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解説
見た目も頭脳も優れた堅物エリート銀行員・直隆は、派閥争いに敗れ閑職に飛ばされる。ヤケ酒で酔い潰れた所を、マキという青年に介抱されるが、彼にはある魂胆が。ゲイの弟を家から追い出した兄だと直隆を誤解し、弟の境遇に共感したゲイのマキは、復讐に男童貞を奪おうと……?! 無理矢理体を繋がされるも、直隆は何故か彼に興味をひかれ……。「不埒なモンタージュ」スピンオフ作登場!
※ 本文にイラストは含まれていません。
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目次
不埒なスペクトル
あとがき
あとがき
抄録
(どうせもう、なにもない)
ため息をついて、カラのコップを振った。いまの電話でなにを察したのか、妙に同情的な顔をした店主がおかわりを注ごうとしたところで、ほっそりした手がそれを止めた。
「おにいさん、しんどそうだね」
なめらかな声が、そっといたわるように告げる。直隆がはっと振り返ったとたん、眼鏡がずり落ちた。酔いに赤らんだ目で見やると、像のぶれた視界にほっそりした男の姿が映る。
「誰だ、きみは」
眼鏡のずれを直してもういちど、あらためて見つめ直すと、茶色い髪をしたきれいな顔の青年がいた。年齢は、直隆よりは若そうだ。けれど落ちついた雰囲気もあるから、二十代の後半、といったところだろうか。
しゃれた雰囲気のある青年で、寂れた居酒屋には、いささか不似合いな存在だ。クラブで踊っているほうがぴったりに感じられる男は、なめらかな声でいさめてくる。
「やめなよ、もう。飲みすぎだと思うよ」
「ほっといてくれっ」
「うわっ」
掴まれた手首を振り払おうとすると、ずいぶんな大ぶりになってしまった。意図したことではないが彼を突き飛ばしてしまい、声をあげてよろけた相手に直隆は焦った。
「す、すまない。加減ができなかった。大丈夫か?」
はっとして声をかけると、彼は眉をさげてかぶりを振ってみせる。
「ううん。俺がおせっかいだったから。でも、もう、やめたほうがいいよ?」
「……そうか、そうだな。申し訳ない」
ぐらぐらする頭を押さえ、何度かうなずいた。ここまで飲みすぎてしまうと、さらなる醜態を招きかねない。なによりいま、直隆よりずいぶん体格的にも劣る相手に、うっかり怪我をさせるところだった。冷や汗をかき、これ以上は、それこそなにか問題でも起こしかねないと直隆は立ちあがった。
「お勘定を」
店主に声をかけ、おぼつかない手で万札を突き出す。釣りを用意するのが待てずに、直隆はふらふら歩きだした。
「釣りはいらない。とっておいてくれ、迷惑をかけた」
「ちょっと、お客さん! 困りますって!」
追ってくる店主の声も、アルコールに鈍った耳には届かない。千鳥足の直隆は、そこから数メートルも行かないうちに、足をもつれさせた。
「おっと!」
倒れるかと思った瞬間、誰かが腋のしたに入りこんで支えてくれる。うつろな目で見おろすと、さきほど飲みすぎだと咎めた青年がいた。
「だいじょぶ? 気をつけて」
「あ、ああ。平気だ」
「嘘だよ、あんたまっすぐ歩けてなかったよ」
ほら立って、と体勢を立て直されたが、いちど立ち止まってしまうと、まともに立つことすらむずかしいことに気づいた。ぐらりと身体がかしぎ「ほらあ」と彼が呆れたような声を出す。
「ちょっと休んだほうがいいよ。こっちおいで」
「どこに……いくんだ?」
「心配しなくても、お金盗ったりしないって」
ふふっと笑って、細い身体がもうすこししっかりと直隆に巻きついてくる。支えようとしてくれているのはわかっていたが、それにしてもずいぶんな密着度合いだと思った。
「盗むなら、いますぐあんたの財布引き抜くのは簡単だよ」
たしかに、と胸ポケットにすぐ触れそうな細い手を見つめ、直隆はあいまいにうなずいた。
見おろすと、ちょうど肩のしたに彼の顔がある。未直よりは大きい気がする。けれど直隆よりはだいぶ小さい。
「重くはないのか」
「平気。まだ立って歩いてくれてるしね」
思えば、奇妙な話だった。直隆はどこへ行くともどこへ帰るとも教えてさえいないのに、男は確信的に直隆を引きずって歩く。そのことになんの違和感も疑問も覚えなかったのは、やはり酔いのせいだったのだろう――というのは、のちになって考えたことだ。
不審に思うどころか、そのときの直隆は、暢気にこんなことを考えていた。
(なんだか、いいにおいのする男だな)
自分の酒臭さに辟易するような状態でも、彼の身体から爽やかな香りがするのは気がついた。なにか香水のようなものか、きれいな髪のにおいなのかはわからないけれど、これだけ同性と密着して不快感がないのは、植物的なその香りのせいかもしれない、とぼんやり思う。
*この続きは製品版でお楽しみください。
ため息をついて、カラのコップを振った。いまの電話でなにを察したのか、妙に同情的な顔をした店主がおかわりを注ごうとしたところで、ほっそりした手がそれを止めた。
「おにいさん、しんどそうだね」
なめらかな声が、そっといたわるように告げる。直隆がはっと振り返ったとたん、眼鏡がずり落ちた。酔いに赤らんだ目で見やると、像のぶれた視界にほっそりした男の姿が映る。
「誰だ、きみは」
眼鏡のずれを直してもういちど、あらためて見つめ直すと、茶色い髪をしたきれいな顔の青年がいた。年齢は、直隆よりは若そうだ。けれど落ちついた雰囲気もあるから、二十代の後半、といったところだろうか。
しゃれた雰囲気のある青年で、寂れた居酒屋には、いささか不似合いな存在だ。クラブで踊っているほうがぴったりに感じられる男は、なめらかな声でいさめてくる。
「やめなよ、もう。飲みすぎだと思うよ」
「ほっといてくれっ」
「うわっ」
掴まれた手首を振り払おうとすると、ずいぶんな大ぶりになってしまった。意図したことではないが彼を突き飛ばしてしまい、声をあげてよろけた相手に直隆は焦った。
「す、すまない。加減ができなかった。大丈夫か?」
はっとして声をかけると、彼は眉をさげてかぶりを振ってみせる。
「ううん。俺がおせっかいだったから。でも、もう、やめたほうがいいよ?」
「……そうか、そうだな。申し訳ない」
ぐらぐらする頭を押さえ、何度かうなずいた。ここまで飲みすぎてしまうと、さらなる醜態を招きかねない。なによりいま、直隆よりずいぶん体格的にも劣る相手に、うっかり怪我をさせるところだった。冷や汗をかき、これ以上は、それこそなにか問題でも起こしかねないと直隆は立ちあがった。
「お勘定を」
店主に声をかけ、おぼつかない手で万札を突き出す。釣りを用意するのが待てずに、直隆はふらふら歩きだした。
「釣りはいらない。とっておいてくれ、迷惑をかけた」
「ちょっと、お客さん! 困りますって!」
追ってくる店主の声も、アルコールに鈍った耳には届かない。千鳥足の直隆は、そこから数メートルも行かないうちに、足をもつれさせた。
「おっと!」
倒れるかと思った瞬間、誰かが腋のしたに入りこんで支えてくれる。うつろな目で見おろすと、さきほど飲みすぎだと咎めた青年がいた。
「だいじょぶ? 気をつけて」
「あ、ああ。平気だ」
「嘘だよ、あんたまっすぐ歩けてなかったよ」
ほら立って、と体勢を立て直されたが、いちど立ち止まってしまうと、まともに立つことすらむずかしいことに気づいた。ぐらりと身体がかしぎ「ほらあ」と彼が呆れたような声を出す。
「ちょっと休んだほうがいいよ。こっちおいで」
「どこに……いくんだ?」
「心配しなくても、お金盗ったりしないって」
ふふっと笑って、細い身体がもうすこししっかりと直隆に巻きついてくる。支えようとしてくれているのはわかっていたが、それにしてもずいぶんな密着度合いだと思った。
「盗むなら、いますぐあんたの財布引き抜くのは簡単だよ」
たしかに、と胸ポケットにすぐ触れそうな細い手を見つめ、直隆はあいまいにうなずいた。
見おろすと、ちょうど肩のしたに彼の顔がある。未直よりは大きい気がする。けれど直隆よりはだいぶ小さい。
「重くはないのか」
「平気。まだ立って歩いてくれてるしね」
思えば、奇妙な話だった。直隆はどこへ行くともどこへ帰るとも教えてさえいないのに、男は確信的に直隆を引きずって歩く。そのことになんの違和感も疑問も覚えなかったのは、やはり酔いのせいだったのだろう――というのは、のちになって考えたことだ。
不審に思うどころか、そのときの直隆は、暢気にこんなことを考えていた。
(なんだか、いいにおいのする男だな)
自分の酒臭さに辟易するような状態でも、彼の身体から爽やかな香りがするのは気がついた。なにか香水のようなものか、きれいな髪のにおいなのかはわからないけれど、これだけ同性と密着して不快感がないのは、植物的なその香りのせいかもしれない、とぼんやり思う。
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