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旧暦はくらしの羅針盤

旧暦はくらしの羅針盤

著: 小林弦彦
発行: 日本放送出版協会
価格:420円(税込)
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対応端末:パソコン ソニー“Reader”
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著者プロフィール

 小林 弦彦(こばやし つるひこ)
  一九三八年大阪府生まれ。関西学院大学経済学部卒業。元、倉敷紡績株式会社常務取締役綿合繊事業部部長。旧暦の知識は、泰倉紡有限公司時代に華僑との交遊を通じて体験的に学んだ。タイ国より帰国後、繊維業界で旧暦活用の啓蒙運動をつづけ、「旧暦お天気博士」として有名。二十年以上にわたって三百回におよぶ講演や執筆活動を精力的にこなし、繊維業界のみならず全国に支持者がいる。

解説

 真冬なのになぜ「迎春」というのか? 俳句の季語とカレンダーの季節感がずれるのはなぜか? 答えは全部旧暦にある。旧暦は日本の季節を読むのに最も適したシステム。旧暦を見直して活用すれば、商売繁盛の決め手にもなる。毎日の暮らしが楽しく、古典や時代劇がもっと分かるようになる旧暦入門。

目次

はじめに


第一章 旧暦は商売の羅針盤
 儲けのチャンスを放棄しているバーゲン時期
 閏(うるう)月(づき)による季節の調節が、日本の気候にピッタリ
 季節のずれを商売に活用しよう
 ビジネス・ケース
 旧暦から天候を予測する
 平成十三(二〇〇一)年(辛巳)の天候予測
 平成十四(二〇〇二)年(壬午)の天候予測
 平成十五(二〇〇三)年(癸未)の天候予測
 景気に反比例して売り上げを伸ばす旧暦カレンダー
 アジアでのビジネスには旧暦は必須


第二章 旧暦の基礎知識
 (1)暦のいろいろ
 (2)日本の旧暦時代
 (3)旧暦の法則
  知っておくと便利な「二十四節気」の意味
  日常生活に取り入れられている「雑節」
  江戸時代の時間はのび縮みした
  「大安」を政府も気にしている?
  「暦注」とは
  「選日」について
 (4)はやかった明治の改暦


第三章 旧暦で本当の季節感を取り戻そう
 改暦後の矛盾
 季節に合った各月の異称と年中行事


第四章 旧暦余話
 旧暦こぼれ話
 旧暦を知ると、古典がこんなに分かりやすくなる
 こよみ考証で歴史観が変わる
 忘れられた七十二候
 干支について
 旬のもの


あとがき
参考文献


【図表一覧】
 新旧暦での季節のずれ
 閏月配置表
 21世紀旧暦正月閏月配置表
 二十四節気
 江戸時代の時刻と方位
 江戸時代の不定時法
 六曜星のきまり
 主な年中行事 新暦換算表
 五節供・中秋の名月 新暦換算表
 旧暦日付・月相・月の名称


【巻末付録】
 七十二候
 各月の異称の数々

抄録

はじめに


 旧暦とはどんな暦(こよみ)なのでしょうか。旧暦というと「ああ迷信か」と片づけてしまう人も多いと思います。
 私もバンコクでのある不思議な体験がなければ、旧暦との出会いはありませんでした。私は一九七三年から一九七七年までの四年間、タイ国バンコクに合弁会社の営業担当として駐在していました。商売の相手は華僑・華人です。私はバンコクが大変に好きになり、彼らと公私共々友人として密度の濃い交際をしており、今日まで続いています。
 当時私と非常に親しくしていたある老華僑が、毎年誕生パーティーに招待してくれたのですが、あるとき、彼の誕生日の日付が毎年違うことに気付きました。理由を聞くと、「誕生日は農暦(のうれき)で祝うのだ」と教えてくれたのです。
 それ以来、彼ら中国系の人々の日常生活を観察していますと、四季のないタイ国でも中国本土と同じ年中行事をしています。中秋節(中秋の名月)には月餅(げっぺい)をお互いに配りあって食べる習慣もあります。春節(しゅんせつ=旧正月)前になると、彼らの間で忘年会が始まるし、商家では大晦日(おおみそか)の前日に大掃除をして、従業員に年に一度のボーナスを支給します。大晦日から旧正月三ヶ日は休業です。日系企業に勤務している中国系の従業員は、有給休暇を取って旧正月を楽しみます。中国系の人々の結婚披露宴の招待状にも、西暦と農暦が併記されていることが多いのです。
 さっそく「農暦」とはどんな暦なのか調べてみると、日本で「旧暦」とか「陰暦」とか呼ばれているものだと分かりました。それで旧暦を研究しようと決心したのです。私のバンコク駐在生活最大の収穫が、旧暦との出会いでした。
 我々日本人は、中国人といえば漢民族として画一的に考えていますが、それが大きな間違いであることも、バンコクで知りました。同じ中国人といっても出身地によって話し言葉が全く違うのです。例えば、タイ国の中国系の六五%を占める潮州人(広東省)の喋る潮州語と標準語の北京語は全く違うし、広東語、上海語、南京語、客家語もそれぞれ異なります。
 しかし言葉は違っても、中国人としての共通のバックボーンが「農暦」なのです。中国本土をはじめ、台湾、香港、東南アジア、そしてアメリカや全世界に住んでいる華僑・華人は今でも年中行事の基準を太陽暦ではなく、この「農暦」においています。「農暦」での最大の行事が「春節」、いわゆる「旧正月」なのです。


 日本でも明治五年十二月二日まで、旧暦を使っていました。あとで詳しく述べますが、日本の歴史や生活習慣、年中行事も、旧暦を知るとよく理解できます。
 今から思えば、中学時代や高校時代に古文を習ったとき、もうひとつよく分からなかったのは、旧暦の基礎知識を教えてもらわなかったからだと気付きました。もしも旧暦の基礎知識を理解していれば、『源氏物語』も『枕草子』も『おくのほそ道』その他の古典もよく分かり、古文の時間が楽しかっただろう……と残念に思っています。
 旧暦を学ぶメリットは、文学や歴史がよく分かるようになるだけではありません。実は、日本の気候は、旧暦を下敷きにして考えると毎年の天候予測ができるようになっているのです。私は繊維業界におりましたので、四季の到来が順調であるかどうかを予測することが重要でした。繊維業界では「景気三割・天気七割」という諺(ことわざ)があるのです。繊維業界に限らず他のあらゆる業界にとっても、天候が売れ行きを左右します。旧暦を理解して天候が読めるようになれば、商売の上で大きなメリットがあるのです。
 日本人は、頭の切り替えの早い民族です。近代の歴史をみても「明治維新」と「終戦」という大きな転換期があり、それ以前の歴史の否定から、新時代がスタートしました。旧暦の廃止が、明治維新からわずか五年目に行われたことも、その証明です。
 先代の坂東三津五郎丈の芸談に面白い話があると、私の知人が教えてくれました。
「頭をあげると目がつぶれる……とおどかされ、頭を下げて拝聴しなければならなかった教育勅語が、終戦の途端に歌舞伎で弁慶の勧進帳の巻物になった。小道具が焼失したので知り合いの校長先生に頼みにいったら、あっさりと教育勅語を貸してくれた」、というのです。
 頭の切り替えの早さが、今日の発展には結びつきましたが、その半面、失ったものも多いのではないでしょうか。旧暦の喪失もそのひとつでしょう。失われた「旧暦」のほんの一端を紹介したのがこの本です。お読みになった方は「目から鱗が!」と感じられると確信しています。旧暦は、「くらしの羅針盤」だからです。
     小林弦彦


第一章 旧暦は商売の羅針盤
儲けのチャンスを放棄しているバーゲン時期


 バンコクでの四年間の駐在生活を終え、一九七七年に帰国後、私は営業課長職に就きました。しばらく日本を離れていたため、すべてが新鮮に見えましたし、疑問点も多く目につきました。そのひとつが、繊維製品のバーゲンの時期でした。
 七月一日になって、これから本格的に夏に入るのに、「夏物マークダウン」といって、大バーゲンをやっています。
 八月のお盆が過ぎると、まだ真夏なのに、秋物が店頭に並びます。
 十二月、これから冬に入る時に、「冬物大バーゲン」が始まります。
 なぜ、みすみす儲けのチャンスを、自ら放棄するのか。なぜ、季節の実際を考えないのか。原因はどこにあるのか、などと考えました。
 私は、原因は暦(こよみ)にある……と、気づきました。


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