和書>小説・ノンフィクション>ボーイズラブ小説>外国人
著者プロフィール
柏枝 真郷(かしわえ まさと)
某銀行系列のコンピュータ会社で、OLをしながら小説を書き始める。雑誌JUNE「小説道場」に投稿し、道場主・中島梓氏の門弟となる。1991年、光風社出版より「時が過ぎゆきても」で単行本デビュー。
某銀行系列のコンピュータ会社で、OLをしながら小説を書き始める。雑誌JUNE「小説道場」に投稿し、道場主・中島梓氏の門弟となる。1991年、光風社出版より「時が過ぎゆきても」で単行本デビュー。
解説
どん底景気に古びて穴だらけのビッグ・アップル、NY。気弱な巡査ハリーは刑事ドイルとの突然の出会いから、同じアパートでの半同棲状態になり一ヵ月。有能だけれど傍若無人な捜査ぶりのドイルは恋も強引だ。甘いアパートでの生活は幸せだが、仕事では失敗つづきのハリーは、犯罪多発地域、シン・ストリート(罪の通り)の事件に急行する……。
目次
Prologue
第一章 You Don’t Know Me At All
第二章 I Don’t Want To Talk About It
第三章 Can’t Stand Losing You
Epilogue
第一章 You Don’t Know Me At All
第二章 I Don’t Want To Talk About It
第三章 Can’t Stand Losing You
Epilogue
抄録
ハリーがその赤ん坊を初めて見たのは、年明けまであと一日と数時間を残すのみという、暮れも押しせまった時期だった。
病院の新生児室で対面した赤ん坊は、男の子だった。小さく狭いガラス張りの保育器だけがこの子の世界だったが、出生時には七十オンスもなかった体重が、わずか五日間で十オンスも増えたのだという。
「百オンスくらいが普通の体重ですから、そのくらいになったら保育器から出られますよ」
母親が死んだとだけ知らされているアフリカ系の女性看護師が、励ますようにそんなことを言った。
もうひとり、保育器で育っている赤ん坊がいたが、他の赤ん坊はみな、ベビーベッドに寝かされていた。ただし、ベビーベッドに寝ているからといって健康なわけではないと看護師が言った。
「生まれつき疾患がある子もいるんですよ。それに較べたら、あなたのお子さんは健康そのものなんですからね」
「わかってます」
そっけなくうなずいたのは、ハリーの恋人だった。命がけで胎児を守った女性を思い出していたのだろうか。
保育器の中にいる赤ん坊は、まだ両手で包み込めそうなほど小さかった。それでも、どことなく母親似のような気がした。髪の色はまだ産毛程度なのでよくわからないが、焦げ茶色の瞳が、こぼれ落ちそうなほど大きい。
「可愛いだろう。名前を呼んで手を振ってやれよ」
恋人にせかされ、ハリーはガラスに顔を近づけて軽く手を振ってみた。
こぼれ落ちそうなほど大きい眼が、ハリーの眼と合う。次の瞬間、赤ん坊が笑ったような気がした――……。
どこかで赤ん坊が泣いている。
ミルクが欲しいのか。それとも具合でも悪いのか。この数日寒かったから、熱でも出したのだろうか?
抱き癖がつくから、あまり甘やかすなとは言われているが、首も据わっていない、ふにゃふにゃの小さな体を見ると、つい心配で抱き上げてあやしたくなる。
それに笑うと可愛いのだ。雪も氷も、凍てつきそうな心も、とろけてしまいそうなほど温かく、まさに無垢な笑顔なのだ。
赤ん坊の泣き声はますます大きくなっている。恋人はどこにいるのだろう? 出かけているのか。
ハリーは眼を開き、ベッドから上半身を起こした。
その瞬間、赤ん坊の声が消えた。午後の陽射しがブラインドを染めて明るい。
キングサイズのベッドにいるのはハリーだけだった。そして、ベッドのすぐ横に置いてあったはずのベビーベッドは、そこにはなかった。
古く擦り切れた絨毯を、ただブラインド越しの陽射しが淡く染めているだけだった。
*この続きは製品版でお楽しみください。
病院の新生児室で対面した赤ん坊は、男の子だった。小さく狭いガラス張りの保育器だけがこの子の世界だったが、出生時には七十オンスもなかった体重が、わずか五日間で十オンスも増えたのだという。
「百オンスくらいが普通の体重ですから、そのくらいになったら保育器から出られますよ」
母親が死んだとだけ知らされているアフリカ系の女性看護師が、励ますようにそんなことを言った。
もうひとり、保育器で育っている赤ん坊がいたが、他の赤ん坊はみな、ベビーベッドに寝かされていた。ただし、ベビーベッドに寝ているからといって健康なわけではないと看護師が言った。
「生まれつき疾患がある子もいるんですよ。それに較べたら、あなたのお子さんは健康そのものなんですからね」
「わかってます」
そっけなくうなずいたのは、ハリーの恋人だった。命がけで胎児を守った女性を思い出していたのだろうか。
保育器の中にいる赤ん坊は、まだ両手で包み込めそうなほど小さかった。それでも、どことなく母親似のような気がした。髪の色はまだ産毛程度なのでよくわからないが、焦げ茶色の瞳が、こぼれ落ちそうなほど大きい。
「可愛いだろう。名前を呼んで手を振ってやれよ」
恋人にせかされ、ハリーはガラスに顔を近づけて軽く手を振ってみた。
こぼれ落ちそうなほど大きい眼が、ハリーの眼と合う。次の瞬間、赤ん坊が笑ったような気がした――……。
どこかで赤ん坊が泣いている。
ミルクが欲しいのか。それとも具合でも悪いのか。この数日寒かったから、熱でも出したのだろうか?
抱き癖がつくから、あまり甘やかすなとは言われているが、首も据わっていない、ふにゃふにゃの小さな体を見ると、つい心配で抱き上げてあやしたくなる。
それに笑うと可愛いのだ。雪も氷も、凍てつきそうな心も、とろけてしまいそうなほど温かく、まさに無垢な笑顔なのだ。
赤ん坊の泣き声はますます大きくなっている。恋人はどこにいるのだろう? 出かけているのか。
ハリーは眼を開き、ベッドから上半身を起こした。
その瞬間、赤ん坊の声が消えた。午後の陽射しがブラインドを染めて明るい。
キングサイズのベッドにいるのはハリーだけだった。そして、ベッドのすぐ横に置いてあったはずのベビーベッドは、そこにはなかった。
古く擦り切れた絨毯を、ただブラインド越しの陽射しが淡く染めているだけだった。
*この続きは製品版でお楽しみください。




















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