和書>小説・ノンフィクション>ボーイズラブ小説>和風
解説
八月。お盆を前に里帰りした十和は、久しぶりに訪れた実家で謎の怨霊に襲われて大ピンチに! 氷楯に救いを求めることもできず、困り果てる十和。絶体絶命のその時、清き魂としての真の力が解き放たれた――!? 表題作のほか、氷楯と弓彦の少年時代を描く番外編など、天界と人界で繰り広げられる不思議ロマンスを4編収録した浪漫神示シリーズ大団円!
目次
すべてが夢でも忘れない
おとぎ話じゃいられない
ぼくは奇跡を信じたい
それは神にもわからない
おとぎ話じゃいられない
ぼくは奇跡を信じたい
それは神にもわからない
抄録
「……あのさ、だからどうしてそうなるわけ?」
「……いや、いちおう言われたとおりに…ほら」
松風に青葉涼しく夏の夕暮れ。代々木の藤代邸にも静かな時間が流れていた。
春に京都から戻って数ヵ月が経ち、無事に大学二年へと進級した柾木十和を包む世界は、とりあえず平和だ。
少なくとも、こんなことで腹の底からため息をつけるくらいには。
「まったくもう、今どき携帯メールも扱えないなんて、ありえないから、それ」
珍しくも十和が優勢に立って、腰に手を置き睨む相手は家主である藤代氷楯。ある日の夕食前のことである。
最初は十和が怒られている話だった。
確かに、甘くじゃれ合うように後ろから抱きしめられている場面で、友人からのメールに返信したのは失礼だったかもしれない。
しかし、今から遊びに行かないかという誘いだったからこそ、十和は手早く「ごめん、無理」と返信したのだ。それは氷楯を優先してのことなのに。
けれど当の本人は、無粋だなと顔をしかめていた。
「返信しない、という選択肢はないのかね」
「や、それはちょっと……」
冷静に考えてみれば、もちろんそれでもかまわないのだろうが、これだけ携帯が普及した現代、なかなかその手は思いつかない。下手をするとメール返信のタイムラグで友情関係まで計られてしまうご時世である。
「いーじゃんべつに。返信するのに何分もかかるわけじゃないし、返事をしたからこそ、これでもう邪魔は入らないわけだし」
この程度のことで小言を食らってしまうほうがよっぽど興ざめだ…と思った十和に氷楯が言った。
「だいたいだね、普段からきみはそれに重きを置きすぎる。寝る前に携帯をチェックして、目が覚めたら真っ先に携帯をチェックする。食事中だろうが外出中だろうが、いつでもどこでもカチカチやって、その間、目の前の人間は置き去りだ。見ているほうは不愉快だ」
「って言ったって……!」
「私相手ならまだいいが、目上の人間の前でもそんなことをやっているとしたら、礼節的にどうかという話だ。――くれぐれも気をつけたまえよ」
「う……」
と詰まった十和の脳裏に浮かんだのは、すでに同じことを父親にも注意された覚えがあるからだった。なるほど、氷楯の言ってることは正論だ。だからこそ十和は、父親のときと同じことを口にした。
「わ、わかってるよ…、だいじょうぶだよ、気をつける……」
結局「ごめんなさい」と謝るしかない話にうなだれる十和を、ふたたび優しく抱きしめ直してくるあたりが父親とは違うけれど。
もう、小さな子どもでもない十和をこうしてしっかり抱いてくれる相手なんて、この世に氷楯しかいないのだ。たとえそれが性的な意味を伴っていたとしても、愛情であることには変わりがない。
そうして十和が素直に「ごめん」とその胸に頭をすり寄せたあたりまでは、まったく普段どおりの時間だった。
*この続きは製品版でお楽しみください。
「……いや、いちおう言われたとおりに…ほら」
松風に青葉涼しく夏の夕暮れ。代々木の藤代邸にも静かな時間が流れていた。
春に京都から戻って数ヵ月が経ち、無事に大学二年へと進級した柾木十和を包む世界は、とりあえず平和だ。
少なくとも、こんなことで腹の底からため息をつけるくらいには。
「まったくもう、今どき携帯メールも扱えないなんて、ありえないから、それ」
珍しくも十和が優勢に立って、腰に手を置き睨む相手は家主である藤代氷楯。ある日の夕食前のことである。
最初は十和が怒られている話だった。
確かに、甘くじゃれ合うように後ろから抱きしめられている場面で、友人からのメールに返信したのは失礼だったかもしれない。
しかし、今から遊びに行かないかという誘いだったからこそ、十和は手早く「ごめん、無理」と返信したのだ。それは氷楯を優先してのことなのに。
けれど当の本人は、無粋だなと顔をしかめていた。
「返信しない、という選択肢はないのかね」
「や、それはちょっと……」
冷静に考えてみれば、もちろんそれでもかまわないのだろうが、これだけ携帯が普及した現代、なかなかその手は思いつかない。下手をするとメール返信のタイムラグで友情関係まで計られてしまうご時世である。
「いーじゃんべつに。返信するのに何分もかかるわけじゃないし、返事をしたからこそ、これでもう邪魔は入らないわけだし」
この程度のことで小言を食らってしまうほうがよっぽど興ざめだ…と思った十和に氷楯が言った。
「だいたいだね、普段からきみはそれに重きを置きすぎる。寝る前に携帯をチェックして、目が覚めたら真っ先に携帯をチェックする。食事中だろうが外出中だろうが、いつでもどこでもカチカチやって、その間、目の前の人間は置き去りだ。見ているほうは不愉快だ」
「って言ったって……!」
「私相手ならまだいいが、目上の人間の前でもそんなことをやっているとしたら、礼節的にどうかという話だ。――くれぐれも気をつけたまえよ」
「う……」
と詰まった十和の脳裏に浮かんだのは、すでに同じことを父親にも注意された覚えがあるからだった。なるほど、氷楯の言ってることは正論だ。だからこそ十和は、父親のときと同じことを口にした。
「わ、わかってるよ…、だいじょうぶだよ、気をつける……」
結局「ごめんなさい」と謝るしかない話にうなだれる十和を、ふたたび優しく抱きしめ直してくるあたりが父親とは違うけれど。
もう、小さな子どもでもない十和をこうしてしっかり抱いてくれる相手なんて、この世に氷楯しかいないのだ。たとえそれが性的な意味を伴っていたとしても、愛情であることには変わりがない。
そうして十和が素直に「ごめん」とその胸に頭をすり寄せたあたりまでは、まったく普段どおりの時間だった。
*この続きは製品版でお楽しみください。




















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