マイリストに追加

和書>小説・ノンフィクションホラーホラー小説

ある屍の恋 下

ある屍の恋 下


発行: キリック
シリーズ: ある屍の恋
価格:500pt
形式:XMDF形式⇒詳細 MEDUSA形式⇒詳細
対応端末:パソコン ソニー“Reader”スマートフォン タブレット
みんなの評価 ★★★★☆2
◆レビューを書く

¥0サンプル
XMDFのファイルをご覧になるにはブンコビューア最新版(無料)をインストールしてください。

「書籍ファイルが壊れています」と表示される場合は、ブンコビューアを最新版にアップデートしてください。
購入する


解説

 イザナミ伝説ゆかりの土地で、古くから奇妙な因習に縛られた里、鳴神──。その集落には、黄泉への道「ヨモツヒラサカ」に通じる「千曳の岩」があり、先祖代々、それを守りつづける「鳴神一族」が住んでいた。一族に連なる高校一年の少年、鳴神伏人はその日、仲間たちとともに千曳の岩の奥で肝試しをしていた、はずだった。ところが気がついてみると、頭上には満点の星々。肝試しのさなか、何かおそろしいことが起きた気はするが、まったく思い出せない。一緒に肝試しをした仲間の、黒一、若姫、大悟、火影、拆香とは無事に合流を果たせたものの、何があったかについては誰も覚えていなかった。さらに、各々の無事を確かめ合うなかで、六人は自分たちの体の異変を自覚する。見えすぎる星々、妙に遅く飛ぶ羽虫、やたらと間延びした音。そして何より、誰もが息をしておらず、心臓も動いていなかったのだ。やがて、ヴァンパイアのような生ける屍「ヨモツイクサ」になったことを理解した六人は、その宿命に従い、人の血を吸い、肉を喰らい、死者を増やしながら、市街地を目指す。そんななか、人を殺すことに疑問を抱いた伏人が、車椅子に乗った人間の美少女、暁ひなたに恋をする。ひなたを、食べたい、犯したい、という内なる強烈な欲望に耐えながら、仲間を裏切り、彼女と旅をする道を選んだ伏人。死者と生者の間に芽生えた許されざる恋の行方は……?

 鬼才・梅津裕一が放つ、生死の境界を越えた究極のロマンスホラー、下巻!

目次

 第六部
 第七部
 第八部
 第九部
 第十部
 第十一部

抄録

 まずい、と伏人は本能的に悟った。たぶん彼女は「生前」、剣道部に所属していたのだろう。その堂に入った構えには、本物の威圧感があった。
 竹刀がおそろしい勢いで、生き物のように伸びてくる。ヨモツイクサの筋力で振られた竹刀は、かなりの運動エネルギーを秘めているはずだ。もし「面」でもくらえば、おそらく伏人の頭は破裂するだろう。
 冷静に、伏人は判断した。この速度では、竹刀をかわすのは無理だ。
 ヨモツイクサの反応速度をもってしても、時間的に間に合わない。金属バットでうける暇さえなかった。あるいは、先ほどの小柄な少女は、伏人たちの意識をひきつける囮だったのかもしれない。
 こんなところで死ぬのか。いや、すでに自分は一度、死んでいるから破壊されるというべきか。
 だが次の刹那、竹刀の方向がいきなりずれた。
 「ぎいあああああああああああ」
 発狂でもしたかのように、竹刀の少女は床の上でのたうちまわっていた。ひなたの「銃撃」が、効いたのだ。竹刀が床を叩く、爆発音のような音が倉庫内にこだました。もし、この竹刀を食らっていたら、伏人の頭蓋は確実に砕かれていただろう。
 「二匹、退治したよっ」
 ひなたがうわずった声で言った。
 あと一匹も、この倉庫のなかにいると考えるべきだ。
 伏人は金属バットを手にしてはいたが、転げまわっている少女をあえて放置した。頭蓋を砕くのは簡単だが、その間に隙が出来ることを彼女は教えてくれたのだ。
 気配を探ってみるが、よくわからない。とりあえず、ひなたと車椅子を盾にするようにして、前へと向かう。
 「やめて……やめてください!」
 ふいに、甲高い少女の声が聞こえてきた。
 「お願い、私を見逃して! こんなのいや、いや!」
 「伏人……くん」
 なぜかひなたが、奇妙にゆっくりとした声で言った。
 「なんか……キュルキュルって……音が……聞こえるけど……あれは……なに?」
 ようやく伏人は事態を理解した。あれは「ヨモツイクサ本来の速度で話された言葉」だ。
 ずっとひなたとしゃべっていたせいで、会話のスピードが「人間モード」になるよう、伏人は無意識に調節していたのかもしれない。それが、ヨモツイクサの速度の言葉を聞いたせいで、自然と意識が切り替わり、ひなたの言葉が遅く感じられるのだ。
 「あれは……ヨモツイクサ本来の速度で、しゃべっているんだ」
 「なんて……言って……いるの?」
 ひなたのひどく緩慢な言葉が……実際には、伏人にそう聞こえているだけなのだが……なぜかいらだたしく思えた。
 「見逃してくれ、と言っている」
 それを聞いて、ひなたが顔をしかめた。
 「罠ね……ヨモツイクサが……そんなこと……」
 だが、本心で言っている可能性もある。
 ヨモツイクサは凶暴で冷酷、さらには人の生き血を吸い肉を喰らう。それは事実だ。
 しかし、なかには「ヨモツイクサに向いていない者」も、もしかしたらいるのかもしれない。心根の優しい少女にしてみれば、ヨモツイクサの世界は地獄そのものだ。
 伏人の知っているヨモツイクサはみな、よくも悪くも剛胆な性格をしていた。鳴神の集落の者たちなど、みなあっという間にヨモツイクサとして適応した。が、気弱だったり、臆病だったりする者にとっては、こんな生活は苦行でしかないのかもしれない。
 そんなことを考えながら慎重に歩を進めると、一人の少女が膝を抱える格好で座り込んでいた。初めて見る制服を着ている。橘ユミとはまた違う学校なのだろう。ひどく華奢で、なんとなく怯えた子鹿を思わせる少女だった。
 全体的に細身だが、胸だけはひどく発達している。そういえば黒一兄は巨乳好きだったからな、と思うと複雑な気分になった。
 「私……戦いとか、したくありません……だから……見逃してください……」
 少女はそう言った。覇気のかけらも感じられない。
 「もう嫌です……こんなの……生きている人を襲ったり……太陽におびえたり……おまけに、こんな……こんなこと……」
 「伏人くん。だまされちゃ……駄目」
 ひなたが言った。
 「相手はヨモツイクサなのよ……油断したらなにをされるかわからない」
 それをいえば俺だってヨモツイクサだ、という言葉を伏人はなんとかこらえた。
 こういう相手がいることは、想定もしていなかった。よくよく考えてみれば彼女は、黒一に強姦され無理やり怪物にさせられた、かわいそうな少女なのだ。
 「もう……いや……こんな……」
 「伏人くん……なにやってるの!」
 ひなたの車椅子がこちらに近づいてくる。
 「いい……伏人くんができないなら、私がやる!」
 「待て……ひなた!」
 だが、伏人の制止もむなしく、ひなたは水鉄砲を怯えるヨモツイクサの少女に向けた。
 桃を濃縮したジュース、ヨモツイクサにとっては致命的ともいえる猛毒が、少女に向かって放たれる。
 「いやああああああああああああああああ」
 少女がいきなり、のたうちまわりはじめた。
 「痛い! 苦しい! こんな……」
 聞くにたえない悲鳴を、少女はあげつづけた。
 いままでにない強烈な罪悪感を感じた。「彼女は本当に戦いたくなどなかったのではないか」という気がしてならない。
 「伏人くん……こういうときは、心を鬼にしないと駄目よ」
 そう言ったひなたの口元には、冷酷な笑みが浮かんでいた。

本の情報

この本を読んだ人は、こんな本も読んでいます

形式

【XMDF形式】

XMDFデータをご覧いただくためには専用のブラウザソフト・ブンコビューア最新版(無料)が必要になります。ブンコビューアは【ここ】から無料でダウンロードできます。
詳しくはXMDF形式の詳細説明をご覧下さい。

対応端末欄に「ソニー“Reader”」と表示されている作品については、eBook Transfer for Readerで“Reader”にファイルを転送する事で閲覧できます。
海外版の“Reader”は対応しておりませんので予めご了承くださいませ。

【MEDUSA形式】
MEDUSA形式の作品はブラウザですぐに開いて読むことができます。パソコン、スマートフォン、タブレット端末などで読むことができます。作品はクラウド上に保存されているためファイル管理の手間は必要ありません。閲覧開始時はネットに接続している必要があります。

詳細はMEDUSA形式の詳細説明をご覧下さい。