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著者プロフィール
菊地 秀行(きくち ひでゆき)
昭和24年、千葉県銚子市に生まれる。青山学院大学法学部卒業。在学中に推理小説研究会で活躍。卒業後は、フリーライターで雑誌等に寄稿のかたわら、小説を執筆。昭和57年『魔界都市〈新宿〉』で鮮烈なデビューを飾る。60年から『魔界行』『妖魔戦線』『妖獣都市』等、超伝記官能バイオレンスを発表し人気爆発、超売れっ子作家に。少林寺拳法をたしなみ、ホラー映画を愛し、とにかく小説を書くのが好きな好漢。
昭和24年、千葉県銚子市に生まれる。青山学院大学法学部卒業。在学中に推理小説研究会で活躍。卒業後は、フリーライターで雑誌等に寄稿のかたわら、小説を執筆。昭和57年『魔界都市〈新宿〉』で鮮烈なデビューを飾る。60年から『魔界行』『妖魔戦線』『妖獣都市』等、超伝記官能バイオレンスを発表し人気爆発、超売れっ子作家に。少林寺拳法をたしなみ、ホラー映画を愛し、とにかく小説を書くのが好きな好漢。
解説
一万五千年前の秘宝をめぐるスーパーバトル!!
人間に取り憑いた“魔性のもの”を指一本で揉み出す整体師・蘭城とその助手・猫馬の名コンビ再び登場。二人が訪れたのは、霧をまとう桐ケ家市。蘭城が富豪の蛾氷女家で見せられた奇妙な木の人型とは? 蛾氷女家に伝わる、海水から金を抽出する仕掛けを狙って暗闘が始まった……。
人間に取り憑いた“魔性のもの”を指一本で揉み出す整体師・蘭城とその助手・猫馬の名コンビ再び登場。二人が訪れたのは、霧をまとう桐ケ家市。蘭城が富豪の蛾氷女家で見せられた奇妙な木の人型とは? 蛾氷女家に伝わる、海水から金を抽出する仕掛けを狙って暗闘が始まった……。
目次
第一章 霧館の人々
第二章 トレジャー・ハンティング
第三章 蛾氷女家の人々
第四章 地底王国
第五章 影たちの逆襲
第六章 古代の告げるもの
第七章 黄金鬼
あとがき
第二章 トレジャー・ハンティング
第三章 蛾氷女家の人々
第四章 地底王国
第五章 影たちの逆襲
第六章 古代の告げるもの
第七章 黄金鬼
あとがき
抄録
「ミイラの中に何か?」
「大層面白いものが。――と指が言っておる」
「すぐに出せますかな?」
石山の眼は爛々《らんらん》とかがやいた。蘭城に頼り切った眼であった。
「お望みとあれば」
「では――お願いする」
「お下がりなさい」
と一同を下がらせ、蘭城は袖《そで》まで上衣《うわぎ》とシャツをめくり上げた。
「おお」
と石山が呻《うめ》いた。
「手が光っているわ」
綾の声であった。
蘭城の指は、ゆっくりとミイラを揉み上げていった。
もし、プロの整体師が見たら、その指がことごとく、いわゆるツボを外していることに気づき、苦笑したにちがいない。一方、秘技、奥技を今なお維持している古《いにし》えの一派の総帥が眼にすれば、すべて、彼らだけに伝えられている、或《ある》いは伝説の神秘のツボを正確に圧《お》していると知って、驚嘆を隠せないだろう。
その眼差し、その顔つき――別人が荘厳な宗教的儀式を挙行しているような感に打たれて、一同は声もない。
三十秒――一分――二分――
つかさがよろめき、大貴の手に支えられる――同時に、蘭城も足もとを乱しつつ後じさった。
「先生――」
石山の指示を受けて、豺場が風のように走って蘭城を抱き止めた。
「先生――結果は?」
「見て!」
叫んだのは綾であった。
彼女は干し物と呼ばれたミイラ――両手は枯れ枝のごとく胴体に癒着し、右足は膝《ひざ》から砕けた太古の化身が、その顎《あご》を――今にもずれて分解しそうな顎を、ぎくしゃくと開くのを目撃したのである。
空洞のように黒いその奥から、青白い光がせり出してくる。
「これが――これが、蛾氷女家の宝か」
呆然《ぼうぜん》たる大貴の呻きは、歓喜の響きを帯びているとは、とても言えなかった。
「まさか……どうやって?」
ミイラの干からび切った体内に、内蔵物の吐逆機能が生きているとは思えない。すると、‘このもの’が自力でせり出してきたのか、いや、彼らにはすべてが蘭城という整体師の魔指とも言うべき指の仕業としか考えられなかった。
青白いものはミイラの口を割って外気にその身をさらした。下端は切れずにすぼまって、さらに下の光につながっていた。
その中央に、‘つん’とせり出した突起を見て、
「あれは――鼻です」
と大貴が眼を丸くした。
誰もがそれを認め、しかし、はっきりと胸に刻みこむ前に、新たにせり出してきた物体に意識を吸い取られた。
もう疑いようもない。それは人間の首と肩であった。
ミイラの萎縮《いしゅく》した口から、いや、人間の口からなら無事に出られるはずもないそれが、明らかに窮屈そうに、しかし、確実にせり出してくる。
堪らずミイラの顎が外れた。
次の瞬間、それは台を蹴った競泳選手のごとく空中に躍り出、完全な一個の人体となって床に落ちた。
燐光《りんこう》のごとく青白く濡れ光る身体の不気味さに気圧《けお》されて、近づく者は誰もいない。
「どうやって、この身体がミイラの中に?――ずっと大きいのに」
と綾が胸もとを押さえれば、
「見ろ――胸が動いてる。呼吸中だ!」
と大貴が指をさす。
間違いない。眼も口も見えず、両手両足には指さえもない人体は、全員の注視のさなかで、自慢げに豊かな胸を起伏させている。――女だ。
「この光っているのは膜だぞ」
「そうだ」
と石山が豺場に押させて前へのり出し、
「剥《は》がせ」
と命じた。
無言でうなずき、豺場は床上の女体に身を屈《かが》めて、右手の人さし指をその額に当てた。
すうと胸もとまで引くと、青白い光は糸のような裂け目を大きく左右に広げた。
淡い光の下で見ても、それは人肌であった。
足先まで裂く必要はなかった。下腹部まで剃刀《かみそり》のような指が下りたとき、限界まで張りつめていた光る薄膜は、自らの張力によって弾けとんだのである。
その下に現われたのは、ああ、豊かな全裸の女性だ。
ミイラと膜と、二重《ふたえ》の外殻《から》に守られて、若々しい肌には染みひとつない。肉づきのいい肩、幅広い背中、くびれた腰から、生々しく盛り上がった臀部《でんぶ》にかけて黒髪が、愛撫《あいぶ》する蛇のごとくまつわりついている。
「大層面白いものが。――と指が言っておる」
「すぐに出せますかな?」
石山の眼は爛々《らんらん》とかがやいた。蘭城に頼り切った眼であった。
「お望みとあれば」
「では――お願いする」
「お下がりなさい」
と一同を下がらせ、蘭城は袖《そで》まで上衣《うわぎ》とシャツをめくり上げた。
「おお」
と石山が呻《うめ》いた。
「手が光っているわ」
綾の声であった。
蘭城の指は、ゆっくりとミイラを揉み上げていった。
もし、プロの整体師が見たら、その指がことごとく、いわゆるツボを外していることに気づき、苦笑したにちがいない。一方、秘技、奥技を今なお維持している古《いにし》えの一派の総帥が眼にすれば、すべて、彼らだけに伝えられている、或《ある》いは伝説の神秘のツボを正確に圧《お》していると知って、驚嘆を隠せないだろう。
その眼差し、その顔つき――別人が荘厳な宗教的儀式を挙行しているような感に打たれて、一同は声もない。
三十秒――一分――二分――
つかさがよろめき、大貴の手に支えられる――同時に、蘭城も足もとを乱しつつ後じさった。
「先生――」
石山の指示を受けて、豺場が風のように走って蘭城を抱き止めた。
「先生――結果は?」
「見て!」
叫んだのは綾であった。
彼女は干し物と呼ばれたミイラ――両手は枯れ枝のごとく胴体に癒着し、右足は膝《ひざ》から砕けた太古の化身が、その顎《あご》を――今にもずれて分解しそうな顎を、ぎくしゃくと開くのを目撃したのである。
空洞のように黒いその奥から、青白い光がせり出してくる。
「これが――これが、蛾氷女家の宝か」
呆然《ぼうぜん》たる大貴の呻きは、歓喜の響きを帯びているとは、とても言えなかった。
「まさか……どうやって?」
ミイラの干からび切った体内に、内蔵物の吐逆機能が生きているとは思えない。すると、‘このもの’が自力でせり出してきたのか、いや、彼らにはすべてが蘭城という整体師の魔指とも言うべき指の仕業としか考えられなかった。
青白いものはミイラの口を割って外気にその身をさらした。下端は切れずにすぼまって、さらに下の光につながっていた。
その中央に、‘つん’とせり出した突起を見て、
「あれは――鼻です」
と大貴が眼を丸くした。
誰もがそれを認め、しかし、はっきりと胸に刻みこむ前に、新たにせり出してきた物体に意識を吸い取られた。
もう疑いようもない。それは人間の首と肩であった。
ミイラの萎縮《いしゅく》した口から、いや、人間の口からなら無事に出られるはずもないそれが、明らかに窮屈そうに、しかし、確実にせり出してくる。
堪らずミイラの顎が外れた。
次の瞬間、それは台を蹴った競泳選手のごとく空中に躍り出、完全な一個の人体となって床に落ちた。
燐光《りんこう》のごとく青白く濡れ光る身体の不気味さに気圧《けお》されて、近づく者は誰もいない。
「どうやって、この身体がミイラの中に?――ずっと大きいのに」
と綾が胸もとを押さえれば、
「見ろ――胸が動いてる。呼吸中だ!」
と大貴が指をさす。
間違いない。眼も口も見えず、両手両足には指さえもない人体は、全員の注視のさなかで、自慢げに豊かな胸を起伏させている。――女だ。
「この光っているのは膜だぞ」
「そうだ」
と石山が豺場に押させて前へのり出し、
「剥《は》がせ」
と命じた。
無言でうなずき、豺場は床上の女体に身を屈《かが》めて、右手の人さし指をその額に当てた。
すうと胸もとまで引くと、青白い光は糸のような裂け目を大きく左右に広げた。
淡い光の下で見ても、それは人肌であった。
足先まで裂く必要はなかった。下腹部まで剃刀《かみそり》のような指が下りたとき、限界まで張りつめていた光る薄膜は、自らの張力によって弾けとんだのである。
その下に現われたのは、ああ、豊かな全裸の女性だ。
ミイラと膜と、二重《ふたえ》の外殻《から》に守られて、若々しい肌には染みひとつない。肉づきのいい肩、幅広い背中、くびれた腰から、生々しく盛り上がった臀部《でんぶ》にかけて黒髪が、愛撫《あいぶ》する蛇のごとくまつわりついている。
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