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マリクロBiz文庫 どっちの道でも後悔だらけ

マリクロBiz文庫 どっちの道でも後悔だらけ

著: 森野拓郎
発行: マリクロ
レーベル: マリクロBiz文庫
価格:210円(税込)
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対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
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著者プロフィール

 森野 拓郎(もりの たくろう)
 1982〜
 埼玉県生まれ。明星大学人文学部卒。学生時代に小説家を志し、執筆活動をスタート。現在は会社員として働く傍ら、2008年5月に小説家としてデビュー。翌年秋には公式ブログを開設。旅行や風景写真撮影が趣味であり、時間があれば国内を飛び回る生活を送っている。著書に『最後のお願い』『運命の光』『明日は、きっと』『この町に吹く風のように』『結婚できないかもしれない女 100%の男』。

解説

 やり手のサラリーマンだった南は、仕事のミスがきっかけで、地位も愛する女性さえも失ってしまった。全てに絶望した南は、自分と向き合う場所を得るためにバーを開く。そこで色々な人々と出会い、話をしていく中で、南は自分のしてきたことを悔いる。そして、過去を振り返り今を見つめることで、南は少しずつ自分のあるべき姿を見出していった……自分だけのことで目一杯になっているあなたへ贈る、優しい気持ちになれる物語。新世代ための人生の応援歌☆ 等身大のビジネス小説!! です。生きるためのヒントを見つけて下さい。

抄録

「聞いてくれる? マスター」
「どうしたんだ?」
「今日さ、ライブハウスで前座やったんだ。そうしたらさ、終わった後メインのバンドのヤツが俺の楽屋に来たんだよ」
 彼はグラスを受け取ると、クイッと飲み干した。「おかわり」と言って僕の前に空のグラスを置く。
「それでさ、嫌味言うわけよ。『何を伝えるために歌ってるの?』とか、『情熱が感じられないな』とかさ。こっちも一生懸命やってるのにね」
 そう言って彼は溜め息をつくと、がっくりとうな垂れた。僕はまたウイスキーの入ったグラスを渡してやった。
「俺、歌うの止めようかと思ってさ」
「止めるのか? もう少しだって、この前言ってたじゃないか」
「まあね…でもさ、これから先、歌でメシが食えるとも思えないんだ。もう俺も三十近いし、そろそろ音楽から足洗って、サラリーマンでもやるかなってさ」
 サラリーマンだって楽じゃないんだ、と言いかけて、僕は黙った。社会から逃げ出した今の僕は、他人に説教などできる立場ではない。ただ話を聞いて、慰めてやることくらいしかできないだろう。
「諦めないで頑張ってみたらどうだ? 努力すれば、君を馬鹿にしたヤツみたいにできるようになるだろ」
「どうかな…マスターだってさ、努力だけじゃどうにもならないことあったでしょ」
 僕は苦笑いをしてウイスキーの並ぶ棚に寄りかかった。
「まあ、何でもできるってわけじゃないけどな。でも大体は、努力次第でどうにかなったよ」
 彼は黙って僕の顔を見ていたが、やがて自嘲気味に笑った。
「マスターも俺と一緒で、社会から外れた人間だと思っていたんだけどな」
「…何が言いたいんだ?」
「いや、マスターもあいつらと一緒なんだなって」
 僕が何も言わずにいると、彼は幾分僕を責めるような口調で言った。
「器用なヤツってさ、自分ができることは誰でもできると思ってるんだよ。だから、どうしてもできないヤツの気持ちが分からないんだ」
 すると、彼の三つほど離れたカウンターの席に座っていた一人の老人が低く笑い、ボソッと言った。
「君の言うとおりだ」
 僕と彼は同時に老人を見た。老人はゆっくりとこちらを向くと、僕たちの顔を順に見比べ、また正面に向き直った。僕は恐る恐るその老人に尋ねた。
「言うとおり、とは?」
 老人はまた笑うと、目を細めて誰に言うともなく言った。
「わしも若いころはそうだった。周りの連中を常に見下して生きていたよ。何をやっても、自分が誰よりも優れているという自信があった。しかしな…」
 老人はグラスのウイスキーに口をつけると、オホンと咳払いをした。
「ある時、わしはとんでもないことに気がついたのだよ」
「何ですか、それは」
 僕が先を急ぐように聞き返すと、老人は口元だけで笑い、低い声で言った。
「わしはいつの間にか、人の痛みを理解できない人になっていた」
 僕はその言葉の意味が分からず、老人の横顔をじっと見たまま考え込んだ。ふと吉岡を見ると、彼は小さく笑って何度も頷いている。僕だけが理解できないことに焦りを感じた僕は、老人の前まで歩いていくとカウンター越しに尋ねた。
「今言ったのは、どういう意味ですか?」
 老人は顔を上げると睨むように僕を見て、呆れたように言った。
「お前さんには分からんか…そうか、お前さんも心を無くしたうちの一人なのだな」
「え?」
 僕が呆気に取られていると、老人は溜め息をついた。
「どうしても分からんようだな…いいだろう。教えてやるから、その前におかわりをくれるかね」
 老人が差し出したグラスを受け取ると、僕は急いでウイスキーを注いで彼に手渡した。

*この続きは製品版でお楽しみください。

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