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著者プロフィール
戸川 幸夫(とがわ ゆきお)
明治45年、佐賀県生まれ。昭和11年、旧制山形高校理科甲類中退。
昭和29年「高安犬物語」で直木賞受賞。53年、芸術選奨文部大臣賞。56年、紫綬褒章。60年、児童文学功労者に選ばれる。
主な著書は「すばらしき動物の世界」「イリオモテヤマネコ」「マタギ」「人喰鉄道」「ヒトはなぜ助平になったか」「戸川幸夫動物文学全集」(全10巻)他。
明治45年、佐賀県生まれ。昭和11年、旧制山形高校理科甲類中退。
昭和29年「高安犬物語」で直木賞受賞。53年、芸術選奨文部大臣賞。56年、紫綬褒章。60年、児童文学功労者に選ばれる。
主な著書は「すばらしき動物の世界」「イリオモテヤマネコ」「マタギ」「人喰鉄道」「ヒトはなぜ助平になったか」「戸川幸夫動物文学全集」(全10巻)他。
解説
暗殺は相手の主義、主張を暴力によって排除しようとする行為である。暗殺はその者の活動を封ずるに最も有効で、簡単、直接的な手段だと一部の人間たちに盲信されてきた。ことにわが国では、時として暗殺者を救国の英雄視したことさえあり、その誤った考えが幾多の悲劇を生み出している。
今なお謎に包まれている竜馬暗殺をはじめ、近代日本の暗殺事件を考察!
今なお謎に包まれている竜馬暗殺をはじめ、近代日本の暗殺事件を考察!
目次
坂本竜馬 七人の刺客
大村益次郎 三条木屋町の遭難
広沢真臣 勅語と拷問
大久保利通 紀尾井坂の乱刃
森有礼 血に染んだ紀元節
星亨 市議会の嵐
伊藤博文 ハルピン駅頭の兇弾
原敬 平民宰相の死
大杉栄 血を呼んだ震災
浜口雄幸 甦った暗殺者
犬養毅 首相官邸の銃声
高橋是清 二・二六事件の血だるま
暗殺略記
大村益次郎 三条木屋町の遭難
広沢真臣 勅語と拷問
大久保利通 紀尾井坂の乱刃
森有礼 血に染んだ紀元節
星亨 市議会の嵐
伊藤博文 ハルピン駅頭の兇弾
原敬 平民宰相の死
大杉栄 血を呼んだ震災
浜口雄幸 甦った暗殺者
犬養毅 首相官邸の銃声
高橋是清 二・二六事件の血だるま
暗殺略記
抄録
中岡と行燈の灯かげに名札を出して見ていると階段のところでバタッと大きな音が響いた。藤吉が斬られたのであったが、また店の若い者たちが下でふざけていると思った竜馬は土佐弁で、
「ほたえな!」と叱った。
瞬間二人の刺客が飛び込んできた。
「こなくそ!」と云いざまに一人が前に坐っていた中岡を後から斬りつけた。
ハッとして竜馬が後の床の間に置いた二尺二寸、吉行の刀を取ろうとする。が、遅くもう一人が風を捲いて竜馬の前額部を横に払った。パッと上がる血しぶき、豪気の竜馬はなおも刀を取ろうと後向きになるところを二太刀目が右の肩先から右の背骨にかけて大きく斬り下げた。
三の太刀を竜馬は辛うじて受けた。抜く暇はなかった。鞘のまま戞然と受けた。
天井は穹窿形をなして西が低く、竜馬の鞘の鐺は天井を突き破った。死力をこめた受太刀だった。が、刺客はよほどの手練れの者と見え、その刀は竜馬の太刀を太刀打の所から六寸ほど鞘ごしに切り込み、刀身を三寸も削って切尖は再び竜馬の前額を鉢巻なりに薙いだ。
血と脳漿が吹き出し、竜馬は、
「石川、刀はないか。石川、刀はないか」と叫び乍ら前のめりに斃れた。
一方中岡も刀を屏風の後に置いてたのでそれを取る暇がない。
田中顕助(後の田中光顕伯)から贈られた信国の短刀で、これも鞘のまま渡り合うが、初太刀を深く受けているので進退が思うようにならない。
次第に切り立てられ、とうとう左右の手と両足も斬られてばったりと倒れ意識を失った。刺客はさらに二太刀、力をこめて中岡の臀部に骨に達するほど斬りつけた。その痛みに中岡はハッと気を取り戻したが身体の自由が利かないので死んだふりをしていると、
「もうよい。もうよい」と云う刺客の声が聞えた(中岡が駈けつけた谷守部に語った談話)。
しばらくすると竜馬が気がついた。刀を抜いて行燈の前ににじり寄り、刃を灯に照らして、
「残念!」と低く叫び、
「慎太、慎太、どうした、手が利くかッ」とかすれ声を出す。
「ウム、手は利く」と中岡は答えた。
竜馬は行燈を提げて、次の六畳の間までよろめいて行き、手摺から、
「新助ッ、医者を呼べ!」と叫んだが、もう意識は朦朧となり、幽かな声で、
「慎太、俺は脳をやられたからもう駄目だ」と云ったのが最後だった。
中岡は苦痛を耐えて中敷居をあがって裏の物干に出て家の者を呼んだが、しんとして答えがないので、屋根伝いに北隣の道具商井筒屋嘉兵衛の屋根まで這っていって救いを求めたが誰も出て来ない。引き返そうとしたが、両足をひどくやられているのでもう起つことが出来なかった。(「坂本竜馬 七人の刺客」より)
「ほたえな!」と叱った。
瞬間二人の刺客が飛び込んできた。
「こなくそ!」と云いざまに一人が前に坐っていた中岡を後から斬りつけた。
ハッとして竜馬が後の床の間に置いた二尺二寸、吉行の刀を取ろうとする。が、遅くもう一人が風を捲いて竜馬の前額部を横に払った。パッと上がる血しぶき、豪気の竜馬はなおも刀を取ろうと後向きになるところを二太刀目が右の肩先から右の背骨にかけて大きく斬り下げた。
三の太刀を竜馬は辛うじて受けた。抜く暇はなかった。鞘のまま戞然と受けた。
天井は穹窿形をなして西が低く、竜馬の鞘の鐺は天井を突き破った。死力をこめた受太刀だった。が、刺客はよほどの手練れの者と見え、その刀は竜馬の太刀を太刀打の所から六寸ほど鞘ごしに切り込み、刀身を三寸も削って切尖は再び竜馬の前額を鉢巻なりに薙いだ。
血と脳漿が吹き出し、竜馬は、
「石川、刀はないか。石川、刀はないか」と叫び乍ら前のめりに斃れた。
一方中岡も刀を屏風の後に置いてたのでそれを取る暇がない。
田中顕助(後の田中光顕伯)から贈られた信国の短刀で、これも鞘のまま渡り合うが、初太刀を深く受けているので進退が思うようにならない。
次第に切り立てられ、とうとう左右の手と両足も斬られてばったりと倒れ意識を失った。刺客はさらに二太刀、力をこめて中岡の臀部に骨に達するほど斬りつけた。その痛みに中岡はハッと気を取り戻したが身体の自由が利かないので死んだふりをしていると、
「もうよい。もうよい」と云う刺客の声が聞えた(中岡が駈けつけた谷守部に語った談話)。
しばらくすると竜馬が気がついた。刀を抜いて行燈の前ににじり寄り、刃を灯に照らして、
「残念!」と低く叫び、
「慎太、慎太、どうした、手が利くかッ」とかすれ声を出す。
「ウム、手は利く」と中岡は答えた。
竜馬は行燈を提げて、次の六畳の間までよろめいて行き、手摺から、
「新助ッ、医者を呼べ!」と叫んだが、もう意識は朦朧となり、幽かな声で、
「慎太、俺は脳をやられたからもう駄目だ」と云ったのが最後だった。
中岡は苦痛を耐えて中敷居をあがって裏の物干に出て家の者を呼んだが、しんとして答えがないので、屋根伝いに北隣の道具商井筒屋嘉兵衛の屋根まで這っていって救いを求めたが誰も出て来ない。引き返そうとしたが、両足をひどくやられているのでもう起つことが出来なかった。(「坂本竜馬 七人の刺客」より)
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