和書>小説・ノンフィクション>ライトノベル>恋愛
著者プロフィール
森崎 緩(もりさき ゆるか)
ほのぼのしていたり、ひたすら穏やかだったりする話を書くのが好きです。「緩」という名前もそんな穏やかな空気をイメージしてつけました。
エナミ カツミ
引越ししようと賃貸物件をネットで探していると、予算を忘れ現実的に住めないであろう物件ばかりにお気に入りチェックするという無駄時間をすごしている自分に気づきます。むなしくなるので止めとけばよいのですがもはや賃貸閲覧が趣味です。
ほのぼのしていたり、ひたすら穏やかだったりする話を書くのが好きです。「緩」という名前もそんな穏やかな空気をイメージしてつけました。
エナミ カツミ
引越ししようと賃貸物件をネットで探していると、予算を忘れ現実的に住めないであろう物件ばかりにお気に入りチェックするという無駄時間をすごしている自分に気づきます。むなしくなるので止めとけばよいのですがもはや賃貸閲覧が趣味です。
解説
意を決して告白をした王子・カレル。その恋の相手が自分だと気づかない従者・マリエ。生真面目なマリエは、殿下の想いが叶うよう奮闘するのだが――。すれ違いから始まる、不器用な恋の行方は?
目次
人物紹介
懸想する殿下の溜息
あとがき
懸想する殿下の溜息
あとがき
抄録
「マリエ、面(おもて)を上げよ」
発せられた命令に、反射的に従った。
視界に飛び込むは強張る面持ち。
「許されぬことと知っていても、私はこの胸のうちを告げなければならぬ」
耳に聞こえるはかすれた声。真剣な眼差しは射抜くほどに鋭く、唇は重たげに、ゆっくりと続きを紡いだ。
「私は……どうやら、その」
青い目が泳ぎかけて戻り、マリエの面に留まる。
「想う相手が、いるようだ」
意を決したようにもう一言。
「私は懸想(けそう)をしている、ようなのだ」
息を呑んだマリエは、主の顔をまじまじと見つめた。その赤らんだ頬と逸らされた視線を見るに、告げられた言葉の意味を誤解することはなさそうだ。
重大な告白だった。
マリエは当年とって十八歳、だが城勤めの日々が災いしてかそういった事例とは縁遠く、これまで浮いた話の一つもなかった。そんなマリエを飛び越えて、年少の主からの告白があった。カレルは『そういった事例』を今まさに身をもって体験しているのだろう。
驚いた。殿下がついに、懸想をされるお年頃になったとは。
次いで別の思いが過ぎった。カレルには次期国王という身分とそれに付随するさだめがある。その上で想う相手がいて、しかも許されぬことだというのは、つまり。
カレルはマリエを見据えて、内心を見透かしたように弁解を添える。
「無論、王位を継ぐ者として、妃になれぬ女を想うなど許されない。しかしどうしても断ち切れずにいる。顔を見る度に想いは募り、心は一人に囚われて、他の者の入る余地もない。今の私には他の女を娶(めと)るなど考えられぬ。ただ一人を望んでいるのだ」
告白は尚も続いた。
「許されぬことであっても……せめて、伝えておきたかった」
握り固めた拳が小刻みに震えたが、言葉は震えていない。切なる願いに聞こえた。
「私はこの事実を、お前だけに打ち明ける。どうか聞いて欲しい。そして胸のうちに、忘れぬように留めておいて欲しい」
語った後でカレルはゆっくり息をつき、それから徐々に不安の色を覗かせた。
「マリエ。これがどういうことか理解しているか」
いくら疎いマリエでも、ここまで言葉を積み上げられればわかる。首肯して答えた。
「殿下がどなたかに想いを寄せておいでだと、そういうことでございますね」
その時、カレルが一瞬だけ妙な顔をした。何かはわからないが、何らかの失敗に気づいたらしい表情。しかしその失敗を自分のせいだと思ってもいないらしい表情。苛立ちを押し隠す為か深く息を吸い込み、落ち着き払って続ける。
「そうだ。……それでお前は、私の言った想う相手というのが誰か、わかるか」
今度はマリエも頷けなかった。全く心当たりがなかったからだ。
発せられた命令に、反射的に従った。
視界に飛び込むは強張る面持ち。
「許されぬことと知っていても、私はこの胸のうちを告げなければならぬ」
耳に聞こえるはかすれた声。真剣な眼差しは射抜くほどに鋭く、唇は重たげに、ゆっくりと続きを紡いだ。
「私は……どうやら、その」
青い目が泳ぎかけて戻り、マリエの面に留まる。
「想う相手が、いるようだ」
意を決したようにもう一言。
「私は懸想(けそう)をしている、ようなのだ」
息を呑んだマリエは、主の顔をまじまじと見つめた。その赤らんだ頬と逸らされた視線を見るに、告げられた言葉の意味を誤解することはなさそうだ。
重大な告白だった。
マリエは当年とって十八歳、だが城勤めの日々が災いしてかそういった事例とは縁遠く、これまで浮いた話の一つもなかった。そんなマリエを飛び越えて、年少の主からの告白があった。カレルは『そういった事例』を今まさに身をもって体験しているのだろう。
驚いた。殿下がついに、懸想をされるお年頃になったとは。
次いで別の思いが過ぎった。カレルには次期国王という身分とそれに付随するさだめがある。その上で想う相手がいて、しかも許されぬことだというのは、つまり。
カレルはマリエを見据えて、内心を見透かしたように弁解を添える。
「無論、王位を継ぐ者として、妃になれぬ女を想うなど許されない。しかしどうしても断ち切れずにいる。顔を見る度に想いは募り、心は一人に囚われて、他の者の入る余地もない。今の私には他の女を娶(めと)るなど考えられぬ。ただ一人を望んでいるのだ」
告白は尚も続いた。
「許されぬことであっても……せめて、伝えておきたかった」
握り固めた拳が小刻みに震えたが、言葉は震えていない。切なる願いに聞こえた。
「私はこの事実を、お前だけに打ち明ける。どうか聞いて欲しい。そして胸のうちに、忘れぬように留めておいて欲しい」
語った後でカレルはゆっくり息をつき、それから徐々に不安の色を覗かせた。
「マリエ。これがどういうことか理解しているか」
いくら疎いマリエでも、ここまで言葉を積み上げられればわかる。首肯して答えた。
「殿下がどなたかに想いを寄せておいでだと、そういうことでございますね」
その時、カレルが一瞬だけ妙な顔をした。何かはわからないが、何らかの失敗に気づいたらしい表情。しかしその失敗を自分のせいだと思ってもいないらしい表情。苛立ちを押し隠す為か深く息を吸い込み、落ち着き払って続ける。
「そうだ。……それでお前は、私の言った想う相手というのが誰か、わかるか」
今度はマリエも頷けなかった。全く心当たりがなかったからだ。
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