和書>小説・ノンフィクション>ライトノベル>恋愛
著者プロフィール
津原 やすみ(つはら やすみ)
1964年広島県広島市生まれ。89年春、津原やすみ名義で少女小説作家としてデビュー。以来八年間に三十余作を発表するが、96年暮れに少女小説から引退。97年秋、津原泰水名義で怪奇幻想小説『妖都』(講談社)を発表。綾辻行人、小野不由美、井上雅彦、菊地秀行の各氏に絶賛され、“本格ホラーの超新星”として脚光を浴びる。その後、アンソロジー《異形コレクション》(廣済堂)などに短篇を発表。現在、幻想長篇『ペニス』を小説推理(双葉社)に連載中。
99年6月に連作短篇集『蘆屋家の崩壊』(集英社)を、近日中に怪奇小説『夜想曲』(角川ホラー文庫)、近未来小説『ハウンド』(講談社)を上梓予定。
1964年広島県広島市生まれ。89年春、津原やすみ名義で少女小説作家としてデビュー。以来八年間に三十余作を発表するが、96年暮れに少女小説から引退。97年秋、津原泰水名義で怪奇幻想小説『妖都』(講談社)を発表。綾辻行人、小野不由美、井上雅彦、菊地秀行の各氏に絶賛され、“本格ホラーの超新星”として脚光を浴びる。その後、アンソロジー《異形コレクション》(廣済堂)などに短篇を発表。現在、幻想長篇『ペニス』を小説推理(双葉社)に連載中。
99年6月に連作短篇集『蘆屋家の崩壊』(集英社)を、近日中に怪奇小説『夜想曲』(角川ホラー文庫)、近未来小説『ハウンド』(講談社)を上梓予定。
解説
亡きお父さんの夢を実現すべく、わたしとお母さんはついにケーキ工房『お菓子の家』を開店。味覚がまったくダメなお母さんと、フツーの高1のわたしが頼れるのはお父さんの残したレシピだけ。それでも、どうにか店をはじめた第1日目。謎の青年があらわれて「不味い」だって……。図星を突かれて声もでない私だったけど、その青年・直人さんは、なんとケーキ作りのプロだったの!
口は悪いけど、とことん職人気質の青年と、15歳の少女のケーキ屋奮戦記!
津原やすみ流、甘くて切ないロマンチック・ストーリー。
口は悪いけど、とことん職人気質の青年と、15歳の少女のケーキ屋奮戦記!
津原やすみ流、甘くて切ないロマンチック・ストーリー。
目次
1 縦長の家で夢がはじまる
2 さよならクラリネット
3 わたしたちの小さなお城
4 四つの顔を持つ男……?
5 おとうさんの声に似ている
6 十六歳のバースデイケーキ
7 夢の終わり
8 そして恋がはじまる
あとがき
2 さよならクラリネット
3 わたしたちの小さなお城
4 四つの顔を持つ男……?
5 おとうさんの声に似ている
6 十六歳のバースデイケーキ
7 夢の終わり
8 そして恋がはじまる
あとがき
抄録
「さて諸君に紹介しよう。いま諸君の目のまえにいる彼女こそ、この『お菓子の家』の看板娘、市川真琴嬢その人である。アプローズ」
拍手がおきた。
いったいなんなの?
騒ぎに驚いて、おかあさんがお店にでてきた。
「その母君である!」
さらなる拍手。
おかあさんは目をまるくしてる。
直人さんの奇妙なしゃべりは止まらない。
「さて、ケーキをいただこうか」
「ええと……どれにしましょう」
「よくぞきいてくれた。ぜんぶだ。店じゅう買った!」
拍手と歓声。
「静粛に! 諸君、静粛に!」
また水をうったように静かになる。
「まあ、ぜんぶだしてくれ。もちろん金は払う」
「直人さん、酔ってますね?」
「軽く祝杯をあげてきた」
「なんの?」
彼は肩をすくめた。
それからお友だちを見わたして、
「あとで割り勘だからな」
ブーイング。
「あああああっ!」
直人さんがショウケースを指さして、また大声をあげる。
「なんと、たったのこれだけしか残ってない!? おいおい困るよ、おれはこの全員に、甘い冷や汗をかくまで食わせてやると約束しちまったんだから」
「……んなこといわれても」
「しょうがない。もったいないが、おれのケーキもだそう」
拍手と歓声。
直人さんはさげていた包みを、そっとカウンターにおいた。
結びめをほどき、箱の蓋をとる。
……大きな、褐色(かっしょく)の花。
そう見えたのは、薄いチョコレートのフリルでつくった、アントルメの飾りだった。
なんて大きな、そしてこまやかなケーキ。
店内がため息に満ちた。
続いて、割れんばかりの拍手と歓声。
「待て! 待て待て待て!」
直人さんは両手をふって、みなを静めた。
「なにか足りない」
上着のポケットを探りはじめる。
「なんと、こんなものがここに」
小さなロウソクがでてきた。
底に、ケーキに立てるための楊枝が突きだしてる。
おれも持ってた、わたしも……と、ほかの人たちもロウソクを取りだし、いっせいにライターで火をつけはじめた。
一本だけの人もいれば、三本くらいまとめて持ってる人もいる。
みんなの手が、アントルメのうえに集まる。
炎のともったロウソクが、思いおもいの位置に立てられる。
直人さんも立てた。
ロウソクは、ぜんぶで十六本あった。
目のまえの、思いがけない、信じられないような出来事に、わたしはほとんどめまいすら覚えていた。
「おばさん、電気消してください」
「おばさんって呼ばないでっていってるのに」
おかあさんがぶつぶついいながら、照明のスイッチをきる。
窓の外のたそがれが、お店のなかに押しよせてきた。
十六本のロウソクのあかりだけが、チョコレートの花を照らし、わたしたちの瞳を輝かせてる。
「ハッピーバースデイ」
わたしの目を見つめて、直人さんがいった。
拍手がおきた。
いったいなんなの?
騒ぎに驚いて、おかあさんがお店にでてきた。
「その母君である!」
さらなる拍手。
おかあさんは目をまるくしてる。
直人さんの奇妙なしゃべりは止まらない。
「さて、ケーキをいただこうか」
「ええと……どれにしましょう」
「よくぞきいてくれた。ぜんぶだ。店じゅう買った!」
拍手と歓声。
「静粛に! 諸君、静粛に!」
また水をうったように静かになる。
「まあ、ぜんぶだしてくれ。もちろん金は払う」
「直人さん、酔ってますね?」
「軽く祝杯をあげてきた」
「なんの?」
彼は肩をすくめた。
それからお友だちを見わたして、
「あとで割り勘だからな」
ブーイング。
「あああああっ!」
直人さんがショウケースを指さして、また大声をあげる。
「なんと、たったのこれだけしか残ってない!? おいおい困るよ、おれはこの全員に、甘い冷や汗をかくまで食わせてやると約束しちまったんだから」
「……んなこといわれても」
「しょうがない。もったいないが、おれのケーキもだそう」
拍手と歓声。
直人さんはさげていた包みを、そっとカウンターにおいた。
結びめをほどき、箱の蓋をとる。
……大きな、褐色(かっしょく)の花。
そう見えたのは、薄いチョコレートのフリルでつくった、アントルメの飾りだった。
なんて大きな、そしてこまやかなケーキ。
店内がため息に満ちた。
続いて、割れんばかりの拍手と歓声。
「待て! 待て待て待て!」
直人さんは両手をふって、みなを静めた。
「なにか足りない」
上着のポケットを探りはじめる。
「なんと、こんなものがここに」
小さなロウソクがでてきた。
底に、ケーキに立てるための楊枝が突きだしてる。
おれも持ってた、わたしも……と、ほかの人たちもロウソクを取りだし、いっせいにライターで火をつけはじめた。
一本だけの人もいれば、三本くらいまとめて持ってる人もいる。
みんなの手が、アントルメのうえに集まる。
炎のともったロウソクが、思いおもいの位置に立てられる。
直人さんも立てた。
ロウソクは、ぜんぶで十六本あった。
目のまえの、思いがけない、信じられないような出来事に、わたしはほとんどめまいすら覚えていた。
「おばさん、電気消してください」
「おばさんって呼ばないでっていってるのに」
おかあさんがぶつぶついいながら、照明のスイッチをきる。
窓の外のたそがれが、お店のなかに押しよせてきた。
十六本のロウソクのあかりだけが、チョコレートの花を照らし、わたしたちの瞳を輝かせてる。
「ハッピーバースデイ」
わたしの目を見つめて、直人さんがいった。
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