和書>小説・ノンフィクション>ボーイズラブ小説>業界人
解説
十九歳にして恋もしらず、夢もない。深夜のバイトをこなすだけの味気ない日々をおくっていた桜吾は、闇夜の公園で出会った極道の男の背に煌めく刺青――。胸びれを大きく広げた鯉が男の背を今にも駆け昇らんとする迫真の姿に心奪われる。いつしか彫り師を志すようになった桜吾は、鯉の刺青を彫った評判の彫り師「彫仁」に弟子入り志願をするが、見かけによらず手強い彫仁は話も聞いてくれず……。
堅物(!?)彫り師×おバカ弟子のピュアラブストーリー!!
堅物(!?)彫り師×おバカ弟子のピュアラブストーリー!!
抄録
「スケッチブックが無い!俺の集大成が!熱い希望が!大きな夢が!」
広くは無いが、散らかっている部屋の中を血眼になって探したけれど、スケッチブックが見当たらない。それに、人の背中の大きさに見立てて買った、大きなサイズのスケッチブックなのだ。うっかりどこかに紛れ込むような小さな物では無い。
考えられるのは、ひとつ。
弟子入り志願に行ったときに、彫仁の工房に忘れてきたのだ。
断られたり抱き締められたりと、すったもんだの騒ぎがあったので、あの辺に放り出してそのままにしてきてしまったのだろう。よりによって、今の俺の命の次に大切なものを、二度と行けない場所に忘れてくるとは。救いようのない自分のヘマに、頭を抱えた。
仕方がない、恥をしのんで取りに行こう。
ひょっとして、もう処分されてしまったかもしれないと心配したけれど、すぐに打ち消した。
忘れ物のスケッチブックがあったら、とりあえず持ち主を特定しようと中を見るだろう。
躍動感のある龍や迫力のある虎が、全ページを埋め尽くしている。刺青を愛するあの人のことだ。きっと、捨てたりはしないで、保管してくれているだろう。
ひょんなことから、図らずも俺は、三度めの訪問をすることになってしまった。時間は、この間と同じ、工房の営業終了時間を選んだ。
スケッチブックが捨てられていないことと、二度と来ないと言い切ったくせにのこのこと現れた話の分からないバカだと思われないこと。その二つを祈りながら、俺はすでに通い慣れた道を辿った。
木製の扉の前に、過去の二回とは全く違った気持ちで立つ。
「格好悪いな、俺」
自分を戒めるように呟きながら、チャイムを押した。前回は、すぐに出てきてくれたのに、今日は様子が違った。何の気配もない。
「留守かな?」
俺は諦めきれずに、もう一度チャイムを鳴らした。さっきまでは、啖呵をきった後の再訪を恥じていたのに、留守だとわかると忽ち残念に思えた。
「なんだ、いないのか。しょうがない、出直そう」
スケッチブックは買い直せるが、中の絵までは元通りにできないのだから仕方がない。
すると背後で、俺の知っている声がした。
「うちに何か用?」
*この続きは製品版でお楽しみください。
広くは無いが、散らかっている部屋の中を血眼になって探したけれど、スケッチブックが見当たらない。それに、人の背中の大きさに見立てて買った、大きなサイズのスケッチブックなのだ。うっかりどこかに紛れ込むような小さな物では無い。
考えられるのは、ひとつ。
弟子入り志願に行ったときに、彫仁の工房に忘れてきたのだ。
断られたり抱き締められたりと、すったもんだの騒ぎがあったので、あの辺に放り出してそのままにしてきてしまったのだろう。よりによって、今の俺の命の次に大切なものを、二度と行けない場所に忘れてくるとは。救いようのない自分のヘマに、頭を抱えた。
仕方がない、恥をしのんで取りに行こう。
ひょっとして、もう処分されてしまったかもしれないと心配したけれど、すぐに打ち消した。
忘れ物のスケッチブックがあったら、とりあえず持ち主を特定しようと中を見るだろう。
躍動感のある龍や迫力のある虎が、全ページを埋め尽くしている。刺青を愛するあの人のことだ。きっと、捨てたりはしないで、保管してくれているだろう。
ひょんなことから、図らずも俺は、三度めの訪問をすることになってしまった。時間は、この間と同じ、工房の営業終了時間を選んだ。
スケッチブックが捨てられていないことと、二度と来ないと言い切ったくせにのこのこと現れた話の分からないバカだと思われないこと。その二つを祈りながら、俺はすでに通い慣れた道を辿った。
木製の扉の前に、過去の二回とは全く違った気持ちで立つ。
「格好悪いな、俺」
自分を戒めるように呟きながら、チャイムを押した。前回は、すぐに出てきてくれたのに、今日は様子が違った。何の気配もない。
「留守かな?」
俺は諦めきれずに、もう一度チャイムを鳴らした。さっきまでは、啖呵をきった後の再訪を恥じていたのに、留守だとわかると忽ち残念に思えた。
「なんだ、いないのか。しょうがない、出直そう」
スケッチブックは買い直せるが、中の絵までは元通りにできないのだから仕方がない。
すると背後で、俺の知っている声がした。
「うちに何か用?」
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