太子は恋着する
あとがき
あとがき
抄録
まるでイーシュダットのタイムスケジュールを熟知しているかのように、ほどなくしてドアが静かに開かれる。
ベッドサイドのスタンドの灯りに照らされたのは、長身の軍服姿の若者だった。
その軍服はイーシュダットの警護に当たる、親衛隊のものだ。艶々した濃い黒髪の若者にとても似合っている。
「殿下……もうお休みになられましたか……」
低いがよく通る声が、優しげに訊ねる。
「待っていたとでも言わせたいのか、チヤベス……」
わざとイーシュダットは冷たい声で答える。待っていたなどと言おうものなら、チヤベスは幸福に舞い上がってしまうだろう。
「バスルームをお借りします……。自室に戻れず、そのまま参りましたので」
「好きにしろ」
チヤベスの長身がバスルームに消えるのを、イーシュダットは細めた目でそっと見送る。
秘密の恋人を手に入れてから四年になった。その間、忠実な恋人はこうして夜にこっそり訪れる。昼間はあくまでも親衛隊将校の顔を崩さず、忠実にイーシュダットの身辺を警護していた。
マニエラ・チヤベス、軍人としての身分は少将だが、代々続く貴族の出身だ。
ガライ王国は身分制度がはっきりしていて、王族の下に王家の血を引く者達で形成された貴族社会がある。他国のように爵位というものはないが、平民と違い発音で四音になる名前を持つことが許されていた。
一般の国民は由緒ある家柄でなければ、三音の発音になる名前は持てない。ほとんどの国民は二音の短い名前しかないのだ。だから名を名乗れば、それだけでこの国では身分がはっきりする。
二年前に結成された親衛隊は、全員が貴族出身者で構成されている。次代の国王となる、イーシュダットを警護するのが彼らの職務だ。
イーシュダットより五つ年上のチヤベスは、外国への留学経験が長い。十五歳からスイスに渡り、イギリスの大学まで進んだ。そしてやはり留学したイーシュダットが、スイスの私立学校からフランスの大学に進んだ時に、フランスに移り住んで正式に警護係となった。
フランス留学中のことを、今では懐かしく思い出す。
あの頃は自由で、本当に毎日が楽しかった。町を歩いていても、誰もイーシュダットになど注目しない。アジアの小国の皇太子なんて、フランス人のほとんどは知らないのだから。
洗練された町並み、洒落たショップ、そして美食が味わえるレストラン。美術館には世界の最高傑作が集められ、あらゆる人種が街を颯爽と歩いていた。
そんなパリの街を、よくチヤベスと二人で歩いた。
亜熱帯の国であるガライ王国では味わえない、冬の寒さを味わいながら、寄り添って歩いた日々が懐かしい。
「失礼します」
バスルームから出てきたチヤベスは、イーシュダットに断ってスタンドの灯りを消してしまう。すると部屋は真っ暗になってしまって、カーテンのほんの僅かの隙間から、星明かりしかない夜空のぼんやりとした色が見えるだけになった。
「チヤベス、何があっても、私についてくるだろ?」
自分と同じボディソープの匂いがするチヤベスの体を引き寄せながら、イーシュダットは低く囁く。
「もちろんです、殿下」
秘密の恋人は、ベッドでも決して言葉遣いを改めない。忠実な親衛隊将校のままだった。
もしここではないどこか、別の場所で暮らしたら、二人の間に身分の違いは何の影響も与えなくなるのだろうか。
いや、それは不可能だ。
イーシュダットは生まれた時からすでに王子なのだから、今さらこの複雑な人格を変えることなど簡単には出来ないだろう。
この国でイーシュダットが目上として敬意を示すのは、両親以外にはいない。いずれ王になるために、何者の上にも君臨する存在として、育てられたのだから。
けれど会話が途切れた途端に、チヤベスは将校の顔を捨てる。暗闇の中、男の本能そのままに獣になった。
*この続きは製品版でお楽しみください。
ベッドサイドのスタンドの灯りに照らされたのは、長身の軍服姿の若者だった。
その軍服はイーシュダットの警護に当たる、親衛隊のものだ。艶々した濃い黒髪の若者にとても似合っている。
「殿下……もうお休みになられましたか……」
低いがよく通る声が、優しげに訊ねる。
「待っていたとでも言わせたいのか、チヤベス……」
わざとイーシュダットは冷たい声で答える。待っていたなどと言おうものなら、チヤベスは幸福に舞い上がってしまうだろう。
「バスルームをお借りします……。自室に戻れず、そのまま参りましたので」
「好きにしろ」
チヤベスの長身がバスルームに消えるのを、イーシュダットは細めた目でそっと見送る。
秘密の恋人を手に入れてから四年になった。その間、忠実な恋人はこうして夜にこっそり訪れる。昼間はあくまでも親衛隊将校の顔を崩さず、忠実にイーシュダットの身辺を警護していた。
マニエラ・チヤベス、軍人としての身分は少将だが、代々続く貴族の出身だ。
ガライ王国は身分制度がはっきりしていて、王族の下に王家の血を引く者達で形成された貴族社会がある。他国のように爵位というものはないが、平民と違い発音で四音になる名前を持つことが許されていた。
一般の国民は由緒ある家柄でなければ、三音の発音になる名前は持てない。ほとんどの国民は二音の短い名前しかないのだ。だから名を名乗れば、それだけでこの国では身分がはっきりする。
二年前に結成された親衛隊は、全員が貴族出身者で構成されている。次代の国王となる、イーシュダットを警護するのが彼らの職務だ。
イーシュダットより五つ年上のチヤベスは、外国への留学経験が長い。十五歳からスイスに渡り、イギリスの大学まで進んだ。そしてやはり留学したイーシュダットが、スイスの私立学校からフランスの大学に進んだ時に、フランスに移り住んで正式に警護係となった。
フランス留学中のことを、今では懐かしく思い出す。
あの頃は自由で、本当に毎日が楽しかった。町を歩いていても、誰もイーシュダットになど注目しない。アジアの小国の皇太子なんて、フランス人のほとんどは知らないのだから。
洗練された町並み、洒落たショップ、そして美食が味わえるレストラン。美術館には世界の最高傑作が集められ、あらゆる人種が街を颯爽と歩いていた。
そんなパリの街を、よくチヤベスと二人で歩いた。
亜熱帯の国であるガライ王国では味わえない、冬の寒さを味わいながら、寄り添って歩いた日々が懐かしい。
「失礼します」
バスルームから出てきたチヤベスは、イーシュダットに断ってスタンドの灯りを消してしまう。すると部屋は真っ暗になってしまって、カーテンのほんの僅かの隙間から、星明かりしかない夜空のぼんやりとした色が見えるだけになった。
「チヤベス、何があっても、私についてくるだろ?」
自分と同じボディソープの匂いがするチヤベスの体を引き寄せながら、イーシュダットは低く囁く。
「もちろんです、殿下」
秘密の恋人は、ベッドでも決して言葉遣いを改めない。忠実な親衛隊将校のままだった。
もしここではないどこか、別の場所で暮らしたら、二人の間に身分の違いは何の影響も与えなくなるのだろうか。
いや、それは不可能だ。
イーシュダットは生まれた時からすでに王子なのだから、今さらこの複雑な人格を変えることなど簡単には出来ないだろう。
この国でイーシュダットが目上として敬意を示すのは、両親以外にはいない。いずれ王になるために、何者の上にも君臨する存在として、育てられたのだから。
けれど会話が途切れた途端に、チヤベスは将校の顔を捨てる。暗闇の中、男の本能そのままに獣になった。
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