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著者プロフィール
清水 一行(しみず いっこう)
昭和六年一月十二日東京生まれ。早稲田大学中退後「東洋経済」「週刊現代」などの雑誌で株式評論を執筆、証券業界に活躍する男たちを描いた処女長篇企業小説『兜町(しま)』を四十一年に発表、作家生活に入る。その後はベストセラー作品を立て続けに発表し、企業小説の旗手と呼ぶにふさわしい活躍をしている。四十八年には、低公害車が全国キャンペーン中に事故を起こすという発端の処女長篇推理小説『噂の安全車(セーフティカー)』を刊行、企業ミステリーや社会派サスペンスも発表している。
『動脈列島』で第二十八回日本推理作家協会賞を受賞。
昭和六年一月十二日東京生まれ。早稲田大学中退後「東洋経済」「週刊現代」などの雑誌で株式評論を執筆、証券業界に活躍する男たちを描いた処女長篇企業小説『兜町(しま)』を四十一年に発表、作家生活に入る。その後はベストセラー作品を立て続けに発表し、企業小説の旗手と呼ぶにふさわしい活躍をしている。四十八年には、低公害車が全国キャンペーン中に事故を起こすという発端の処女長篇推理小説『噂の安全車(セーフティカー)』を刊行、企業ミステリーや社会派サスペンスも発表している。
『動脈列島』で第二十八回日本推理作家協会賞を受賞。
解説
西部中学の若い音楽教師・田路節子が、放課後の音楽室で数人の男に襲われ、暴行された!
頭から黒いビニール袋をかぶせられていた彼女だが、犯人の一人の声に聞き覚えがあった。三年生の不良生徒、江川秀雄──。
生活指導主任の影山徹治は、このスキャンダラスな事件の解明に乗り出した。事件を表沙汰にしたくない学校上層部に妨げられて難航する捜査の渦中、犯人と目される生徒・江川が修学旅行先で誘拐された!
現代の教育問題を鋭く抉った、傑作長篇サスペンス!
頭から黒いビニール袋をかぶせられていた彼女だが、犯人の一人の声に聞き覚えがあった。三年生の不良生徒、江川秀雄──。
生活指導主任の影山徹治は、このスキャンダラスな事件の解明に乗り出した。事件を表沙汰にしたくない学校上層部に妨げられて難航する捜査の渦中、犯人と目される生徒・江川が修学旅行先で誘拐された!
現代の教育問題を鋭く抉った、傑作長篇サスペンス!
目次
第一章 音楽室
第二章 魔女狩り
第三章 五百万円
第四章 当事者
第五章 弾けた影
第二章 魔女狩り
第三章 五百万円
第四章 当事者
第五章 弾けた影
抄録
――あれは、
誰の声だったろうか。
ビニール袋を、頭からすっぽりかぶせられていたから、もちろん暴漢の顔は見えなかった。やはり五人ぐらいいたようだったし、その中の一人が、仲間に向かって『かまわねえから、しっかり押えていろ』と言った。その声が、いまある唯一の暴漢にたいする手がかりだった。
たしかに聞き覚えがある。
『かまわねえから……』
乱暴なあの言い方は、大人の声ではなかった。変声期をまだ完全に経過していない、特徴のある、太いが上ずった調子。節子の胸に、瀬戸山が担任している三年三組の江川秀雄(えがわひでお)の顔が浮かんできた。音楽の授業では、いつもおしゃべりをしたり悪ふざけをして、節子を手古摺(てこず)らせている生徒である。一度など、音譜の書き取りをやらせていたとき、教室をゆっくり歩いていた節子の背後から、大袈裟に腰を振って歩く真似をして、教室を沸かせたりしたことがあった。
学校では問題児ということになっている。
それにしても、犯人がもし江川だとしたら……、中学校の生徒が、教室で教師を襲うなど、常識では考えられないことだった。
だが間違いない。
『しっかり押えていろ』
命令するあの声――。
やはり江川秀雄である。
椅子に座ったまま、節子は両手で顔を覆った。
このまま真っ直ぐに警察へ行って、ありのままを話すべきかどうか。しかし放課後の出来事とはいえ、学校の教室の中で起こったことであり、しかも自分はこの学校の教師であった。警察へ届ける前に、安倍誠一郎(あべせいいちろう)教頭か、神野校長に相談すべきなのかもしれない。ただ、それにしても、いきなり黒いビニール袋をかぶせられ、嵐のように辱(はずか)しめられた事件である。もしこのことが高村繁夫に知れたら、果たしてどういうことになるのか……。警察へ届けて、その結果オープンな問題にでもなったら、当然他の教職員にも、辱しめられた事実が知られてしまうに違いなかった。
どうすべきか、いくら考えても深い屈辱と戸惑いが、節子の思考力を妨げてしまう。
さらに、暴漢は生徒……。
それも、四月の新学期がはじまったばかりだから、犯人が間違いなく江川秀雄だったら、四月生まれとしても十五歳。四月以降の生まれなら、まだ満十四歳のはずだった。十四歳か十五歳か、節子は三年三組の担任ではなかったから正確にはわからなかったが、ともかく中学の三年生である。女性教師を襲い、暴行するという、まったく不意に自分の上に起こった事件が、たやすくは信じられないし、仮に節子が警察か学校の首脳に訴えたとしても、常識的にいって、誰もが首をかしげるに違いなかった。
誰の声だったろうか。
ビニール袋を、頭からすっぽりかぶせられていたから、もちろん暴漢の顔は見えなかった。やはり五人ぐらいいたようだったし、その中の一人が、仲間に向かって『かまわねえから、しっかり押えていろ』と言った。その声が、いまある唯一の暴漢にたいする手がかりだった。
たしかに聞き覚えがある。
『かまわねえから……』
乱暴なあの言い方は、大人の声ではなかった。変声期をまだ完全に経過していない、特徴のある、太いが上ずった調子。節子の胸に、瀬戸山が担任している三年三組の江川秀雄(えがわひでお)の顔が浮かんできた。音楽の授業では、いつもおしゃべりをしたり悪ふざけをして、節子を手古摺(てこず)らせている生徒である。一度など、音譜の書き取りをやらせていたとき、教室をゆっくり歩いていた節子の背後から、大袈裟に腰を振って歩く真似をして、教室を沸かせたりしたことがあった。
学校では問題児ということになっている。
それにしても、犯人がもし江川だとしたら……、中学校の生徒が、教室で教師を襲うなど、常識では考えられないことだった。
だが間違いない。
『しっかり押えていろ』
命令するあの声――。
やはり江川秀雄である。
椅子に座ったまま、節子は両手で顔を覆った。
このまま真っ直ぐに警察へ行って、ありのままを話すべきかどうか。しかし放課後の出来事とはいえ、学校の教室の中で起こったことであり、しかも自分はこの学校の教師であった。警察へ届ける前に、安倍誠一郎(あべせいいちろう)教頭か、神野校長に相談すべきなのかもしれない。ただ、それにしても、いきなり黒いビニール袋をかぶせられ、嵐のように辱(はずか)しめられた事件である。もしこのことが高村繁夫に知れたら、果たしてどういうことになるのか……。警察へ届けて、その結果オープンな問題にでもなったら、当然他の教職員にも、辱しめられた事実が知られてしまうに違いなかった。
どうすべきか、いくら考えても深い屈辱と戸惑いが、節子の思考力を妨げてしまう。
さらに、暴漢は生徒……。
それも、四月の新学期がはじまったばかりだから、犯人が間違いなく江川秀雄だったら、四月生まれとしても十五歳。四月以降の生まれなら、まだ満十四歳のはずだった。十四歳か十五歳か、節子は三年三組の担任ではなかったから正確にはわからなかったが、ともかく中学の三年生である。女性教師を襲い、暴行するという、まったく不意に自分の上に起こった事件が、たやすくは信じられないし、仮に節子が警察か学校の首脳に訴えたとしても、常識的にいって、誰もが首をかしげるに違いなかった。
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