和書>小説・ノンフィクション>ライトノベル>異世界ファンタジー
著者プロフィール
和田賢一(わだ けんいち)
『ヴァロフェス』で第13回富士見ファンタジア小説大賞努力賞受賞。同シリーズのほか『迷界のアマリリス』(ホビージャパン・刊)など発表。
『ヴァロフェス』で第13回富士見ファンタジア小説大賞努力賞受賞。同シリーズのほか『迷界のアマリリス』(ホビージャパン・刊)など発表。
解説
鈍色に輝く長い嘴。闇色に染め上げられた大きな翼。月夜に浮かぶその姿はまるで、漆黒の羽を広げる巨大な鴉だった──。
鼻の先が尖った仮面と黒い高襟の大きな外套に身を包んだヴァロフェスは、人に仇なす〈叫ぶ者〉を殲滅せんと、闇から闇を渡り歩く孤独な旅を続けていた。だが、それは正義のためでも人助けのためでもない。彼を突き動かしているのは復讐の炎だった。母と祖国と、唯一心を許した少女を奪った、裏切りの魔術師・マクバ。そこにたどり着く唯一の手がかりが、奴に魂を売って人外となった〈叫ぶ者〉たちなのだ。そんな終わりなき死闘を続けるヴァロフェスの前に、旅芸人として各地を回っている少女リリスが現れる。陽光に映える赤毛と澄んだまっすぐな瞳。彼女には、かつて彼が愛したあの少女の面影があった。まるで導かれるように交差した二人の運命。その出会いには果たしてどんな意味があるのか?
飛び散る血肉! 迫りくる怪異! 傑作ダーク・ファンタジーが、単行本未収録短編を収録した電子限定版で登場!
鼻の先が尖った仮面と黒い高襟の大きな外套に身を包んだヴァロフェスは、人に仇なす〈叫ぶ者〉を殲滅せんと、闇から闇を渡り歩く孤独な旅を続けていた。だが、それは正義のためでも人助けのためでもない。彼を突き動かしているのは復讐の炎だった。母と祖国と、唯一心を許した少女を奪った、裏切りの魔術師・マクバ。そこにたどり着く唯一の手がかりが、奴に魂を売って人外となった〈叫ぶ者〉たちなのだ。そんな終わりなき死闘を続けるヴァロフェスの前に、旅芸人として各地を回っている少女リリスが現れる。陽光に映える赤毛と澄んだまっすぐな瞳。彼女には、かつて彼が愛したあの少女の面影があった。まるで導かれるように交差した二人の運命。その出会いには果たしてどんな意味があるのか?
飛び散る血肉! 迫りくる怪異! 傑作ダーク・ファンタジーが、単行本未収録短編を収録した電子限定版で登場!
目次
プロローグ
第一話 仮面の男
第二話 森の一夜
第三話 翠玉が丘
第四話 エスメリア・ルー
第五話 廃屋
第六話 出現
第七話 湖
第八話 〈叫ぶ者〉
第九話 〈無の都〉
エピローグ
死面の兜(ヴァロフェス単行本未収録作品)
第一話 仮面の男
第二話 森の一夜
第三話 翠玉が丘
第四話 エスメリア・ルー
第五話 廃屋
第六話 出現
第七話 湖
第八話 〈叫ぶ者〉
第九話 〈無の都〉
エピローグ
死面の兜(ヴァロフェス単行本未収録作品)
抄録
どうせなら、女の子のほうがいい。
器量は十人並みといった娘だが、まあ、贅沢は言うまい。
そんなことを考えながらも、口の中に生唾が溜まってくる。
全身が熱くなるのを感じて、グルブは分厚い唇を舐めた。
「あ、あの、旦那様……」
主人が黙っていることに不安を感じたのか、小間使いの娘が涙声で言った。
「どうか、暇を出すことだけはお許しください。今、里に返されたら実家の父にどんな目に合わされるかわかりません」
「そんな心配をしていたのか」
両手を胸の前で組み合わせ、哀願する娘にグルブは微笑みかける。
今すぐにでも娘に飛びかかってゆきたいという、欲情をどうにか抑え込みながら。
「たかが皿の一枚や二枚。また、買えばよい。金なら腐るほどあるからな。だから、お前もくだらないことで気をもむのはおよし」
「えっ、でも、……パーセルさんが」
驚いたような娘の言葉に、グルブは首を振った。
「この館の使用人をどうするかを決めるのは、このワシだ。執事長ではない。……お前を呼んだのは、ちょっとした頼み事があるからだ」
「頼み事……?」
「まあ、その前に――」
ベッドの脇に置かれた机の上に載せられた陶器の皿をグルブは指差す。
そこには色とりどりの宝石のような砂糖菓子が山のように盛られていた。
「お前は甘いものは嫌いかね?」
グルブの言葉に目を丸くする娘。
てっきり、仕置きを受け、館から放り出されると思っていたのだろう。
しかし、館の主人は叱責するどころか、貧しい村の出身の娘には、年に一度も口にできないような、高価な菓子をお食べと勧めてくれている。
当然のことながら、娘はすっかり困惑していた。
困惑しながらも、ゴクッと喉を鳴らす。
少し躊躇った後――、娘は恐る恐る、手を皿に伸ばす。
そのか細い手首をグルブは、むんず、と攫み取っていた。
「ひっ!?」
怯えた悲鳴をあげ、顔を強張らせる娘。
「だ、旦那様? い、一体、何を……!?」
「ウム。お前に頼みたいことというのはだな」
後込みし、逃げ出そうとする娘の小柄な身体をグルブはベッドに引き寄せる。
早鐘のように打ち鳴る、娘の鼓動を聞いたような気がしてグルブの体内に熱いものが込み上げてくる。
「ワシの健康の問題だ」
「……えっ?」
正面からグルブに顔を覗き込まれ、娘はかたかたと震え始める。
まるで罠にかかったウサギのようだな、とグルブは思った。
「ワシはこう見えても生まれつき心臓が悪くてな。年をとってからはさらに悪くなった。金に物をいわせて、いろいろな薬を飲んではみたが一向によくはならなん」
優しく囁きながら、グルブは娘の首筋をゆっくりと片手で撫でる。
恐怖に耐えきれなくなったのか、とうとう、声をあげて泣き始める娘。その幼い泣き顔に嗜虐心が極限まで高まってゆくのを感じながら、グルブは続ける。
「そこで、ある御方と取引したのよ。その方のおかげで、今はちょっとやそっとでは壊れない頑丈な身体を手に入れることができた。……少しばかり、他人とは違う体質になっちまったがな」
グルブの言葉が終らないうちだった。
全身の骨がボキボキと軋んだ音を立てて――、グルブの身におぞましい変化が生じる。
ゆっくりと後ろに盛り上がり、歪な形に変わってゆくグルブの頭部。
ビリビリとガウンが引き裂かれ、その中から、冗談のように膨れ上がった肉体が露わになる。
不可視の手に引きずり出されるかのように、前に長く伸びる、鼻と顎骨。
年老いた脆弱な歯がポロポロと抜け落ち、代わりに剃刀のような牙が歯茎から血を泡立たせながら生え伸びてくる。
そして、針金のような剛毛が膨れ上がった身体を包み込む。
「……健康を守るためには、若い女や子どもの血肉が欠かせぬのだよ」
だらり、と長い舌を胸元まで垂らしながらグルブは笑った。
精いっぱい、大きく見開かれる娘の瞳。
涙に濡れたその瞳には、もはや、恐怖はない。ありとあらゆる感情が失われていた。
目の前の出来事が理解を超えているのだろう。熱に浮かされ、幻にとり憑かれた者のように、小首を傾げてみせる娘。
「なぁに、そう悪い話でもなかろうて」
そんな娘に向かって、グルブは房のついた長い尻尾を得意げに振る。
「今のワシは不死身よ。この先、どんな病にも殺されることはない。お前もワシの一部になれば、ワシとともに永遠に生きられるという寸法よ」
ぺたん、と力なくその場に両膝を落とす娘。それから、呆けたように口をポカンと開き、変わり果てたグルブの姿をぼんやりと見上げる。
なんだ。もう、壊れてしまったのか。
獲物がまったく抵抗しないというのも味気ないモノだな。
「まあ、いい……」
下顎から滴り落ちる、黄色いヨダレを鉤爪の生えた手で拭いながらグルブはほくそ笑む。
もはや、人間ではない、醜い獣の相で。
「お前はいい子だ。だから、できるだけ、ゆっくり味わって食ってやろう」
とりあえず、味見といくか。
娘の腕をもぎ取ろうと、グルブがその手に力を込めかけたときだった。
*この続きは製品版でお楽しみください。
器量は十人並みといった娘だが、まあ、贅沢は言うまい。
そんなことを考えながらも、口の中に生唾が溜まってくる。
全身が熱くなるのを感じて、グルブは分厚い唇を舐めた。
「あ、あの、旦那様……」
主人が黙っていることに不安を感じたのか、小間使いの娘が涙声で言った。
「どうか、暇を出すことだけはお許しください。今、里に返されたら実家の父にどんな目に合わされるかわかりません」
「そんな心配をしていたのか」
両手を胸の前で組み合わせ、哀願する娘にグルブは微笑みかける。
今すぐにでも娘に飛びかかってゆきたいという、欲情をどうにか抑え込みながら。
「たかが皿の一枚や二枚。また、買えばよい。金なら腐るほどあるからな。だから、お前もくだらないことで気をもむのはおよし」
「えっ、でも、……パーセルさんが」
驚いたような娘の言葉に、グルブは首を振った。
「この館の使用人をどうするかを決めるのは、このワシだ。執事長ではない。……お前を呼んだのは、ちょっとした頼み事があるからだ」
「頼み事……?」
「まあ、その前に――」
ベッドの脇に置かれた机の上に載せられた陶器の皿をグルブは指差す。
そこには色とりどりの宝石のような砂糖菓子が山のように盛られていた。
「お前は甘いものは嫌いかね?」
グルブの言葉に目を丸くする娘。
てっきり、仕置きを受け、館から放り出されると思っていたのだろう。
しかし、館の主人は叱責するどころか、貧しい村の出身の娘には、年に一度も口にできないような、高価な菓子をお食べと勧めてくれている。
当然のことながら、娘はすっかり困惑していた。
困惑しながらも、ゴクッと喉を鳴らす。
少し躊躇った後――、娘は恐る恐る、手を皿に伸ばす。
そのか細い手首をグルブは、むんず、と攫み取っていた。
「ひっ!?」
怯えた悲鳴をあげ、顔を強張らせる娘。
「だ、旦那様? い、一体、何を……!?」
「ウム。お前に頼みたいことというのはだな」
後込みし、逃げ出そうとする娘の小柄な身体をグルブはベッドに引き寄せる。
早鐘のように打ち鳴る、娘の鼓動を聞いたような気がしてグルブの体内に熱いものが込み上げてくる。
「ワシの健康の問題だ」
「……えっ?」
正面からグルブに顔を覗き込まれ、娘はかたかたと震え始める。
まるで罠にかかったウサギのようだな、とグルブは思った。
「ワシはこう見えても生まれつき心臓が悪くてな。年をとってからはさらに悪くなった。金に物をいわせて、いろいろな薬を飲んではみたが一向によくはならなん」
優しく囁きながら、グルブは娘の首筋をゆっくりと片手で撫でる。
恐怖に耐えきれなくなったのか、とうとう、声をあげて泣き始める娘。その幼い泣き顔に嗜虐心が極限まで高まってゆくのを感じながら、グルブは続ける。
「そこで、ある御方と取引したのよ。その方のおかげで、今はちょっとやそっとでは壊れない頑丈な身体を手に入れることができた。……少しばかり、他人とは違う体質になっちまったがな」
グルブの言葉が終らないうちだった。
全身の骨がボキボキと軋んだ音を立てて――、グルブの身におぞましい変化が生じる。
ゆっくりと後ろに盛り上がり、歪な形に変わってゆくグルブの頭部。
ビリビリとガウンが引き裂かれ、その中から、冗談のように膨れ上がった肉体が露わになる。
不可視の手に引きずり出されるかのように、前に長く伸びる、鼻と顎骨。
年老いた脆弱な歯がポロポロと抜け落ち、代わりに剃刀のような牙が歯茎から血を泡立たせながら生え伸びてくる。
そして、針金のような剛毛が膨れ上がった身体を包み込む。
「……健康を守るためには、若い女や子どもの血肉が欠かせぬのだよ」
だらり、と長い舌を胸元まで垂らしながらグルブは笑った。
精いっぱい、大きく見開かれる娘の瞳。
涙に濡れたその瞳には、もはや、恐怖はない。ありとあらゆる感情が失われていた。
目の前の出来事が理解を超えているのだろう。熱に浮かされ、幻にとり憑かれた者のように、小首を傾げてみせる娘。
「なぁに、そう悪い話でもなかろうて」
そんな娘に向かって、グルブは房のついた長い尻尾を得意げに振る。
「今のワシは不死身よ。この先、どんな病にも殺されることはない。お前もワシの一部になれば、ワシとともに永遠に生きられるという寸法よ」
ぺたん、と力なくその場に両膝を落とす娘。それから、呆けたように口をポカンと開き、変わり果てたグルブの姿をぼんやりと見上げる。
なんだ。もう、壊れてしまったのか。
獲物がまったく抵抗しないというのも味気ないモノだな。
「まあ、いい……」
下顎から滴り落ちる、黄色いヨダレを鉤爪の生えた手で拭いながらグルブはほくそ笑む。
もはや、人間ではない、醜い獣の相で。
「お前はいい子だ。だから、できるだけ、ゆっくり味わって食ってやろう」
とりあえず、味見といくか。
娘の腕をもぎ取ろうと、グルブがその手に力を込めかけたときだった。
*この続きは製品版でお楽しみください。
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