和書>小説・ノンフィクション>ライトノベル>異世界ファンタジー
解説
少年ワツレンは、海の上で生涯を送るという海人の一族に育った。左半身にほどこされた銀色の美しい刺青が、その証。だが、大嵐に襲われ両親と仲間たちを失ったワツレンは、軍人のルーザ=ルーザに命を助けられ、王都の迷宮管理庁で暮らすことになる。王国の至宝を守るために造られた迷宮の謎は、誰にも解けないはずだったが、ワツレンは……!? 迷宮ファンタジーに新たな傑作登場!
抄録
「――まちだ! 白い都市だよ!」
帆桁の上から大きな声がした。甲板にいた人々は、顔を見あわせてくすくすと笑う。
いずれも腰に剣をさげ、深い緋色のマントをはおった、屈強な男たちだ。立ち居ふるまいは多少粗野だが隙がなく、日に焼けた厚い皮膚をしていた。目元は、日頃はもっと鋭いと思われるが、今は楽しげにくつろいで上を見あげていた。
「白い塔がいくつも見える! 都市のうしろに見える山が白いのは、もしかして雪?」
ふたたび、水鳥の鳴き声にまじって大きな声がした。
叫んでいるのは、十三、四歳ほどの少年だ。船は波にゆれているのに、狭い帆桁のあちらこちらを裸足で自由に走りまわっている。甲板までの距離はかなりあるが、高さを怖れる様子はまったくなかった。
まだ背ばかりが伸びる年齢なのか、服からでた少年のすんなりとした手足は、少しちぐはぐに長すぎるように感じられた。成長してたくましさが身につけば、ほかの男たちに負けない精悍な男になると予想できるが、それはまだ数年先のことだろう。
漆黒の髪と瞳。しかし、くせのある髪はおおらかに風になびき、目は生き生きと輝いて、色彩の暗さをほとんど感じさせなかった。
少年は男たちと違って、袖も裾も短い、身軽な服装をしていた。街の子供が着ていそうなありふれたものだが、それを着る少年のほうは、いちど見たら忘れられないほど印象的な姿をしていた。
少年は、なめらかな小麦色の肌の左半身に、銀色の刺青をしていた。
刺青は服からでている左腕、左足、左の胸元から首筋を覆い、左頬にも広がっている。おそらくは、衣服にかくれた部分にもほどこされているに違いない。
これは海人――船で生まれ、漁や交易をし、死ねば海に流される、陸よりも海上で長くすごす海の民の、独特の風習だった。
銀色の線と線がまじわり、連続する。波やうずまきを思わせる複雑な紋様は、見る者を一瞬まどわせるかのようだ。
しかし、そんな幻想的な左半身は、生気あふれる右半身とふしぎになじんでいた。少年の笑顔が、両極端の印象をくったくなくひとつにしているのだ。
「おちつけよ、ワツレン!」
男たちのなかから、ひときわ長身の男がすすみでて、笑いながら少年に声をはりあげた。
若い、秀麗な顔だちの男だ。しなやかな身のこなしには、野生の獣のような緊張感がただよっている。革の長靴や緋色のマントは使い古され、あまり櫛が入っていない長い金髪は、無造作に結って背に流されていた。
ワツレンと呼ばれた少年は、青年に大きく手をふった。
「ルーザ=ルーザ!」
「ほら、おりてこい!」
「うん!」
ワツレンは帆桁に手をかけると、くるりと回転し、そのまま両手でぶらさがった。はずみで、首からさげた護り袋が大きくはねる。
体を前後にゆらして反動をつけ、帆綱まで飛びうつると、甲板から歓声があがった。
腕を広げて綱をつたうワツレンの周囲を、水鳥が大きく広がり、旋回する。その様子はまるで少年が水鳥たちを先導しているようにも見えた。
*この続きは製品版でお楽しみください。
帆桁の上から大きな声がした。甲板にいた人々は、顔を見あわせてくすくすと笑う。
いずれも腰に剣をさげ、深い緋色のマントをはおった、屈強な男たちだ。立ち居ふるまいは多少粗野だが隙がなく、日に焼けた厚い皮膚をしていた。目元は、日頃はもっと鋭いと思われるが、今は楽しげにくつろいで上を見あげていた。
「白い塔がいくつも見える! 都市のうしろに見える山が白いのは、もしかして雪?」
ふたたび、水鳥の鳴き声にまじって大きな声がした。
叫んでいるのは、十三、四歳ほどの少年だ。船は波にゆれているのに、狭い帆桁のあちらこちらを裸足で自由に走りまわっている。甲板までの距離はかなりあるが、高さを怖れる様子はまったくなかった。
まだ背ばかりが伸びる年齢なのか、服からでた少年のすんなりとした手足は、少しちぐはぐに長すぎるように感じられた。成長してたくましさが身につけば、ほかの男たちに負けない精悍な男になると予想できるが、それはまだ数年先のことだろう。
漆黒の髪と瞳。しかし、くせのある髪はおおらかに風になびき、目は生き生きと輝いて、色彩の暗さをほとんど感じさせなかった。
少年は男たちと違って、袖も裾も短い、身軽な服装をしていた。街の子供が着ていそうなありふれたものだが、それを着る少年のほうは、いちど見たら忘れられないほど印象的な姿をしていた。
少年は、なめらかな小麦色の肌の左半身に、銀色の刺青をしていた。
刺青は服からでている左腕、左足、左の胸元から首筋を覆い、左頬にも広がっている。おそらくは、衣服にかくれた部分にもほどこされているに違いない。
これは海人――船で生まれ、漁や交易をし、死ねば海に流される、陸よりも海上で長くすごす海の民の、独特の風習だった。
銀色の線と線がまじわり、連続する。波やうずまきを思わせる複雑な紋様は、見る者を一瞬まどわせるかのようだ。
しかし、そんな幻想的な左半身は、生気あふれる右半身とふしぎになじんでいた。少年の笑顔が、両極端の印象をくったくなくひとつにしているのだ。
「おちつけよ、ワツレン!」
男たちのなかから、ひときわ長身の男がすすみでて、笑いながら少年に声をはりあげた。
若い、秀麗な顔だちの男だ。しなやかな身のこなしには、野生の獣のような緊張感がただよっている。革の長靴や緋色のマントは使い古され、あまり櫛が入っていない長い金髪は、無造作に結って背に流されていた。
ワツレンと呼ばれた少年は、青年に大きく手をふった。
「ルーザ=ルーザ!」
「ほら、おりてこい!」
「うん!」
ワツレンは帆桁に手をかけると、くるりと回転し、そのまま両手でぶらさがった。はずみで、首からさげた護り袋が大きくはねる。
体を前後にゆらして反動をつけ、帆綱まで飛びうつると、甲板から歓声があがった。
腕を広げて綱をつたうワツレンの周囲を、水鳥が大きく広がり、旋回する。その様子はまるで少年が水鳥たちを先導しているようにも見えた。
*この続きは製品版でお楽しみください。




















⇒詳細






