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ある屍の恋 上

ある屍の恋 上


発行: キリック
シリーズ: ある屍の恋
価格:500pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
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解説

 イザナミ伝説ゆかりの土地で、古くから奇妙な因習に縛られた里、鳴神──。その集落には、黄泉への道「ヨモツヒラサカ」に通じる「千曳の岩」があり、先祖代々、それを守りつづける「鳴神一族」が住んでいた。一族に連なる高校一年の少年、鳴神伏人はその日、仲間たちとともに千曳の岩の奥で肝試しをしていた、はずだった。ところが気がついてみると、頭上には満点の星々。肝試しのさなか、何かおそろしいことが起きた気はするが、まったく思い出せない。一緒に肝試しをした仲間の、黒一、若姫、大悟、火影、拆香とは無事に合流を果たせたものの、何があったかについては誰も覚えていなかった。さらに、各々の無事を確かめ合うなかで、六人は自分たちの体の異変を自覚する。見えすぎる星々、妙に遅く飛ぶ羽虫、やたらと間延びした音。そして何より、誰もが息をしておらず、心臓も動いていなかったのだ。やがて、ヴァンパイアのような生ける屍「ヨモツイクサ」になったことを理解した六人は、その宿命に従い、人の血を吸い、肉を喰らい、死者を増やしながら、市街地を目指す。そんななか、人を殺すことに疑問を抱いた伏人が、車椅子に乗った人間の美少女、暁ひなたに恋をする。ひなたを、食べたい、犯したい、という内なる強烈な欲望に耐えながら、仲間を裏切り、彼女と旅をする道を選んだ伏人。死者と生者の間に芽生えた許されざる恋の行方は……?

 鬼才・梅津裕一が放つ、生死の境界を越えた究極のロマンスホラー、上巻!

目次

 第一部
 第二部
 第三部
 第四部
 第五部

抄録

 川辺で水かけをしている若い女性の豊かな胸を見たとたん、ありえないことが起きた。
 それは、伏人のような年ごろの少年にとっては、決しておかしな現象ではない。むしろ健康の証とすらいえるだろう。しかしそれは伏人が「人間であれば」の話だ。
 いまの伏人は「ヨモツイクサ」であり、すなわち死人なのだ。それなのに。
 陰茎が固くなっている。
 「って、おいおい、なんだこれ」
 黒一も自分の肉体の反応に、驚いたようだった。
 「伏人もチxコ勃《た》ったか? どうなってんだよ。こんなの『死人にはいらない』だろ」
 そのとおりだ。ヨモツイクサに生殖機能が必要とはとても思えない。
 「おかしな話だが、俺も反応しているぞ」
 大悟が不思議そうに言った。
 「これは……よくわからんが、なにか意味があるのかもしれない。女性陣はどうだ?」
 「デリカシーがないな」
 そういう若姫の瞳は、妖しく濡れているように思えた。
 「ただ……私は、妙な感じがする」
 火影と拆香を見ると、二人とも恥ずかしそうな顔をしていた。ということは、彼女たちもなにかを感じてはいるのだろう。
 「とりあえず……この欲望に関しては、まだちょっと様子見ということにしておこう。死人が子供をつくるはずがない」
 「でもそれをいえば、死人に食欲があるのも異常だぞ」
 若姫の言葉は正論だった。
 「それはそうだが……いまはとにかく、食欲を満たすほうが先決だ」
 「同感」
 黒一が賛同した。
 「って……お、いい具合に、こっちに女が一人、やってきたぞ」
 まだ相手とは距離があるのに、強烈なアルコール臭が漂ってくる。
 そこそこ整った顔立ちはしているが、美形など親族で見飽きている鳴神の者からすれば、ただの「よそ者の顔」にしか見えない。
 「おい……あの女、こっちに気づいてないみたいだけど……いったい、なにしにきたんだ」
 黒一の言葉に、若姫があきれたように言った。
 「こういうとき、女性が一人になる理由は一つしかない。鈍い奴だな、あいかわらず」
 「ああ、トイレか」
 黒一の言葉に、若姫が顔をしかめた。
 「わざわざ口に出していうな。そろそろ、向こうにも気づかれる距離だぞ」
 「まあな……」
 黒一が声を低めて笑った。
 「でも……はは、俺たちも肉食ったら、トイレいったりするのかねえ」
 「だから、黙れ」
 若姫が苛立ったようにつぶやいた。
 誰が決めたというわけでもないのに、一同は女を半円形に、包囲するように動きはじめた。
 これは「ヨモツイクサ」としての本能なのだろうか。
 それにしても、人間の女の動きはいらだたしくなるほどにのろかった。ほとんど不気味に感じられるほどだ。向こうのほうが、こちらよりはるかに「ゾンビのようだ」。
 女がジーンズのベルトに手をかけた、そのときだった。
 「いまだ」
 大悟の声とともに、六体のヨモツイクサはいっせいに、女に向かって殺到した。
 伏人の体も、ごく自然に動いた。先ほどまでの葛藤はいったいなんだったのかと思うほどに、体が軽い。
 血が飲みたい。肉が食いたい。
 驚くべきことに、最初に女の首筋に噛みついたのは、伏人だった。
 特になにかを考えていたわけではない。とにかく、飢渇《きかつ》から逃れたかっただけだ。シャワーのように、血が噴き出た。視界が真紅に染まったような気がした。
 伏人の顎は、がっちりと女の首筋を捕らえていた。そこから、驚くほどに大量の血があふれてくる。
 美味かった。これほど美味い飲み物がこの世に存在していいのか、と思えるほどの美味だった。炎天下でマラソンをしたあとに、蛇口からほとばしる冷水を一気に飲むよりも、さらに美味い。
 「ア……ア……」
 女はなにが起きたか、まったく理解していないようだ。
 「なんだよ……伏人、結局、お前が一番乗りじゃねえか」
 黒一が舌打ちした。
 「一人でがっつきやがって……くそっ」
 そういう黒一は、女の右太股のあたりに噛みついた。デニム地が紙のように破け、白い太股がたちまちにうちに血でにじんでいく。黒一が、太股の肉を、思いきり噛みちぎった。
 「ギャア……アア……アアアアア」
 あくまで緩慢な悲鳴が、夜のしじまに響き渡った。
 「馬鹿。どうせなら、殺してから食えばよかったのに」
 若姫の言葉に、黒一が反論した。
 「待てよ。生きているうちに食うのがいいんだろ。嘘だと思うなら若姫も食ってみろよ」
 すると若姫が、女の右腕を、一気に根本から引きちぎった。関節が破壊され、筋繊維や腱が断裂する、ゴムが弾けるような音が聞こえた。
 「あれえ、人間の腕って、わりと簡単に外れるんだ」
 あいかわらずの呑気な口調で、火影が言った。
 「いや、そんなに力を入れたつもりはなかったんだが……」
 「そうなの?」
 無邪気な顔をして、火影が女の左腕を引っ張ると、こちらもあっさりと根本から外れた。またゾンビのような不気味な声で、人間の女が泣いた。
 「うわあ、本当だ」
 そう言いながら、火影が腕の肉をフライドチキンのように囓《かじ》りはじめた。
 「ちょっとこれ、おいしい! こんなおいしいの、食べたことない!」
 「じゃあ、俺も試食を」
 今度は大悟が女の右のふくらはぎのあたりに噛みついた。デニム地と一緒に、皮膚と脂肪、そして大量の筋肉が骨から引きちぎられる。
 「なるほど……美味いな、こりゃ。人間でいたんじゃあ、こんな美味いものは絶対に味わえなかっただろうな」
 「伏人」
 背後から、声が聞こえた。振り返ると、拆香の小さな、白い顔が見えた。
 「私にも……ちょっと、血を吸わせて」
 伏人がうなずくと、拆香が驚くほどに敏捷《びんしょう》な動きで、女の首筋に歯を立てた。
 動脈からあふれる血をすする拆香の表情は、恍惚《こうこつ》としていた。

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