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ケータイ文学部 明日は、きっと

ケータイ文学部 明日は、きっと

著: 森野拓郎
発行: マリクロ
レーベル: ケータイ文学部
価格:315円(税込)
10ポイント還元
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 森野 拓郎(もりの たくろう)
 1982〜
 埼玉県生まれ。明星大学人文学部卒。学生時代に小説家を志し、執筆活動をスタート。現在は某商社に勤務する傍ら、2008年5月に小説家としてデビュー。ケータイ小説に対する、悪い先入観を一掃できる作家を目指す。読者の方々に何かを伝え、何かを感じてもらえることを目標に、これからも執筆に励んでいきます。
 著書に『最後のお願い』『運命の光』。

解説

 ビルから飛び降りようとしている男の前に、「殺してほしい」と願う女性が現れる。自殺目前だった二人の、不思議な出会い。それがきっかけで、二人は少しずつ生きる力を取り戻していく。しかしある日、男の体が病魔に襲われていることが発覚する。男の余命はあと1年。かつては死を願っていた二人に突きつけられた、厳しい現実だった。残されたわずかな時間を、彼らはどう生き抜くのか。物語を通して、命の尊さと生きる意味を問う。

抄録

 部屋に上がった彼女は、キョロキョロと辺りを見渡しながら歩き回っている。
「何してるんだ?」
 僕が声をかけると、彼女はニヤリと意地の悪い笑い方をした。
「彼女とか、いないんだ」
「どうしてそう思うんだ?」
「女っ気なさすぎだから」
「余計なお世話だよ」
 僕はムッとして言い返すと、彼女はこちらに歩いて来て、僕の顔を覗き込んだ。
「もしかして、彼女に振られて死にたくなったの?」
「そんなことじゃないよ」
「じゃあ、どうして?」
「お前、何なんだよ。人の心や部屋にずかずか入り込んで来るな。死にたいなら勝手に死ねばいいだろ。俺に関わらないでくれよ」
 僕はカッとなって彼女の肩を押した。軽くやったつもりだったが、彼女は後ろの壁にぶつかり、そのままズルズルと床に崩れ落ちた。彼女は少しの間黙っていたが、やがて肩を震わせて泣き始めた。突然の出来事に、僕は謝るに謝れず、彼女の前に立ちすくんでいた。すると、彼女は鼻を啜りながら口を開いた。
「死ねって言うことないじゃない」
「いや…だってお前、殺してくれって」
 彼女は大きく首を横に振って、座ったまま僕の足を何度も叩いた。
「本当に死にたかったら、ちゃんと自分で死ぬよ。死ぬのが怖いから、クリスチャンであることを盾にしたんじゃない。あなたが私を殺さないことぐらい、分かってたもん」
 僕は溜め息をつくと、彼女の前にしゃがんで、肩に手をかけた。
「悪かったよ。とりあえず、シャワー浴びて来い。涙洗い流して、すっきりしてから話そうじゃないか」
 彼女は涙を拭う手を止めて、僕をじっと見上げた。
「……シャワー浴びてきた私に、何する気?」
「お前なあ…」
「冗談。じゃあ、お風呂場借りるね」
 彼女は少しだけ笑うと、スッと立ち上がって脱衣所へ入っていった。

 彼女と交代でシャワーを浴びて出てくると、彼女はソファに寝転んで天井を見上げていた。僕は寝室から洗い立てのジャージを持ってきて、渡してやった。
「こんなのしかないけど、着替えたら?」
「ありがと」
 ジャージを受け取って、また天井をボーっと見上げた彼女の横顔を、僕はまじまじと眺めた。化粧が落ちても、彼女はとても美しかった。性格は少しひねくれているが、こんなに綺麗な女の子が死にたくなるのは何故なのか、僕には今ひとつピンとこなかった。
 僕はキッチンでコーヒーを二つ入れてきて、その一つを彼女に渡してやった。ソファの上で体を起こした彼女から出来るだけ離れて腰掛けると、彼女に問いかけた。
「なあ、どうして死にたいんだ?」
「あなたが先」
 彼女は抑揚のない声で答えた。
「俺はお前を、今夜家に泊めてやっている。だからお前が先だ」
「屁理屈ね」
「君に言われたくないよ」
 僕たちは顔を見合わせて、お互い少しだけ笑った。それから少しの沈黙の後、彼女は意を決したように、ゆっくりと話し始めた。
「私が死にたいのはね、私が不幸だからよ」
「不幸?」
「二十二年間生きてきて、いい事全然なかったの」
「全然って、一個もなかったのか?」
「ええ。私の半生、聞いてみる?」

*この続きは製品版でお楽しみください。

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