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著者プロフィール
戸川 幸夫(とがわ ゆきお)
明治45年、佐賀県生まれ。昭和11年、旧制山形高校理科甲類中退。
昭和29年「高安犬物語」で直木賞受賞。53年、芸術選奨文部大臣賞。56年、紫綬褒章。60年、児童文学功労者に選ばれる。
主な著書は「すばらしき動物の世界」「イリオモテヤマネコ」「マタギ」「人喰鉄道」「ヒトはなぜ助平になったか」「戸川幸夫動物文学全集」(全10巻)他。
明治45年、佐賀県生まれ。昭和11年、旧制山形高校理科甲類中退。
昭和29年「高安犬物語」で直木賞受賞。53年、芸術選奨文部大臣賞。56年、紫綬褒章。60年、児童文学功労者に選ばれる。
主な著書は「すばらしき動物の世界」「イリオモテヤマネコ」「マタギ」「人喰鉄道」「ヒトはなぜ助平になったか」「戸川幸夫動物文学全集」(全10巻)他。
解説
ときは戦国。伏影藤太ひきいる野武士の一味は、近在の村々を襲う荒くれ者の集団として恐れられていた。ひょんないきさつから仲間となった奇妙な男、阿二の太郎義兼は、あるとき彼らにひとつの提案をもちかける。それは高杉一族の本城“雁渡城”を乗っ取るという驚くべきものであった――。
わずかな烏合の衆に過ぎぬ野武士たちは、果たして一国の城をみごと奪うことが出来るのか? 悪党たちの、知恵と命を賭けた国盗りが始まる!
わずかな烏合の衆に過ぎぬ野武士たちは、果たして一国の城をみごと奪うことが出来るのか? 悪党たちの、知恵と命を賭けた国盗りが始まる!
目次
群盗の砦(とりで)
美女見舞い
飢狼(きろう)の牙(きば)
山塞(さんさい)焼討ち
梅一輪
女ごころ
罠(わな)
流れゆく雲
美女見舞い
飢狼(きろう)の牙(きば)
山塞(さんさい)焼討ち
梅一輪
女ごころ
罠(わな)
流れゆく雲
抄録
迷路つくりの工事が終わっての酒宴だが、さらに一同をわっと沸かせたのは阿仁の太郎が宴に先立って喋った演説だった。
「みんな、酒を呑みながら聞いてくれ。今までは、俺たちは唯の野武士だった。時には恥じながらも山賊、夜盗の真似もしなければならん野武士の群に過ぎなかったが、さて、みんな、今日からは違うのだぞ。
熊鷹森を抜けて大瀬川に沿って西に下ること十里の余、そこに雁渡の城があることを知っていよう」
阿仁の太郎はここで言葉を切り、効果を確めるように一同の顔をずうっと見渡した。
どの顔もあっ気にとられたように彼を見守っている。酒と女に眼のない奴らが、それも忘れて太郎義兼の次ぎの言葉を待っているのを見ると彼はニッコリ笑って次ぎをつづけた。
「雁渡の城主高杉光春は稀に見る智将であった。彼にして天下に覇を唱えんとする野望あれば、最上一族はたちまちに斬り従え、武蔵、小野寺、仁賀保(にがほ)、秋田氏をも征服したかも知れぬ。それだけの人材であった。
しかるに天は彼に味方をしなかった、病の冒(おか)すところとなったのだ。そのため彼は伊達と結び、封土に籠もってひたすら外敵の侮を禦(ふせ)ぐことのみに力(つと)めていた。この数年間を病床に在って二人の息子に内政を委せている。光春の心情たるや察するに余りがある。それなればこそ、みんなはその間隙を縫って跳梁することが出来たのである。しかし、それは飽くまで跳梁であって光春の眼を掠め得たに過ぎない。
だが、わしが言いたいのはそんな過去のことではない。
今や由利之助光春は命、旦夕に迫っている。恐らく数日を出でずして彼は死に、相続をめぐって争いが起こる。
これこそわれらが風雲に乗ずる時なのだ。
既にわれらの首領は兄の十兵衛光時と密(ひそか)に款(よしみ)を通じてある。彼の求めさえあればわれら一同は十兵衛光時の軍に加わり隼人光次を討つことになろう。
光次を討てばその功によって臣下にとり立てられ、光次の黒竜の砦を預かることも約定ずみなのだ。
われらがここに大事をみなにうち明けるのは一族同志と思えばこそだ。野武士の誓いは固いはず、決して口外するでないぞ」
わあっと喚声が挙がった。単純な野武士たちは歯切れのよい阿仁の太郎の弁舌に魅されて一も二もなく有頂天になった。中には刀を抜いて踊りまわる者もいた。
「お首領が黒竜砦の主、そして俺たちが城づとめの武士」
そう思うと嬉しくてたまらないのだ。そこへもってきて、無礼講だ大いに呑め、と煽られたのだから耐(こた)えられなかった。
「みんな、酒を呑みながら聞いてくれ。今までは、俺たちは唯の野武士だった。時には恥じながらも山賊、夜盗の真似もしなければならん野武士の群に過ぎなかったが、さて、みんな、今日からは違うのだぞ。
熊鷹森を抜けて大瀬川に沿って西に下ること十里の余、そこに雁渡の城があることを知っていよう」
阿仁の太郎はここで言葉を切り、効果を確めるように一同の顔をずうっと見渡した。
どの顔もあっ気にとられたように彼を見守っている。酒と女に眼のない奴らが、それも忘れて太郎義兼の次ぎの言葉を待っているのを見ると彼はニッコリ笑って次ぎをつづけた。
「雁渡の城主高杉光春は稀に見る智将であった。彼にして天下に覇を唱えんとする野望あれば、最上一族はたちまちに斬り従え、武蔵、小野寺、仁賀保(にがほ)、秋田氏をも征服したかも知れぬ。それだけの人材であった。
しかるに天は彼に味方をしなかった、病の冒(おか)すところとなったのだ。そのため彼は伊達と結び、封土に籠もってひたすら外敵の侮を禦(ふせ)ぐことのみに力(つと)めていた。この数年間を病床に在って二人の息子に内政を委せている。光春の心情たるや察するに余りがある。それなればこそ、みんなはその間隙を縫って跳梁することが出来たのである。しかし、それは飽くまで跳梁であって光春の眼を掠め得たに過ぎない。
だが、わしが言いたいのはそんな過去のことではない。
今や由利之助光春は命、旦夕に迫っている。恐らく数日を出でずして彼は死に、相続をめぐって争いが起こる。
これこそわれらが風雲に乗ずる時なのだ。
既にわれらの首領は兄の十兵衛光時と密(ひそか)に款(よしみ)を通じてある。彼の求めさえあればわれら一同は十兵衛光時の軍に加わり隼人光次を討つことになろう。
光次を討てばその功によって臣下にとり立てられ、光次の黒竜の砦を預かることも約定ずみなのだ。
われらがここに大事をみなにうち明けるのは一族同志と思えばこそだ。野武士の誓いは固いはず、決して口外するでないぞ」
わあっと喚声が挙がった。単純な野武士たちは歯切れのよい阿仁の太郎の弁舌に魅されて一も二もなく有頂天になった。中には刀を抜いて踊りまわる者もいた。
「お首領が黒竜砦の主、そして俺たちが城づとめの武士」
そう思うと嬉しくてたまらないのだ。そこへもってきて、無礼講だ大いに呑め、と煽られたのだから耐(こた)えられなかった。
本の情報
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