和書>小説・ノンフィクション>ボーイズラブ小説>社会人
解説
傷心旅行先の南の島でナンパに明け暮れていた幸成は、ひょんなことから年上の男と極上の一夜を過ごしてしまう。これはバカンスでの火遊び――互いに本名を明かすことなく、一度限りの関係で終わるはずだった。しかし、旅から帰ってきた幸成は、思わぬかたちで男の正体が、大手化粧品会社の話題の広報宣伝課長・柴吹と知る。一方、幸成は印刷会社のうだつの上がらない営業マン。ここはひとつ柴吹に近づいて仕事をもらおうと企む幸成だが、相手は大企業の課長様。火遊びをネタに強請っても、一筋縄ではいかなくて……!
抄録
「あーあ。今日は友達とホテルで豪華ディナーのはずだったのに……」
どうして俺はよく知りもしないおっさんといるんだ?という疑問は喉元でつぶした。
「それはお前が女の尻を追いかけていて、最終フェリーに乗り遅れたからだ。自業自得だ」
忘れかけていた忌々しい記憶が、こいつのせいで戻り、憂鬱になった。
「うるせえ」
「そして、俺は巻き込まれた」
男は恩着せがましく言った。
「だからビールをご馳走したんだよ!」
すると男は、缶ビールを顔の高さまで掲げると、にっこりとほほ笑んだ。そんな余裕のあるしぐさに、ムカッときた。不快になるぐらいなら、絡まなければいいのに、いちいちつっかかっちゃう俺も俺なんだけど。
「このビールはそんな理由でご馳走してくれたのか。ありがとう」
逆に礼を言われてしまい、俺の方が面喰らう。素直に礼を言える奴の紳士的な態度を見せつけられて、またもやイラついてしまった。
「別に」
それに比べて、可愛げのない返事をしてしまう俺は、強情っぱりだ。
「どうしてあんな躍起になってナンパをしていたんだ?手当たり次第で女なら誰でもいいという無茶なやり方だったが、本当はナンパがしたかったわけじゃないんじゃないのか?」
話したわけでもないのに、自分でも気づいていない心の奥まで見透かされているようで、どきっとした。今の俺の年齢をいくつか過ぎたこいつには、俺の悩みや考えていることなんて、すでに経験済みなのだろうか。
「あんたの言う通りかもしれないな」
「何やらわけありのようだな」
袖振りあうも多生の縁。旅の恥はかき捨て。そんな諺に従ったわけじゃないけど、この人なら胸の内を話したくなってくるから不思議だ。友達の前ですら、強がっていたのに。
「失恋したばっかりなんだ。面白くなくてさ、適当にぱーっと遊びたかったの。とりあえずナンパしまくってみたけど、やればやるほど、失恋が悲しいわけでもなく、次の女が欲しいわけでもなくて、自分の情熱が向かう方向性がわからなかった。仕事だってつまらないし、いいことなんか全然なくってさ。何でもいいから楽しいことをしたくて躍起になっていただけなのかも。だって、せっかくの夏じゃん。思い出に残るような、熱いコト、何でもいいからしたかったんだよ……」
男は、武勇伝をひけらかす。俺が一人も物にできなかったナンパを楽しんだと聞かされて、一度は落ち着きかけた俺の機嫌が、再び斜めに。
「何だよ、その言い種。頭くるな」
憤慨した俺を見て、奴は楽しそうな表情を見せた。
「だからナンパのコツを教えてやったのに。人のアドバイスに素直に従わないからだ」
あはは。と声高らかに笑いやがる。一度はこいつのことを見直したが、やはりムカつく奴だ。
「黙れよ、おっさん。どうせ、金でもちらつかせたんじゃないのか?」
俺だって負けてない。言いすぎかと思ったけれど、大人の男はそれぐらいやるに違いないと、勝手に決めつけた。
「金を使って後腐れない遊び方をするのもいいが、心から楽しむためには、大人の色気と豊富な話題で相手をもてなしてあげなくてはな。そう思ないか?若者よ。ああ、若すぎるお前には、ちょっと難しいかな?」
またもや、俺をからかい、俺の顔色が変わるのを楽しんでいる。言いすぎかと心配して損した。
「何だとっ!」
頭にきて、奴の胸倉を掴もうとした。
そのとき、男の表情が一変した。
「ちょっと待て、静かにしろ!」
俺の顔に手のひらを見せつけて、ストップをかける。そのまま微動だにせず、真剣な面持ちで俺に何かを訴えようとして、一心に俺の顔を見つめた。
「え?なんだよ……、どうしたんだよ?」
その表情があまりにも真剣だったので、胸倉を掴もうとした俺の手がひるんだ。奴の目を覗き込み、何を言わんとしているか、一秒でも早く察知しようと集中した。
すると、奴は言った。
*この続きは製品版でお楽しみください。
どうして俺はよく知りもしないおっさんといるんだ?という疑問は喉元でつぶした。
「それはお前が女の尻を追いかけていて、最終フェリーに乗り遅れたからだ。自業自得だ」
忘れかけていた忌々しい記憶が、こいつのせいで戻り、憂鬱になった。
「うるせえ」
「そして、俺は巻き込まれた」
男は恩着せがましく言った。
「だからビールをご馳走したんだよ!」
すると男は、缶ビールを顔の高さまで掲げると、にっこりとほほ笑んだ。そんな余裕のあるしぐさに、ムカッときた。不快になるぐらいなら、絡まなければいいのに、いちいちつっかかっちゃう俺も俺なんだけど。
「このビールはそんな理由でご馳走してくれたのか。ありがとう」
逆に礼を言われてしまい、俺の方が面喰らう。素直に礼を言える奴の紳士的な態度を見せつけられて、またもやイラついてしまった。
「別に」
それに比べて、可愛げのない返事をしてしまう俺は、強情っぱりだ。
「どうしてあんな躍起になってナンパをしていたんだ?手当たり次第で女なら誰でもいいという無茶なやり方だったが、本当はナンパがしたかったわけじゃないんじゃないのか?」
話したわけでもないのに、自分でも気づいていない心の奥まで見透かされているようで、どきっとした。今の俺の年齢をいくつか過ぎたこいつには、俺の悩みや考えていることなんて、すでに経験済みなのだろうか。
「あんたの言う通りかもしれないな」
「何やらわけありのようだな」
袖振りあうも多生の縁。旅の恥はかき捨て。そんな諺に従ったわけじゃないけど、この人なら胸の内を話したくなってくるから不思議だ。友達の前ですら、強がっていたのに。
「失恋したばっかりなんだ。面白くなくてさ、適当にぱーっと遊びたかったの。とりあえずナンパしまくってみたけど、やればやるほど、失恋が悲しいわけでもなく、次の女が欲しいわけでもなくて、自分の情熱が向かう方向性がわからなかった。仕事だってつまらないし、いいことなんか全然なくってさ。何でもいいから楽しいことをしたくて躍起になっていただけなのかも。だって、せっかくの夏じゃん。思い出に残るような、熱いコト、何でもいいからしたかったんだよ……」
男は、武勇伝をひけらかす。俺が一人も物にできなかったナンパを楽しんだと聞かされて、一度は落ち着きかけた俺の機嫌が、再び斜めに。
「何だよ、その言い種。頭くるな」
憤慨した俺を見て、奴は楽しそうな表情を見せた。
「だからナンパのコツを教えてやったのに。人のアドバイスに素直に従わないからだ」
あはは。と声高らかに笑いやがる。一度はこいつのことを見直したが、やはりムカつく奴だ。
「黙れよ、おっさん。どうせ、金でもちらつかせたんじゃないのか?」
俺だって負けてない。言いすぎかと思ったけれど、大人の男はそれぐらいやるに違いないと、勝手に決めつけた。
「金を使って後腐れない遊び方をするのもいいが、心から楽しむためには、大人の色気と豊富な話題で相手をもてなしてあげなくてはな。そう思ないか?若者よ。ああ、若すぎるお前には、ちょっと難しいかな?」
またもや、俺をからかい、俺の顔色が変わるのを楽しんでいる。言いすぎかと心配して損した。
「何だとっ!」
頭にきて、奴の胸倉を掴もうとした。
そのとき、男の表情が一変した。
「ちょっと待て、静かにしろ!」
俺の顔に手のひらを見せつけて、ストップをかける。そのまま微動だにせず、真剣な面持ちで俺に何かを訴えようとして、一心に俺の顔を見つめた。
「え?なんだよ……、どうしたんだよ?」
その表情があまりにも真剣だったので、胸倉を掴もうとした俺の手がひるんだ。奴の目を覗き込み、何を言わんとしているか、一秒でも早く察知しようと集中した。
すると、奴は言った。
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