和書>小説・ノンフィクション>ボーイズラブ小説>大学生
著者プロフィール
姫野 百合(ひめの ゆり)
双子座のB型。数ある夢の中で一番でっかいのは『一度大気圏外から地球を見てみたい』なんだけど、実現は難しそう……。
双子座のB型。数ある夢の中で一番でっかいのは『一度大気圏外から地球を見てみたい』なんだけど、実現は難しそう……。
解説
千尋は大学の友人の栄と、初めての恋をゆっくりと育んでいた。だが、ある日通りすがりの男に拉致され、強姦された。男・ハルは何度も千尋の前に現れ、撮った動画を盾に関係を強要してくる。抵抗すると暴力をふるわれ、従うよりほかにはない。身も心も引き裂かれぼろぼろになった千尋を栄は理由も聞かずに心配してくれる。栄と一緒にいるだけで、千尋の心は癒されるが、そんな状況は長く続くはずもなく――。描き下ろしカラーイラスト付き。
抄録
『僕は急がない』
千尋は栄の言葉を胸の奥底で反芻してみた。
その通りだ。自分も焦るまいと思う。
いつか、そんな日が来るかもしれない。たとえば、何もかも忘れて、栄と抱き合うような、そんな日が。
その時が来たら、自然にそれに従えばいい。何も気にすることはない。素直な自分のままでいればいいのだ。
そう考えると、にわかに心が軽くなるような気がした。
たぶん、今まで自分は気負い過ぎていたのだ。
こだわるまいとして、逆に同性であることに捕らわれていたのかもしれない。
ただ、好きでいればよかったのに。栄のことを好きでいれば。
恋とはそういうものだったのに。
たったキス一つで、こんなふうに思えるようになるなんて……。
千尋は自分の単純さが我ながらおかしくなった。
いや、それだけ混乱していたのだ。
相手やシチュエーションに拘わらず、その恋が本気であればあるほど、戸惑いも大きいもの。
どうやら、自分で考えていた以上に、気持ちは栄に傾いていたらしい。
好きだと思った。
栄のことをとても好きだと思った。
その栄も、自分のことを好きだと思っていてくれる。
これ以上の幸福は、ない。
千尋はかすかに頬を上気させながら、帰り道を急ぐ。
少し先に見えるコンビニエンス・ストアのまぶしいほどの明かり。そこを曲がれば、百メートルもいかないうちに千尋のアパートだ。
肌寒い風に肩をすくめながら、我知らず足早になっている自分に、千尋は苦笑する。
家はもうすぐそこなのに。
思わず唇が笑みを刻んだ時、千尋の視線は、暗がりに潜む何かとても強い眼差しに無理やりのようにして奪われた。
人間の目というよりは、獰猛な肉食獣のそれ。血に飢え、どこか残虐な匂いのする輝き。
千尋は、一瞬、息を呑み、すぐに視線を逸らす。
いつも千尋が曲がる一つ手前の路地脇の月極駐車場。そこに、明らかに剣呑と思われる雰囲気を身に纏った数人の若い男たちがバイクにまたがりたむろしていた。
黒革のライダースーツ。おそらくは改造を施した大型バイク。金髪どころか、髪を青く染めているヤツもいる。身なりはおいておくにしろ、その下品でイヤな目つきは、彼らがまともに話の通じるタイプではないことを如実に伝えていた。
あるいは、真夜中に大通りをよく暴走している連中かもしれないと千尋は思った。ものすごい騒音で、安眠を破られたことも何度かある。今は昔ほど凶暴なヤツらも少なくなったというけれど、それでも拘わりあいになるのは御免だ。
千尋は何も見なかったような振りをして、その場を立ち去ろうとした。しかし、そのうちのひとり、金色に脱色した髪を逆立たせた男が、千尋の手首を掴み上げる。
あわててその手を振り払うと、男は、ニヤニヤ笑って、再び千尋の腕を掴み乱暴に引き寄せた。
*この続きは製品版でお楽しみください。
千尋は栄の言葉を胸の奥底で反芻してみた。
その通りだ。自分も焦るまいと思う。
いつか、そんな日が来るかもしれない。たとえば、何もかも忘れて、栄と抱き合うような、そんな日が。
その時が来たら、自然にそれに従えばいい。何も気にすることはない。素直な自分のままでいればいいのだ。
そう考えると、にわかに心が軽くなるような気がした。
たぶん、今まで自分は気負い過ぎていたのだ。
こだわるまいとして、逆に同性であることに捕らわれていたのかもしれない。
ただ、好きでいればよかったのに。栄のことを好きでいれば。
恋とはそういうものだったのに。
たったキス一つで、こんなふうに思えるようになるなんて……。
千尋は自分の単純さが我ながらおかしくなった。
いや、それだけ混乱していたのだ。
相手やシチュエーションに拘わらず、その恋が本気であればあるほど、戸惑いも大きいもの。
どうやら、自分で考えていた以上に、気持ちは栄に傾いていたらしい。
好きだと思った。
栄のことをとても好きだと思った。
その栄も、自分のことを好きだと思っていてくれる。
これ以上の幸福は、ない。
千尋はかすかに頬を上気させながら、帰り道を急ぐ。
少し先に見えるコンビニエンス・ストアのまぶしいほどの明かり。そこを曲がれば、百メートルもいかないうちに千尋のアパートだ。
肌寒い風に肩をすくめながら、我知らず足早になっている自分に、千尋は苦笑する。
家はもうすぐそこなのに。
思わず唇が笑みを刻んだ時、千尋の視線は、暗がりに潜む何かとても強い眼差しに無理やりのようにして奪われた。
人間の目というよりは、獰猛な肉食獣のそれ。血に飢え、どこか残虐な匂いのする輝き。
千尋は、一瞬、息を呑み、すぐに視線を逸らす。
いつも千尋が曲がる一つ手前の路地脇の月極駐車場。そこに、明らかに剣呑と思われる雰囲気を身に纏った数人の若い男たちがバイクにまたがりたむろしていた。
黒革のライダースーツ。おそらくは改造を施した大型バイク。金髪どころか、髪を青く染めているヤツもいる。身なりはおいておくにしろ、その下品でイヤな目つきは、彼らがまともに話の通じるタイプではないことを如実に伝えていた。
あるいは、真夜中に大通りをよく暴走している連中かもしれないと千尋は思った。ものすごい騒音で、安眠を破られたことも何度かある。今は昔ほど凶暴なヤツらも少なくなったというけれど、それでも拘わりあいになるのは御免だ。
千尋は何も見なかったような振りをして、その場を立ち去ろうとした。しかし、そのうちのひとり、金色に脱色した髪を逆立たせた男が、千尋の手首を掴み上げる。
あわててその手を振り払うと、男は、ニヤニヤ笑って、再び千尋の腕を掴み乱暴に引き寄せた。
*この続きは製品版でお楽しみください。
本の情報
形式
【bookend形式】
この書籍は、商品の初回閲覧時に必要ソフト「bookend」(無料)を手動インストールする必要があります。
詳細はbookend形式のご利用方法をご覧下さい。
bookend形式の書籍をご覧いただくためにはAdobe Reader最新版(無料)が必要になります。Adobe Reader最新版はここから無料でダウンロードできます。
【MEDUSA形式】MEDUSA形式の作品はブラウザですぐに開いて読むことができます。パソコン、スマートフォン、タブレット端末などで読むことができます。作品はクラウド上に保存さされているためファイル管理の手間は必要ありません。閲覧開始時はネットに接続している必要があります。
詳細はMEDUSA形式のご利用方法をご覧下さい。
































