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胡蝶は闇に融ける

胡蝶は闇に融ける


発行: キリック
レーベル: シフォンノベルズ
価格:700pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
みんなの評価 ★★★★☆4
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解説

 幼い頃に両親を亡くし「情報屋」の叔父に育てられた和佐は、高度なハッキング能力を身につけ、深入りしない事を条件に叔父の仕事を手伝っていた。ところがある時、和佐は自分が入手した情報から何人もの人間が死に至っている事を知る。真相を知った自分を叔父が野放しにしておくはずがない……。身の危険を感じて逃亡を謀った和佐は昔の記憶を頼りに父との思い出が残るショッピングセンターを訪れた。逃亡初日の夜をここで明かそうとするが、警備をしていた周防という男に見つかり窮地に立たされる。しかし、事情があると察した周防から「助けてほしいなら待ってろ」と思わぬ言葉を投げかけられて……。
※こちらの作品にはイラストが収録されていません。

目次

 パッとライトが消されて、警備員が近付いてくる。咄嗟に逃げようとするが足が固まって言う事を聞いてくれず尻餅を着いてしまい、そうこうしている内に駆け寄った警備員に腕を掴まれた。
 大きな手が華奢な和佐の腕に食い込む。
「ここは関係者以外立入禁止だ」
 逃げられないとわかり和佐は俯いて唇を噛み締めた。
 もし未成年とばれて警察に連れて行かれたら、保護者に連絡されて困るどころでは済まない。
「何をしていたのか、事務所で話してもらうぞ」
「ごめ、ごめんなさい!俺、春休みを使って旅行していたら……財布落としちゃって、それで」
 見逃してもらえないかと訴えかけ、和佐は初めて警備員の顔をまともに見て息を呑んだ。
 ──怖い。
 和佐の本能が危険だと訴える。何が、とは言えないけれど、只者ではないと思った。帽子の影に見える目付きはお世辞にも友好的とは言えない。
 しかし、和佐を見た警備員も動きを止めていた。頭から足まで観察され、その上腕まで掴まれていて居心地が悪い。
「あの、腕……」
「あ、ああ」
 腕を放され和佐は自力で立ち上がると、ちらりと警備員の顔を窺った。もうそこには恐怖は感じられない──この状況が解決したわけではないが。
 和佐は肩を落として、溜息を吐いていた。自分の情けなさに涙が出そうだ。自然と肩が落ちていく。
「驚かして悪かった。色々と、物騒だから……な」
「いえ、こちらこそすみません」
「そうじゃなくて。こんな所にお前みたいのが一人でいて、何かあったら困るだろう」
 この男にとってそれが仕事だろうが、今の和佐にはその気遣いが嬉しくて、厄介ごとを起こしてしまったと申し訳なく思う。和佐がここにいなければ、見回りも無事に終え何事もなく帰れたものを。
 和佐はバッグを肩に掛け、頭を下げた。
「もう迷惑かけないんで、見逃してください」
 都合のいい話だとわかっている。しかし、どうしても連れて行かれるわけにはいかないのだ。警備員は黙って和佐を見て思案していて、 この隙に逃げられないかと思いかけてやめた。
 やる前から諦めるのはよくないけれど、明らかに無理だとわかっていることをやるほど無謀でもない。それに、逃げ切れるほどの気力も残っていなかった。
「ワケあり、か。いいだろう」
「なんで……」
「俺はもうじきあがりだ。助けて欲しいなら待ってろ」
 何を言っているのか理解できなかった。和佐は目をぱちぱちさせて真意を探ろうとする。見逃してくれるだけでなく、厄介ごとを助けてくれるとでもいうのか。
「知り合いに、お前に似たような奴がいる。放っておけないだけだ」
 そう言う警備員の目は嘘をついているようには見えず、和佐はこくりと小さく頷いていた。もっと警戒すべきなのに、初めて会った相手を信用しようとしている。
 当ても無く逃げ続けることの辛さを、身を以て知ってしまった。
 軟弱者と言われてもいい。
 叔父を裏切って、大変な事をしでかして、和佐の心は限界だった。
「三十分くらいしたら終わる。入り口のファーストフード店にいてくれ」
「そこは」
 言い淀むと「ああ」とわかったように警備員が手を打った。
「金を落としたのか。俺も今手持ちがないから、悪いが時間になったら従業員出入り口に来てくれ」
 寒いだろ、と羽織っていた上着を和佐の肩にかけてくれ、ふわりと懐かしい匂いがした気がする。
 お金はあると訂正するのも憚られて、和佐は大人しく頷いておいた。寒くて震えていたのに、今は暖かい。上着をかけてもらっただけではなく、胸の奥がほっこりとした感じだ。
 手に固い物が当たり、見てみると上着の左胸の位置に『周防』と書かれた名札がついていた。
「俺は周防貴昭だ。お前は?」
「……俺は、新見和佐」
 少し考えてから、本名を名乗った。周防が名乗ってくれて、自分だけ偽名を使うのはフェアじゃない。
 周防は和佐の名前を口に出して確認すると、目尻を下げて相好を崩し、和佐はなぜかどきりとして目を逸らした。
「そうやって、大人の言うことは『はいはい』って聞いてればいい」
「お、おっさんかよ」
 悪態をつく和佐を周防は鼻で笑う。
「ガキから見れば、おっさんかもしれないな」
「俺はもう十八歳だ!今度十九歳になる」
「そう言ってる時点で、子供なんだよ」
「うるさい」
 余裕を見せ付けられたみたいで、和佐は素直に聞き入れられなかった。しかし、周防に対する警戒心はだいぶ薄れていた。
 少なくとも和佐に害を与えたりしないだろう。
 周防は時計を見て、警備の仕事を終わらせてくると言う。
「二十歳を超えて、一つずつ歳をとっていけばお前にもわかるさ」
 去り際に言い残した言葉の意味を、和佐は今はまだ理解できない。周防の言うように、二十歳にならなければわからないことだから。
 これが、和佐と周防の出会いだった。

*この続きは製品版でお楽しみください。

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