和書>小説・ノンフィクション>ボーイズラブ小説>白衣
解説
明和病院に勤める美貌の内科医、氷川諒一の年下の恋人は、暴力団・眞鍋組の若き2代目、橘高清和だ。19歳の年齢にして不夜城である新宿の主となった清和には敵も少なくなかった。男でありながら清和の「妻」として「姐」として生きる決意をした氷川だったが、ある日、とうとう組同士の争いに巻き込まれてしまった。闘いを決意した清和に心が乱れる氷川だったが!?
抄録
指定暴力団眞鍋組が牛耳る眠らない街は、いつもとなんら変わらない。二十四時間営業の店のネオンが煌々と輝いているし、綺麗に着飾った夜の蝶が泥酔客と腕を組んで歩いている。屋台ではネクタイを緩めた赤ら顔のサラリーマンたちが、上司の愚痴を零しながらラーメンを食べていた。終電に乗り損ねた若者が吸い込まれるようにネットカフェやゲームセンターに入っていく。不夜城の主が宿敵との抗争を決意したことなど、誰も知る由もない。
二代目組長である橘高清和を乗せたジャガーは、近代的な眞鍋第三ビルの駐車場に入った。
異常事態の知らせを受けてか、若き二代目組長とその妻と目されている氷川諒一を出迎えるために、地下の駐車場には眞鍋組の最高幹部たちが揃っている。清和の義父であり、眞鍋組の最高顧問である橘高正宗も屈強な構成員を従えて、二代目組長夫妻を待っていた。
運転席でハンドルを握っていたサメこと鮫島昭典が、清和の愛車であるジャガーを定位置に停める。
「お疲れ様です」
橘高の舎弟頭である安部信一郎の手によって、氷川と清和のために後部座席のドアが開けられた。しかし、氷川は清和にしがみついたまま、微動だにしない。少しでも手を離したら、愛しい彼がどこかに行ってしまいそうで怖いのだ。氷川の楚々とした美貌は青褪め、血の気がなかった。
氷川の不安が伝わっているのか、昇り龍を背負う若い組長は何も言わない。だが、いつまでもこうしているわけにもいかない。
「先生……」
清和はポツリと言うと、氷川の華奢な身体を抱きかかえるような体勢でジャガーから降りた。氷川は命のない人形のように抱かれているだけだ。
「う……姐さん……」
安部は泣き腫らした氷川の目を見た途端、苦しそうに顔を歪めて一礼する。辛いのか、氷川とは視線を合わせようともしない。安部はいかにもといった風貌の極道だが、誰よりも優しくて思いやりのある男だ。
眞鍋組にその人あり、と謳われている橘高は氷川を避けたりしない。鋭い目を曇らせたが、いつになく優しい口調で氷川に声をかけた。
「姐さん、すまない」
頭を下げた橘高から、重苦しい心のうちが氷川に伝わってくる。ただ一つのことに対する謝罪ではない。いろいろなことに対する橘高の詫びだ。その中には藤堂組との抗争も含まれていた。枯れ果てたと思った氷川の目がまた潤み、大粒の涙がポロリと零れる。
その場にいた海千山千の男たちは息を呑んだ。ヒットマンの襲撃より、氷川の涙のほうが恐ろしいらしい。
駐車場に静かに入ってきたキャデラックから眞鍋組の頭脳である松本力也、リキが降りた。居並ぶ幹部たちに深々と腰を折る。あえて、リキは何も口にしない。幹部たちも視線だけでリキと語り合った。
リキの後ろに立った三國祐の無残な姿を確認すると、安部は低い声で唸った。安部は祐の父親のようなものだ。
「おい、祐……」
安部とは旧知の仲であっても、祐は眞鍋組内部での力関係はきちんと弁えている。新参者の祐は古参の幹部である安部に礼を尽くした。
*この続きは製品版でお楽しみください。
二代目組長である橘高清和を乗せたジャガーは、近代的な眞鍋第三ビルの駐車場に入った。
異常事態の知らせを受けてか、若き二代目組長とその妻と目されている氷川諒一を出迎えるために、地下の駐車場には眞鍋組の最高幹部たちが揃っている。清和の義父であり、眞鍋組の最高顧問である橘高正宗も屈強な構成員を従えて、二代目組長夫妻を待っていた。
運転席でハンドルを握っていたサメこと鮫島昭典が、清和の愛車であるジャガーを定位置に停める。
「お疲れ様です」
橘高の舎弟頭である安部信一郎の手によって、氷川と清和のために後部座席のドアが開けられた。しかし、氷川は清和にしがみついたまま、微動だにしない。少しでも手を離したら、愛しい彼がどこかに行ってしまいそうで怖いのだ。氷川の楚々とした美貌は青褪め、血の気がなかった。
氷川の不安が伝わっているのか、昇り龍を背負う若い組長は何も言わない。だが、いつまでもこうしているわけにもいかない。
「先生……」
清和はポツリと言うと、氷川の華奢な身体を抱きかかえるような体勢でジャガーから降りた。氷川は命のない人形のように抱かれているだけだ。
「う……姐さん……」
安部は泣き腫らした氷川の目を見た途端、苦しそうに顔を歪めて一礼する。辛いのか、氷川とは視線を合わせようともしない。安部はいかにもといった風貌の極道だが、誰よりも優しくて思いやりのある男だ。
眞鍋組にその人あり、と謳われている橘高は氷川を避けたりしない。鋭い目を曇らせたが、いつになく優しい口調で氷川に声をかけた。
「姐さん、すまない」
頭を下げた橘高から、重苦しい心のうちが氷川に伝わってくる。ただ一つのことに対する謝罪ではない。いろいろなことに対する橘高の詫びだ。その中には藤堂組との抗争も含まれていた。枯れ果てたと思った氷川の目がまた潤み、大粒の涙がポロリと零れる。
その場にいた海千山千の男たちは息を呑んだ。ヒットマンの襲撃より、氷川の涙のほうが恐ろしいらしい。
駐車場に静かに入ってきたキャデラックから眞鍋組の頭脳である松本力也、リキが降りた。居並ぶ幹部たちに深々と腰を折る。あえて、リキは何も口にしない。幹部たちも視線だけでリキと語り合った。
リキの後ろに立った三國祐の無残な姿を確認すると、安部は低い声で唸った。安部は祐の父親のようなものだ。
「おい、祐……」
安部とは旧知の仲であっても、祐は眞鍋組内部での力関係はきちんと弁えている。新参者の祐は古参の幹部である安部に礼を尽くした。
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