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魔人戦士

魔人戦士

著: 菊地秀行
発行: 実業之日本社
価格:525円(税込)
10ポイント還元
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対応端末:パソコン ソニー“Reader”
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著者プロフィール

 菊地 秀行(きくち ひでゆき)
 昭和24年、千葉県銚子市に生まれる。青山学院大学法学部卒業。在学中に推理小説研究会で活躍。卒業後は、フリーライターで雑誌等に寄稿のかたわら、小説を執筆。昭和57年『魔界都市〈新宿〉』で鮮烈なデビューを飾る。60年から『魔界行』『妖魔戦線』『妖獣都市』等、超伝記官能バイオレンスを発表し人気爆発、超売れっ子作家に。少林寺拳法をたしなみ、ホラー映画を愛し、とにかく小説を書くのが好きな好漢。

解説

 死なずの醍醐と異名をとるおれのもとに、学生同盟盟主の山冴勝明が訪ねてきた。用件は、日本に進出してきたアメリカのスチューデント・マフィアの手から、女を一人奪還してほしいというもので……。
 これは、頭を潰されても、腹にドでかい穴を開けられても、一度死んで、また生き返る……。そんな特異体質のおれじゃなければ到底ムリな仕事ってわけだ。
 199X年の犯罪都市・東京を舞台に、“死なずの醍醐”が、暴力と官能が渦まく待望のスプラッターを展開!

目次

PART1 闇シティ
PART2 鮮血シティ
PART3 血と女の夜
PART4 地獄へ出張
PART5 死人の戦士
PART6 朱色の決着
あとがき

抄録

 鋼が皮膚と肉を切り裂き、ついでに‘ぶつぶつ’と血管を切る。神経は悲鳴をあげるだろう。それが声になって出るのだ。
 この絶対の法則が、山冴には通用しなかった。
 格別、歯を食いしばりもせず、彼は七十秒の手術に耐えた。
 一気に刺し込んだメスで肉を広げ、内側の鉄片をピンセットでねじくり取る。
 幸い、内蔵の数センチ手前で止まっていたとは言え、おれが見ても荒療治なのに、一、二度眉をひそめただけで、悲鳴も漏れなかった。
 詰らないったらねえ。
「どんな感じだ?」
 とおれは血まみれの鉄片を、しげしげと眺めながら訊いた。
「痛いですが、わかりませんか?」
「はは」
 おれは、笑ってごまかした。
「あんたもこうなると、その辺の人間と変わらんな。子分にゃ、あんたが不死身だと信じてる奴もいるんじゃないのか?」
「かもしれません」
 と山冴は認めた。
 対毒抗素帯を貼ってから、おれはロッカーをひっかきまわし、Tシャツをみつけて、山冴に与えた。
「三日前に洗ったばかりだ。清潔は保証する」
「ご親切に」
「ビールでも飲むか?」
「よろしかったら、あれを」
 山冴の眼の向うで、おれがデスクの上に置き去りにした緑色の瓶が光っていた。
 黙ってグラスに注ぎ、手渡す。
「カナダ・ドライじゃありませんね」
 ひと口飲んで言った。
「あれは女子供用さ。こいつはブレナム・ジンジャーエールだ。一九〇五年操業。今でも頑固に昔の味を守ってる。――効くだろ?」
「かなり」
 と山冴はグラスの中味を見つめながら言った。
 酒でもビールでも、嗜好品すべてが甘っちょろくなる世の中で、この清涼飲料の生姜《ジンジャー》味は貴重な頑固さの自己主張だ。何から何まで楽な方へ流れちゃ、世の中、ロクなことにならねえ。
「ですが、創業は一九〇五年ではありません。四年です」
 おれは、じろりと山冴をにらみつけた。
「何で知ってる?」
「友だちに好きな奴がおりましてね」
 端整な顔がグラスに映っていた。
 曲面のせいで、泣き笑いの表情を浮かべているように見える。
「捕まってる女だが、何処にいる?」
「それは」
「いいから、言ってみなよ」
 そいつの名前は、ジョン・デナーと言った。思ったとおり、アメリカン・ユニバーシティの番長――と言うか、最高権力生徒――自治会長である。
 日本に住むアメリカ人のために、という名目で、麻布の一等地に総合大学が建設されたのは、二年前のことだ。
 考えてみれば、いわゆるアメリカン・スクールは、高校生までで、それ以上の学力養成機関としての大学があっても、ちっともおかしくない。折り良くブームになりつつあった“国際交流”の波に乗って、日本の大学が、セイロン島やアメリカ西海岸に分校をつくり、当然のごとく、お返しとして、アメリカの総合大学が日本に乗り込んできた。
 閉鎖的な社会が生まれるのではないかという危惧は、若者の柔軟性を信じよう、という識者の声に押し流され、学生たちもこれに呼応した。
 当初はうまくいっていた。――いや、表面上は今もうまくいっている。
 生徒間の交流は活発だし、予想されたトラブルは予想よりずっと小規模で数も少なく、外国人の数の多さをもって、国際都市というならば、東京はようやく、その名にふさわしい様相を呈してきた。
 日本の各大学も、アメリカ式のカリキュラムを取り入れだし、向うも日本式の利点を導入しはじめた。
 深刻な問題は全くなかったと言っていい。
 人々の知る限り。
 最初に、それに気づいたのは、やはり、山冴たちだった。
 彼らは、アメリカの若さと自由の象徴であるこの大学から、自分たちと同じ匂いを嗅ぎ取ったのである。
 暴力と退廃と――死の匂いを。

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