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ケータイ文学部 この町に吹く風のように

ケータイ文学部 この町に吹く風のように

著: 森野拓郎
発行: マリクロ
レーベル: ケータイ文学部
価格:315円(税込)
10ポイント還元
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
みんなの評価 ★★★★☆1
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著者プロフィール

 森野 拓郎(もりの たくろう)
 1982〜
 埼玉県生まれ。明星大学人文学部卒。学生時代に小説家を志し、執筆活動をスタート。現在は某商社に勤務する傍ら、2008年5月に小説家としてデビュー。ケータイ小説に対する、悪い先入観を一掃できる作家を目指す。読者の方々に何かを伝え、何かを感じてもらえることを目標に、これからも執筆に励んでいきます。著書に『最後のお願い』『運命の光』『明日は、きっと』。

解説

 汗と泥にまみれて生きる両親の姿を、麻衣は心のどこかで嫌っていた。反発心と華やかな都会への憧れで上京したものの、理想と現実の違いに敗れて故郷へと帰って来た麻衣。以前と変わらず稲作に懸ける両親や幼なじみの亮太を見ているうちに、麻衣は初めて彼らが守り続けてきた「誇り」を知ることとなる。しかし、ここにも現実の厳しさはあるのだった。日本人の誇りをテーマに、理想と現実の狭間で健気に生きる人々の姿を描く。

抄録

「お父さーん」
 初め父は無表情で振り向いたが、私が高く掲げた弁当の包みを見ると少しだけ笑顔になった。
「取りに帰らないとダメかと思っていたんだがな」
 手ぬぐいで手を拭いた父は、バツが悪そうにそう言って弁当の包みを受け取った。父は地べたに腰を下ろすと、立っている私を見上げて言った。
「麻衣は、昼飯食べたのか」
「ううん、食べようと思って台所に行ったら、これを見つけちゃったから。家に戻ってから食べるよ」
「そりゃ、ますます悪いことしたな」
 いいよ、と言って、私は父の隣に腰を下ろした。私がぼんやりしていると、おにぎりをほおばっていた父が急に私の方を向いた。
「何?」
 驚いて父の顔を見ると、父は目だけでふっと笑って、独り言のように呟いた。
「いや、お前と並んで座るのなんて、どれくらいぶりかと思ってな」
「…そうだね」
 そう言えば、実家に戻ってきてからも、寡黙な父とはあまり話すことはなかった。また黙っておにぎりをかじる父の横顔を見ていると、妙にしんみりとした気持ちになってしまった。
 たまらなくなった私は、立ち上がってお尻をパンパンとはたいた。
「家、帰るね。お母さんも心配だし」
 私がそう言うと、父はチラリと私の方を見て「弁当、ありがとうな」とだけ言った。父の「ありがとう」が聞けるとは、かなり貴重な瞬間だ。私は一人はしゃいで「じゃあねっ」と言うと、車へ帰ろうと振り向いた。
 歩き出そうとしたその時、田んぼの反対側を歩いている若い男性の姿が目に入った。どこかで見た姿だと思いながら目を凝らしていると、そんな私に気づいた父が言った。
「ああ、松元さんの倅か」
「松元さん?」
「覚えてないか? 小さい頃、よく遊んだだろう」
「覚えてるよ、もちろん。じゃあ、あれは…」
 私はその男性に向かって手を振りながら、大きな声で叫んだ。
「亮太ー!」
 亮太は何事かと辺りを見回したが、すぐに私に気づいた。よく表情は見えないが、笑顔になったのがその雰囲気から見て取れる。私は田んぼに沿って小走りで亮太のいる方へ向かった。確か、亮太とは高校を卒業して以来一度も会っていない。
「久しぶりだね、亮太」
 私がそう言うと、亮太は日に焼けた顔をくしゃっとさせて笑った。
「おう、元気だったか。ていうか何やってるんだ?」
「この前、仕事辞めて帰って来たの。それからはずっとブラブラしてる」
「何だ、それ」
 亮太はそう言って複雑な顔をした。十年近く会っていなかった幼なじみに自分の身の上話をする気もしないので、私は亮太に話の中心を持っていった。
「亮太は高校出てから、ずっと田んぼを手伝ってたの?」
 私の問いに、亮太は首を横に振った。
「いや、三年前までは霧島で会社勤めしていたよ。でも親父の具合が悪くなって、こっちに戻ってきたんだ」
「へえ、そうなんだ。それで、お父さんは良くなった?」
「去年、死んだよ」
 私は思わず黙り込んでしまった。

*この続きは製品版でお楽しみください。

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