和書>小説・ノンフィクション>ボーイズラブ小説>極道・刑事
解説
経済ヤクザ、赤城との欲情に染まった関係が断ち切れない弁護士の榛名。赤城を憎みながらも惹かれる気持ちが抑えられない……これは愛なのか。そんなある日、赤城と敵対する組の中に亡き兄、竜二に瓜二つの男の姿を見つけ、榛名の心は激しく乱れる。兄は復讐を胸に、麻薬取締官のスパイとして密かに生きていた……? 榛名は嫉妬に駆られた赤城から兄の目の前で組み敷かれ……。重い過去を背負う男たちの紡ぐ哀切の挽歌♪
目次
獣は長く静かに口づける
抄録
顎(あご)鬚(ひげ)を生やした男が、榛名の前を遮るように立ち塞がった。
先陣もちらりと振り返ったが、素人の酔客が絡んでいるとでも思ったのか、たいして気にも留めずに中へと消える。
その後に続くのが先ほどホステスを助けた男だ。
色の濃いサングラスをかけているせいで榛名が知っている顔とは違って見えて、やはり見間違いだったかと思えてくる。
だがつい、
「竜二兄さん」
と、もう一度声を荒らげて呼び止めた。
相手は、誰を呼んでいるのだとでも言いたげな表情を浮かべて、榛名をちらりと振り返った。
覚えている兄の髪型とは違う。長めの前髪を無造作に撫でつけてダークブラウンのメッシュを入れている。シャープな顎のラインに無(ぶ)精(しょう)髭(ひげ)があった。
竜二は髪が短く、髭もきちんと剃(そ)る清潔な男前だった。目の前の男もハンサムそうだが、サングラスをしているので目元がよく見えない。雰囲気がまるで違うので、やはり他人の空似だったのかと我が目を疑う。
一瞬、目が合ったと思った。
その瞬間をどう表現したらいいのだろう。言葉にならない懐かしい想いが榛名の胸に押し寄せてきた。
だが男は、すぐに視線を逸らして店の中へと消えていった。男は江島のボディガードなのか、傍を離れるわけにはいかないようだ。
相手の顔を確認しようとした榛名が足を一歩踏み出すと、別の二人の男が躰を張って遮った。
「なんだい兄さん、酔っ払っているのか? この先はダメだ、帰ってくれ」
「酔ってない。知り合いを見かけたんだ。中に入らせてくれないか」
「悪いな。店は貸し切りだ。他をあたってくれよ」
黒のネルシャツにグレーのスーツを着た男は、榛名とそう年齢が変わらないように見えた。だからといって親しみが湧くわけではない。言葉は落ち着いているが、こちらを警戒している。ちょっとでも榛名の行動が怪しければ、拳(こぶし)のひとつでも飛んできそうな不穏な空気を纏(まと)っていた。
「おい、相手をよく見ろ」
隣の男が、若い男を戒めるように肩を叩いた。
「どうやら、弁護士の先生のようですが? なんの用事があるんですかい?」
年上のほうが、急に態度を改めた。目(め)敏(ざと)く榛名の身なりを確認している。
榛名は、はっとして胸に手を翳(かざ)す。弁護士バッジをつけたままにしていた。張り込みをしている間くらい外してくればよかったのだが、これはこれで効き目があるかもしれないと思い直す。
*この続きは製品版でお楽しみください。
先陣もちらりと振り返ったが、素人の酔客が絡んでいるとでも思ったのか、たいして気にも留めずに中へと消える。
その後に続くのが先ほどホステスを助けた男だ。
色の濃いサングラスをかけているせいで榛名が知っている顔とは違って見えて、やはり見間違いだったかと思えてくる。
だがつい、
「竜二兄さん」
と、もう一度声を荒らげて呼び止めた。
相手は、誰を呼んでいるのだとでも言いたげな表情を浮かべて、榛名をちらりと振り返った。
覚えている兄の髪型とは違う。長めの前髪を無造作に撫でつけてダークブラウンのメッシュを入れている。シャープな顎のラインに無(ぶ)精(しょう)髭(ひげ)があった。
竜二は髪が短く、髭もきちんと剃(そ)る清潔な男前だった。目の前の男もハンサムそうだが、サングラスをしているので目元がよく見えない。雰囲気がまるで違うので、やはり他人の空似だったのかと我が目を疑う。
一瞬、目が合ったと思った。
その瞬間をどう表現したらいいのだろう。言葉にならない懐かしい想いが榛名の胸に押し寄せてきた。
だが男は、すぐに視線を逸らして店の中へと消えていった。男は江島のボディガードなのか、傍を離れるわけにはいかないようだ。
相手の顔を確認しようとした榛名が足を一歩踏み出すと、別の二人の男が躰を張って遮った。
「なんだい兄さん、酔っ払っているのか? この先はダメだ、帰ってくれ」
「酔ってない。知り合いを見かけたんだ。中に入らせてくれないか」
「悪いな。店は貸し切りだ。他をあたってくれよ」
黒のネルシャツにグレーのスーツを着た男は、榛名とそう年齢が変わらないように見えた。だからといって親しみが湧くわけではない。言葉は落ち着いているが、こちらを警戒している。ちょっとでも榛名の行動が怪しければ、拳(こぶし)のひとつでも飛んできそうな不穏な空気を纏(まと)っていた。
「おい、相手をよく見ろ」
隣の男が、若い男を戒めるように肩を叩いた。
「どうやら、弁護士の先生のようですが? なんの用事があるんですかい?」
年上のほうが、急に態度を改めた。目(め)敏(ざと)く榛名の身なりを確認している。
榛名は、はっとして胸に手を翳(かざ)す。弁護士バッジをつけたままにしていた。張り込みをしている間くらい外してくればよかったのだが、これはこれで効き目があるかもしれないと思い直す。
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