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戸川幸夫の動物おもしろばなし

戸川幸夫の動物おもしろばなし

著: 戸川幸夫
発行: オンライン出版
価格:494円(税込)
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著者プロフィール

 戸川 幸夫(とがわ ゆきお)
 明治45年、佐賀県生まれ。昭和11年、旧制山形高校理科甲類中退。
 昭和29年「高安犬物語」で直木賞受賞。53年、芸術選奨文部大臣賞。56年、紫綬褒章。60年、児童文学功労者に選ばれる。
 主な著書は「すばらしき動物の世界」「イリオモテヤマネコ」「マタギ」「人喰鉄道」「ヒトはなぜ助平になったか」「戸川幸夫動物文学全集」(全10巻)他。

解説

 渡り鳥たちは、どうして正しく同じ方向に移動できるのか? サソリや毒グモの天敵とは? コウモリの鳴き声とは? サルは人まねをするのか? イルカは本当にかしこい動物か?
 日本の動物文学の第一人者が、野生動物から身近な動物まで、さまざまな生き物のふしぎを綴った“動物おもしろ学”!

目次

第一章 動物の渡りのなぞ
 ウナギの子は、なぜ親の川へもどる?
 鳥の渡りのなぞ(1)
 鳥の渡りのなぞ(2)
 鳥の渡りのなぞ(3)
 鳥の渡りのなぞ(4)
 鳥の渡りのなぞ(5)
 鳥の渡りのなぞ(6)


第二章 食うか食われるか
 生存競争
 肉食動物の目
 ライオンの狩り
 トラやヒョウの狩り
 ペリカンの狩り
 動物界の忍者
 動物はどのようにして体色を変えるのか?
 毒で身を守る動物
 毒に強い動物
 毒ガスで身を守る動物
 死んだふり「擬死」
 とび足
 追跡反射
 群れをつくる(1)
 群れをつくる(2)


第三章 動物の心理
 動物と恐怖心(1)
 動物と恐怖心(2)
 動物と恐怖心(3)
 サルの人まね
 イヌをだましたキツネ
 イヌにも「引け目」の心理?
 動物の好奇心(1)
 動物の好奇心(2)
 好奇心とは?


第四章 動物は考える
 イヌは人の言葉の意味を理解する?
 ゴリラのゴンタの知恵
 イモを海水で味付けするサル
 ある野良イヌの知恵
 アダムソン夫人の言葉
 動物の知能調べ
 動物では、なにがいちばん利口か?
 人間と動物の考える能力のちがい


第五章 動物の感じ方――感覚器管――
 紫外線を感じとるハチや昆虫
 熱線を感じとるハブ(毒ヘビ)
 人の目、動物の目(1)
 人の目、動物の目(2)
 動物の耳(1)
 動物の耳(2)
 動物の耳(3)
 ヘビはなぜ舌を出すか
 目とカメラ(1)
 目とカメラ(2)
 目とカメラ(3)
 怒りの実験


第六章 動物学はどのように大切か
 ピーター=ウィットの実験
 アヒルのヒナは、なぜタカをこわがる?
 ローレンツ博士の研究
 「野生のエルザ」の話
 いろいろな分野に役立つ動物学

抄録

 日本のことわざに“クマと出会ったら死んだふりをすると助かる”というのがありますが、本当でしょうか?
 私の友人の猟師で、鉄砲を持たないで山にキノコとりに出かけ、クマに出会ったので死んだふりをした人がいました。でもクマは近よってきて、その人のせなかを引っかいたり、かみついたりしたそうです。
 だから、かならずしもことわざ通りになるわけではないのです。
 でも山でクマに出会ったとしたら、こちらのすることは三つしかありません。走ってにげるか、じっとしているか、棒でもひろって向かうかです。しかし、クマに棒をもって向かったところで、まず勝つことは難しい。じゃあ走ってにげるかと言いますと、クマのような猛獣(イヌでも同じです)は、にげるものは追っかけていってつかまえようとする習性がありますから、これも危険です。
 とすると、じっとしているのがいちばん安全だというわけです。同じ、じっとしているなら立ってクマに気づかれやすい姿勢でいるよりも、地上にねて、死んだふりしてるほうが気づかれる割合が少ないのです。それにクマやオオカミは、死んだものは食べない(たまには食べますが)という性質があるので、助かる率が多いというわけです。
 人間はあまり死んだふりをしませんが、動物の中には死んだふりをして助かろうとするものが多いのです。
 テントウムシやコガネムシなどの虫の仲間には、つかまえると手足をちぢめて、死んだふりをするのがたくさんいます。シジュウカラやナベケリなどの鳥も、敵におそわれると死んだふりをします。こういった死んだふりをすることを動物学のことばで「擬死」と言います。
 タヌキも死んだふりをする動物として知られています。「タヌキ寝入り」などというのがそれで、タヌキをつかまえると、よく死んだようにだらりとなります。そこで、死んだと思って地面におき、しばるためのヒモなどをとり出していますと、すきをみてさっとにげていくのです。
 この「擬死」について学者の間で意見がわかれました。
 昆虫で有名なファーブルは『動物が死んだふりをするとすれば、その動物が“死”ということを知っていなければならないはずである。ところが下等な昆虫などが死ということを知っているはずがない。だから昆虫たちは“死んだふり”をしているのではなくて、怖い敵につかまえられたとき、神経のはたらきで体がまひした状態になるので、死んだように見えるのだ。これは生きるための条件反射という体のはたらきである』と言っています。
 アメリカの動物学者は、死んだふりをするオポッサムというフクロネズミの頭に電線を通し、死んだようになっているときのオポッサムの脳に静電気が発生しているか、どうかを調べたのです。
 もし昆虫のように、まったくまひしているのなら脳ははたらきませんから、静電気はあまり生じません。
 ところが調べてみると、ぐったりと死んだようになっているオポッサムの脳には、彼が起きて動きまわっているときよりもはるかに静電気が発生していることがわかりました。このことはオポッサムは、死んだようにふるまいながら、敵が自分をどうしようとしているかと、注意してうかがっていることの証明です。
 ですから昆虫の死んだふりと、高等なホ乳類や鳥類の死んだふりとは、性質がちがっていると思ってもよいでしょう。
 秋田の狩人から聞いた話ですが、あるときタヌキをつかまえたら、ぐったりなったので、死んだのだと思って、皮をはぎはじめ、体の三分の一ぐらいはいだところ、さすがに痛くてがまんができなくなったのでしょう。タヌキはにげだしたということです。それにしてもずいぶんがまんしたものです。(死んだふり「擬死」より)

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