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日本終了 下

日本終了 下

著: 梅津裕一
発行: キリック
シリーズ: 日本終了
価格:525円(税込)
10ポイント還元
形式:MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン スマートフォン タブレット
みんなの評価 ★★★★☆7
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解説

 その地獄は、突然の大停電から始まった──。
 東京郊外のM町で、父、兄、姉の三人と暮らす中学二年の東堂夏生は、その夜、起きた停電がすぐに普通のそれではないことに気づく。電源の入らない携帯電話、電池を替えてもつかない懐中電灯、作動しない災害用の手回し充電ラジオ。電力供給がストップしたというよりも、電化製品がすべて〈使用不能〉になったかのようだった。やがて〈電子制御〉で水を汲み上げている水道も使えなくなるが、人並みはずれた知性を持つ大学生の兄・冬則は、この異常事態は太陽フレアの電磁嵐によるもので、電気も水も二、三日で復旧するだろうと説明する。のちに、それは先の展開を読んだ兄の嘘だとわかるのだが。明くる朝、水道、都市ガス、電話、自動車、公共交通機関……あらゆるライフラインが突然停止した状況に戸惑う町の人々。父をはじめ、昨日仕事で都心に出ていた者も帰ってこない。事態の深刻さを正確に把握している兄だけが、先手を打っていろいろと行動していた。そんななか、夏生は兄の指示で自身が通う中学校へ情報収集に出かける。さまざまな憶測や流言が飛び交っていたが、ほとんどの者がやはりライフラインは二、三日で復旧すると考えていた。ところがただ一人、兄と同じくこの事態を正確に見抜いた生徒がみんなの前で告げる。この状況は少なくとも数ヶ月は続き、自衛隊などの救援も期待できないだろうと。そして、その予想が現実だと気づく頃にはもう、夏生は〈人殺し〉として地獄の入口に立っていた……。

 現代日本で起こりうる最大級のクライシス! 生き残るために人を殺す──リアル・サバイバル・ホラー、下巻!

目次

 第六部
 第七部
 第八部
 第九部
 第十部
 第十一部
 終章

抄録

 かつて飽食の国と呼ばれた日本は、もはやない。いまこの国にいるのは、餓鬼のように飢え、腹をふくらませた者たちばかりだ。
 「そろそろ……例のトラップが発動する。グレイヴ隊、準備をしろ」
 夏生の命令を聞いて、後ろから何人もの男たちが出てきた。みなモップの柄に包丁を取りつけた「グレイヴ」を手にしている。
 「わっああああああああああ」
 暴徒たちの間から、いきなり悲鳴が聞こえてきた。トラップが発動したのだ。
 何人もの男女の首筋や足下に、光り輝く糸がからみついている。なかには血を流している者もいた。単純だが、効果的なトラップである。釣りに使うテグスは、もともと見えにくい繊維だが、きわめて強靭だ。暴徒たちはテグスに引っかかり、そこで前進を止めていた。
 「グレイヴ隊、いけ!」
 夏生の命令のもと、グレイヴを持った男たち五人が、横列をつくって走っていった。いくつものグレイヴの先の包丁が、暴徒たちの腹に突き刺さる。
 「うあっ」
 「ひいいいいいっ」
 暴徒たちの間に、動揺が広がっていた。「新兵」たちは、よくやっている。
 まず、夏生の「教訓」にならい、胴体を狙っていた。さらに包丁が肉や内臓を貫いても、新兵たちは冷静に肉から包丁を引き抜いていた。ずるりと一人の男の腹から小腸があふれ出したが、兵士たちにうろたえた様子はない。内心、恐怖と必死に戦っているのだろうが、やはり死体まで使って「人体破壊に慣れさせた」のは正解だった。
 暴徒たちは、完全に混乱している。なかには、気力が尽きたのか、その場にへたり込む者さえいた。だがそれでも敵の数は、とにかく多い。
 倒れた者を踏んづけて、さらに後ろから暴徒たちがやってくる。彼らは手にした包丁でテグスを切り裂くと、グレイヴ兵たちの前で無茶苦茶に刃物を振りまわした。
 グレイヴ兵たちが、後ずさる。いまはモップの柄によるリーチの長さでなんとかなっているが、ひとたび懐に入られると長柄の武器は逆に不利だ。
 「グレイヴ兵、後退!」
 夏生の指示に従って、グレイヴ兵たちはじりじりと後退しはじめた。だが、誰もパニックにはなっていない。この戦は、中世の戦に似ている。逃げ出したほうが負けだ。
 「小隊、前進!」
 そう叫ぶと、夏生はゴルフクラブを手にして、路地に飛び出した。
 これからは接近戦になる。あるいは、死者も出るかもしれない。最悪の場合、自分が死者の列に加わることになる。でも、まだ……死ねない。
 「うっらあああああああああああああ」
 絶叫しながら、夏生は路地を駆けた。テグスを切って接近してくる暴徒の頭蓋に、ゴルフクラブを振り下ろす。鈍い音とともに、相手の頭蓋が陥没し、同時に血と脳漿《のうしょう》が噴き出した。脳漿の凄まじい悪臭が鼻をついたが、そんなものにかまっている暇はない。
 「隊長に続け!」
 後ろから駆け足の音とともに、何人もの部下たちがやってきた。
 金属バットや鉄パイプなど武装はさまざまだが、鈍器を主体とした兵士たちだ。彼らが奇声をあげているのは、己を鼓舞し、恐怖に耐えるためだ。
 暴徒たちの肉体が、次々に破壊されていった。
 肋骨が折れ、臓器が破裂し、あちこちから血液があふれた。肺をつぶされた者が、口から血の泡を吹きながら倒れていく。
 その瞬間、右腕に灼けるような痛みを感じた。包丁でやられたらしい。だが、痛みはすぐに引いていった。おそらく、アドレナリンのせいだろう。
 「隊長!」
 誰かが叫んだが、夏生はかまわず自分の腕を斬った四十代くらいの大男の腹部にゴルフクラブをたたき込んだ。
 ばん、という鈍い音がする。、おそらく内臓が破裂したのだろう。腹水が破れたのか、褐色に汚れたワイシャツがピンク色に濡れていった。

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