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お菓子の家で恋がはじまる

お菓子の家で恋がはじまる

著: 津原やすみ
発行: 講談社
レーベル: 講談社X文庫ティーンズハート
価格:452円(税込)
10ポイント還元
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対応端末:パソコン ソニー“Reader”
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著者プロフィール

 津原 やすみ(つはら やすみ)
 1964年広島県広島市生まれ。89年春、津原やすみ名義で少女小説作家としてデビュー。以来八年間に三十余作を発表するが、96年暮れに少女小説から引退。97年秋、津原泰水名義で怪奇幻想小説『妖都』(講談社)を発表。綾辻行人、小野不由美、井上雅彦、菊地秀行の各氏に絶賛され、“本格ホラーの超新星”として脚光を浴びる。その後、アンソロジー《異形コレクション》(廣済堂)などに短篇を発表。現在、幻想長篇『ペニス』を小説推理(双葉社)に連載中。
 99年6月に連作短篇集『蘆屋家の崩壊』(集英社)を、近日中に怪奇小説『夜想曲』(角川ホラー文庫)、近未来小説『ハウンド』(講談社)を上梓予定。

解説

 亡きお父さんの夢を実現すべく、わたしとお母さんはついにケーキ工房『お菓子の家』を開店。味覚がまったくダメなお母さんと、フツーの高1のわたしが頼れるのはお父さんの残したレシピだけ。それでも、どうにか店をはじめた第1日目。謎の青年があらわれて「不味い」だって……。図星を突かれて声もでない私だったけど、その青年・直人さんは、なんとケーキ作りのプロだったの!
 口は悪いけど、とことん職人気質の青年と、15歳の少女のケーキ屋奮戦記!
 津原やすみ流、甘くて切ないロマンチック・ストーリー。

目次

1 縦長の家で夢がはじまる
2 さよならクラリネット
3 わたしたちの小さなお城
4 四つの顔を持つ男……?
5 おとうさんの声に似ている
6 十六歳のバースデイケーキ
7 夢の終わり
8 そして恋がはじまる
あとがき

抄録

 「さて諸君に紹介しよう。いま諸君の目のまえにいる彼女こそ、この『お菓子の家』の看板娘、市川真琴嬢その人である。アプローズ」
 拍手がおきた。
 いったいなんなの?
 騒ぎに驚いて、おかあさんがお店にでてきた。
 「その母君である!」
 さらなる拍手。
 おかあさんは目をまるくしてる。
 直人さんの奇妙なしゃべりは止まらない。
 「さて、ケーキをいただこうか」
 「ええと……どれにしましょう」
 「よくぞきいてくれた。ぜんぶだ。店じゅう買った!」
 拍手と歓声。
 「静粛に! 諸君、静粛に!」
 また水をうったように静かになる。
 「まあ、ぜんぶだしてくれ。もちろん金は払う」
 「直人さん、酔ってますね?」
 「軽く祝杯をあげてきた」
 「なんの?」
 彼は肩をすくめた。
 それからお友だちを見わたして、
 「あとで割り勘だからな」
 ブーイング。
 「あああああっ!」
 直人さんがショウケースを指さして、また大声をあげる。
 「なんと、たったのこれだけしか残ってない!? おいおい困るよ、おれはこの全員に、甘い冷や汗をかくまで食わせてやると約束しちまったんだから」
 「……んなこといわれても」
 「しょうがない。もったいないが、おれのケーキもだそう」
 拍手と歓声。
 直人さんはさげていた包みを、そっとカウンターにおいた。
 結びめをほどき、箱の蓋をとる。
 ……大きな、褐色(かっしょく)の花。
 そう見えたのは、薄いチョコレートのフリルでつくった、アントルメの飾りだった。
 なんて大きな、そしてこまやかなケーキ。
 店内がため息に満ちた。
 続いて、割れんばかりの拍手と歓声。
 「待て! 待て待て待て!」
 直人さんは両手をふって、みなを静めた。
 「なにか足りない」
 上着のポケットを探りはじめる。
 「なんと、こんなものがここに」
 小さなロウソクがでてきた。
 底に、ケーキに立てるための楊枝が突きだしてる。
 おれも持ってた、わたしも……と、ほかの人たちもロウソクを取りだし、いっせいにライターで火をつけはじめた。
 一本だけの人もいれば、三本くらいまとめて持ってる人もいる。
 みんなの手が、アントルメのうえに集まる。
 炎のともったロウソクが、思いおもいの位置に立てられる。
 直人さんも立てた。
 ロウソクは、ぜんぶで十六本あった。
 目のまえの、思いがけない、信じられないような出来事に、わたしはほとんどめまいすら覚えていた。
 「おばさん、電気消してください」
 「おばさんって呼ばないでっていってるのに」
 おかあさんがぶつぶついいながら、照明のスイッチをきる。
 窓の外のたそがれが、お店のなかに押しよせてきた。
 十六本のロウソクのあかりだけが、チョコレートの花を照らし、わたしたちの瞳を輝かせてる。

 「ハッピーバースデイ」
 わたしの目を見つめて、直人さんがいった。

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